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アングル:新型コロナで膨らむ支払い細る運用、保険業界に試練

ロイター / 2020年3月21日 8時9分

3月12日、世界の大手保険会社は当初、新型コロナウイルスに関わる保険金請求がもたらしうる影響を否定していた。写真は15日、ロンドンの地下鉄で撮影(2020年 ロイター/Henry Nicholls)

Carolyn Cohn

[ロンドン 12日 ロイター] - 世界の大手保険会社は当初、新型コロナウイルスに関わる保険金請求がもたらしうる影響を否定していた。しかし今、二重の苦しみに直面する可能性に気づきつつある。大きな投資損失が生じる一方で、保険金支払いが急増する状況だ。

感染症のまん延は免責扱いとなっていることが多く、当初の予想では保険金請求は低水準に留まると見られていた。だが、企業倒産が増加し、世界的な景気後退が迫る中、航空会社から小売業者に至るまで、取引信用保険に加入するあらゆる企業が苦境に陥っている。

その一方で、保険会社の投資運用も圧迫されている。

保険会社がグローバルに運用する資産は20兆ドル以上。景気後退の脅威の増大に応じて各国中央銀行が利下げに踏み切り、保険会社が保有する各国の国債も利回りが急落し、問題含みの資産になりつつある。

<保険金支払いも難題>

市場規模110億ドルの取引信用保険は、企業が売掛金を回収できなくなるリスクをカバーするものだ。フランスの信用保険ユーラーヘルメスがまとめた昨年末時点のデータによれば、すでに2019年には、企業の大型倒産が増加する傾向が強まっていた。

格付け会社ムーディーズは、保険金の支払い請求増加は、オランダのアトラディウス、フランスのコファス、ユーラーヘルメスの取引信用保険大手3社に打撃を与えうると予想している。ムーディーズはアトラディウス、コファス両社のデータを引用。潜在エクスポージャー合計の15%が、[大型倒産増加の]影響を最も強く受けている2地域であるアジア及びオーストラリアにあることを示している。

アトラディウス、コファス両社ともロイターの取材にコメントを控えたが、アトラディウスは先日、2020年は「主として新型コロナウイルスの感染拡大のため」、世界全体で企業倒産が2.4%増加すると予想していると述べている。

コファスのザビエ・デュラン最高経営責任者(CEO)はさきごろ、アナリストらに対し、最悪の影響を感じているのはアジアのホテル、航空会社だと述べた。またユーラーヘルメスでは、新型コロナウイルスで発生する企業の取引損失は、四半期あたり3200億ドルに達すると見ている。

各国で移動制限が続き、オリンピックなどの大型イベントが延期されるようなことがあれば、損失は一挙に高まる可能性がある。

欧州中央銀行(ECB)のクラース・ノット理事は2月、新型コロナウイルスの世界的な影響は、約20年前の重症急性呼吸器症候群(SARS)を上回る可能性が高いと述べた。SARSによって世界の証券市場は400億ドルを失ったという。

世界経済の景気後退懸念は、欧州の保険関連株に織り込まれはじめた。保険関連の株価指数は、致死性のあるウイルスによる影響への懸念が広まる前の2月19日につけたピークから30%も低下し、3年半ぶりの低水準となっている。

<文化、スポーツ、相次ぐイベント中止>

英保険市場ロイズのキャノピアス社で信用・政治リスク・危機管理部門を率いるバーニー・デ・ハルデヴァング氏によれば、取引信用保険の会社が最も警戒するのは、旅行や娯楽といったセクターになるだろうという。

航空各社は深刻な苦境に陥っている。ノルウェー航空は従業員を一時解雇するとともに、数千便の運航を取りやめた。英フライビーは経営破綻に追い込まれた。ハイアットなどのホテルグループ、カーニバルなどクルーズ船事業者、TUIなどの旅行業界でもキャッシュフローが潰滅的な状況にある。

イタリアやイスラエルといった国への渡航制限が保険金支払いをさらに膨らませる一方、米テキサス州の音楽・映画フェスティバル「サウス・バイ・サウスウエスト」など大型イベントの中止も保険金請求を増大させるだろう。

英バークレイズのアナリストは、独ミュンヘン再保険が新型コロナウイルスで受けた打撃は、「我々が考えていたよりも深刻な可能性がある」と警告する。世界的な再保険会社のミュンヘン再保険は、保険を引き受けた今年の大型イベントがすべて中止されれば、5億ユーロの損失を被るという。

さらに同社は、新型コロナウイルスによる死者が増えれば、生命保険関連の損失も生じるとしている。

米保険代理店のマーシュによれば、新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した中国では、いくつかの保険会社が取引信用保険から撤退するという思い切った動きに出ているという。

<運用でも損失が>

一方、保険会社が支払い原資を稼ぎ出すための投資も打撃を受けている。

米10年物国債の利回りは、2019年末の水準から半分以下に低下した。アナリストによると、保険会社の運用資産20兆ドルのうち、少なくとも半分は国債に投資される。

国債利回りが低下すれば、契約者に対する将来の支払いのためにより多くの資本準備が必要になり、支払い余力が損なわれる。

国債の利割りはずっと最低水準に留まっていたため、保険会社はよりリスクの高い社債投資に踏み込んでいった。保険会社を格付するAMベストによれば、2018年、米国の生命保険会社はポートフォリオの34%以上を「トリプルB」の債券に投資している。あと1段階下がれば「ジャンク」債である。

債務不履行の懸念が高まるほど、この種は利回りが上昇する。

株式へ投資比率が高まっていたことも、脆弱性を高めている。情報会社レフィニティブによると、2月19日に本格的な株価下落が始まって以来、世界の株式市場は約11兆ドルの価値を失った。

保険会社のなかで支払い余力が目立って落ち込んでいるのは、英国のリーガル&ジェネラルとM&Gだ。

保険会社は一般的に長期投資家であり、性急な投資判断を行わない。しかし、今後数週間は緊張した舵取りを迫られるだろう。

オランダのコンサルティング会社KPMGの保険担当、フェルディア・バーン氏は、「経済情勢が悪化すれば、保険会社は確実に投資の再評価を始めるだろう」と語る。

(翻訳:エァクレーレン)

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