焦点:テスラが新たな電池戦略、試されるマスク流「吸収」の極意

ロイター / 2020年9月21日 8時4分

9月17日、米電気自動車(EV)メーカー、テスラを16年間でほぼ無名の状態から世界最大の時価総額を持つ自動車会社へと大成長させたイーロン・マスク最高経営責任者は、革新者であり、既成概念を打破する人物だともてはやされている。写真は7月、モスクワを走るテスラのモデルX(2020年 ロイター/Evgenia Novozhenina)

[17日 ロイター] - 米電気自動車(EV)メーカー、テスラ を16年間でほぼ無名の状態から世界最大の時価総額を持つ自動車会社へと大成長させたイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、革新者であり、既成概念を打破する人物だともてはやされている。

しかしマスク氏の行動をたどってみると、むしろ「ファーストラーナー(知識や技術の獲得が早い人物)」という側面が強いことが分かる。テスラに欠けている技術を持つさまざまな企業と提携し、そうした企業の選り抜きの人材を引き抜いた上で、よりリスクを嫌うパートナーたちが超えられなかった限界を突破してきたのだ。

現在、マスク氏をはじめとするテスラ首脳陣は、22日に開く「バッテリーデー」で、サプライヤーにあまり頼らない、より「自給自足」的な企業になるための新たな取り組みを発表する準備を進めている。

<低価格で長持ちする新型バッテリー>

テスラが目指しているのは、EVのコストを下げてガソリン車との競争力を高められるようにする、低価格で長持ちするバッテリーの生産だ。マスク氏はこの面で、22日に大きな技術的進歩を明らかにすると何カ月も前からほのめかしてきた。

新しいバッテリーセルの設計や製造過程などが確立できれば、テスラはバッテリー生産で長年提携してきたパナソニック<6752.T>への依存を減らすことができる、と事情に詳しい関係者は話す。

テスラの元役員の1人は「イーロン(マスク氏)は事業のどんな部分も他者に依存するのが嫌いだ。そして良くも悪くも、彼は自分の方がうまく、迅速かつ安価にできると思っている」と明かした。

パナソニックや韓国のLG化学<051910.KS>、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)<300750.SZ>と結んでいるバッテリー生産の提携関係を、テスラは今後も継続するとみられている。

しかし同時に、EV用バッテリーパックの基本部品であるバッテリーセルの生産を自社で管理する態勢、つまり高度に自動化された2つの工場(1つはベルリン近郊に建設中、もう1つはカリフォルニア州フリーモント)に製造拠点を置く方向に動きつつある。

<全てを自前で改善する>

マスク氏は2004年、生まれて間もないテスラの経営権を握って以来ずっと、提携や買収、人材スカウトを通じて技術を十分に吸収し、自家薬籠中のものとしてきたと同社の戦略に詳しい関係者は証言する。

テスラの狙いはフォード・モーター が1920年代に導入した原料から完成車までの一貫生産態勢、つまり垂直統合型企業のデジタル版だ、という。

テスラのサプライチェーン担当幹部だったトム・ウェスナー氏は「イーロンはサプライヤーがやってきたこと全てを改善できると考えていた。文字通り全部だ。彼は逐一自前で製造したがっていた」と指摘する。

そうしたマスク氏の戦略にとっては、EVのコストの大部分を占めるバッテリーが中心的な存在になる。部下らはバッテリーセルの自社生産に何年も反対してきたのだが、マスク氏はなおも追求し続けている。

<提携関係は曲折の歴史>

テスラのある元役員の話では、マスク氏は2011年に社内のチームに自前でのバッテリー生産検討を指示。結局は13年になってパナソニックとの間で、ネバダ州の合弁工場「ギガファクトリー1」での生産協定を結び、パナソニックは最近、同工場の生産ライン拡張計画を打ち出した。

ところが今になって、テスラはフリーモントで試験的にバッテリーセル製造ラインを稼働させ、ベルリン近郊に本格的なセル製造施設を建設しようとしている。

テスラのこうした提携先との関係の曲折は、パナソニックだけの話ではない。例えば早くからテスラに出資していたダイムラー との協力を進める中で、マスク氏は自動車の走行レーン維持に使われるセンサー類に興味を抱いた。

テスラの「モデルS」の改装を手助けしたのはメルセデス・ベンツのエンジニアだ。しかし、この時点では、モデルSは、メルセデスの「Sクラス」にあるようなカメラや精密な運転支援センサー、ソフトウエアは装備していなかった。

ダイムラーのある幹部エンジニアは「マスク氏はこれらの技術を学び取り、さらに先に進んだ。われわれは我が社のエンジニア連中に、月を狙え(野心的な目標を立てろ)と言い聞かせているが、彼は一挙に火星まで行ってしまった」と驚きをあらわにした。

一方、やはり出資者だったトヨタ自動車<7203.T>はマスク氏に、品質管理のノウハウを伝授。最終的にはダイムラーとトヨタの何人かの幹部がテスラに合流し、アルファベット 子会社グーグルやアップル 、アマゾン 、マイクロソフト 、あるいはライバルのフォードやBMW 、アウディ などから集められた人材とともに、重要な役割を担っている。

<なお高まる不協和音>

だが当然のように、あつれきも生まれた。

テスラは14年、自動運転システムの設計知識を得る一環として、イスラエルのセンサーメーカー、モービルアイを提携相手に選んだ。モービルアイの元幹部の1人は、テスラの運転支援機能「オートパイロット」の陰の立役者はモービルアイだと話す。

ところがその後、両社の間に溝が生まれ、16年にオートパイロット使用中のモデルSが衝突事故を起こし、運転者が死亡したのをきっかけに、正式に提携を解消している。

このモービルアイ元幹部は、自動運転車の運転支援用であって完全自動運転向けには設計されていないモービルアイの技術を、テスラが不適切な形で用いたのは疑いの余地がないと憤りを見せた。

モービルアイの後を継いでオートパイロットのサプライヤーとなったエヌビディア も、最終的には距離を置くようになった。エヌビディア幹部のダニー・シャピロ氏は、マスク氏が垂直統合型企業になることを非常に重視していて、自社で半導体を製造することを望んだと説明した。

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