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ネット署名で中国側が世論工作か、処理水放出や防衛力強化を反対に誘導…専門家「分断広げる」

読売新聞 / 2025年2月12日 5時0分

 東京電力福島第一原発の処理水放出などに反対する国内の市民団体主催のオンライン署名を巡り、署名への参加を呼びかけるSNSの発信の中に、中国側の世論工作の疑いが強い投稿があることが海外調査機関の分析でわかった。SNS運営事業者が「中国国家による世論工作目的」と認定したアカウントと投稿パターンが共通していた。専門家は「日本の政策への反対署名を増やし、国内の分断を助長させる狙いではないか」と指摘する。(スタッブ・シンシア由美子、鈴木貴暁)

 世論工作に利用されたとみられるのは、処理水放出に反対する署名(2023年8月開始)と、自衛隊による南西諸島の防衛力強化に反対する署名(19年5月開始)。いずれも日本の市民団体がオンライン署名サイト「Change.org」に国内向けに公開した。

 中国による世論工作を巡っては、国家が関与した組織がSNSで偽情報や自国に有利な言説を発信しているとされる。SNS運営事業者はこうした投稿を監視し、「国家による世論工作目的」と判断されたアカウント(世論工作アカウント)を削除し、公表している。

 読売新聞は、24年1月時点で各署名サイトのリンクの投稿が確認された延べ1176アカウントについて、中国の世論工作に詳しいオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)に分析を依頼。ASPIは、このうちX(旧ツイッター)の4アカウントについて「世論工作目的の疑いが強い」とした。

 判断理由として、従来の世論工作アカウントとの共通点を指摘。▽同じニュース記事や投稿を拡散▽習近平シージンピン国家主席らを批判する中国反体制派の人物を攻撃▽中国外交官の投稿を拡散――などの点が共通していた。

 別の研究機関にも4アカウントを分析してもらったところ、台湾のサイバーセキュリティー企業「TeamT5」も「中国政府が一定程度、関与している疑いが強い」と判断。カナダの研究機関「シチズンラボ」の研究員は、投稿内容が日本やその外交関係に焦点を絞り、プロフィル欄に名前や居住地などの実在の人物を特定する情報がない点などから、「組織的に行われた可能性が高い」とした。

 4アカウントの一つは、処理水放出の反対署名サイトのリンクを23年に4回投稿していた。主催した「ふくしま復興共同センター」(福島市)は「署名は『国民的理解が得られていない』などの理由で行ったもので、世論工作目的に利用されたのだとしたら心外だ」としている。署名は計約15万筆が集まり、同年8月と昨年2月に岸田前首相に提出された。

 残りの三つは防衛力強化への反対署名サイトのリンクを22~23年に計9回投稿。主催した沖縄県石垣市の市民団体によると、約7000筆を集めたが、政府などには未提出という。

 4アカウントはフォロワーが少なく、署名数への影響は限定的とみられるが、ASPIは「国民の不信感をあおるため、将来的にこの種の手口が使われる可能性がある」と指摘する。

 中国は近年、SNSを通じ他国への世論工作を強めている。米調査会社「グラフィカ」によると、昨年11月の米大統領選前には、中国の世論工作目的とみられるXアカウントなどが候補者を誹謗ひぼう中傷し、米国の選挙の正当性に疑念を投げかける内容を投稿。銃規制やホームレス問題など、議論が分かれるテーマでも積極的に発信していた。

 世論工作に詳しい市原麻衣子・一橋大教授(国際政治学)によると、日本国内で対立する話題にも頻繁に投稿が行われているという。市原教授は「中国側は分断のあるテーマを狙い、分断をさらに広げるのが目的とみられる」と指摘する。

世論介入への対応困難

 オンライン署名は民意の表明手段として利用が広がっている。Change.orgの日本法人によると、同サイトは現在196か国で利用されている。日本版は2012年に始まり、23年には1092件の署名が行われた。一方、中国では同サイトがブロックされ、署名に参加できないという。

 世論工作目的に利用された疑いが強いことについて、同法人は読売新聞の取材に「(オンライン署名は)発信力のあるSNS等を使って拡散されることが多く、対策は現実的に不可能に近い」としている。

 ITジャーナリストの三上洋氏は「署名の主催者も参加者も、世論工作目的の介入が起こりうることを念頭に利用する必要がある」と指摘する。

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