焦点:未曽有の危機に船出のバイデン政権、結果求められる重圧
ロイター / 2021年1月21日 8時55分
[ワシントン 20日 ロイター] - ジョー・バイデン氏は大統領選の間、「米国の魂」のために戦うと約束してきた。そして20日に第46代大統領に正式就任した今、ずたずたに打ちのめされたその魂をよみがえらせるという極めて困難な任務に、いよいよ正面から向き合うことになる。
歴代の大統領で、これほど厳しい環境での船出を迎えた人物はほとんど思いつかない。新型コロナウイルスのパンデミックがなお多くの生命を奪い、人々の生活を台無しにしているだけでなく、武装蜂起の恐れがくすぶり、トランプ前大統領は6日の連邦議会議事堂占拠事件を扇動したとして、これから上院で弾劾裁判に臨む。
選挙で不正があったというトランプ氏による根拠のない主張をまだ何百万人もの有権者が信じて疑わず、議会では勢力が伯仲する与野党が何らかの歩み寄りをしない限り、物事は決まりそうにない。こんな深刻な分断が起きている状況で、バイデン氏は米国を統治していかなければならない。
そこで自分が国家を団結させ、さまざまな政策を実行できると大見得を切ったバイデン氏は、実際に結果を示すことを強く迫られている。それも素早くだ。
長らく民主党ストラテジストを務めるジョー・トリッピ氏は「バイデン氏は新型コロナウイルスワクチン配布に注力し続け、(国民全体に届けるための)『最後の1マイル問題』を解決しなければならない。失敗や他に気をそらすことは許されない」と述べた。
バイデン氏は、議会が迅速に動いてほしいと考えている。政権チームが信じているのは、単に言うだけでなくきちんと結果を出すことが、政治的緊張を和らげる一番の方法だということだ。特にバイデン氏が経済の安定や学校再開、ワクチン普及に向けた第一歩として提案した1兆9000億ドル規模の追加経済対策の可決が求められている。
あるバイデン氏の顧問は、国民は政府が機能して政策を実行してほしいと望んでおり、トランプ支持者の多くもパンデミックで傷ついたと付け加えた。別の顧問は「暗闇から脱出する道はある。だがわれわれは議会の支援が必要だ」と訴えた。
ライス大学で大統領史を研究するダグラス・ブリンクリー氏は、バイデン氏の就任時の状況について、南北戦争勃発直前で暗殺の脅威にも直面していた1861年のリンカーン大統領になぞらえた。ブリンクリー氏は「当時は暴力のにおいがぷんぷんしていた」と語り、もちろん現在はそこまで危機的ではないとも認めた。
それでも連邦議会議事堂占拠事件は、バイデン氏の任期序盤に影を落とすだろう。上院でトランプ氏の弾劾裁判が開かれる以上、政権発足当初からバイデン氏が掲げる政策を法制化に十分手が回らず、重要閣僚指名承認が遅れても不思議ではない。
<カギ握る議会との関係>
トランプ氏就任時に比べて、バイデン氏の方が世論の追い風は強いだろう。ロイター/イプソスの世論調査では、バイデン氏の直近の支持率は53%と有権者の過半数を確保しているが、4年前のトランプ氏は46%だった。
バイデン氏にとっての好材料は、多数の国民が同氏なら議会と良好な関係を築けると期待していることだ、とジョージタウン大学政治・公共サービス研究員のエグゼクティブディレクター、モー・エライジー氏は語る。
エライジー氏は、議会との協調に前向きなバイデン氏の姿勢について「過去4年間われわれが置かれてきた状況から決別し、国民を一安心させる上で大いに役立つと思う」と高く評価している。
思い起こせば政治家としては「素人」だったトランプ氏は、議会の立法手続きと常に折り合わず、話し合いの場で自身の優先する政策を披露するのを断るケースもままあった。その挙げ句、大統領権限で何とか政策目標を達成しようと画策したのだ。
逆にバイデン氏は、オバマ政権時代に副大統領に就任するまで、デラウェア州選出の上院議員として35年の歳月を過ごしたベテラン政治家と言える。
とはいえバイデン氏には、上下両院で与党・民主党の優位が盤石とは程遠く、同氏が自由に動ける余地が乏しいという問題も抱えている。
下院ではペロシ議長が民主党左派から、できるだけ幅広い国民層に救済措置を講じ続けるよう圧力を受ける見込み。しかし包括的な対策を上院で可決しようとすれば、共和党側の支持が必要になり、共和党内にはそうした大規模な支援策に懐疑的な議員が存在する。
早速試されるのは、バイデン氏と上院共和党のマコネル院内総務の関係性だ。かつて共和党全国委員会の幹部だったダグ・ハイア氏は、新型コロナ対策に関してはマコネル氏がバイデン氏に協力する動機があると指摘。「観光、航空、飲食店などさまざまな業種が休業し、米国の全ての地域に影響が及んでいる」とその理由を説明する。
ただバイデン氏のチームが対策の中に、連邦ベースの最低時給を15ドルとするなどの左派的な措置を盛り込んだため、共和党の反発を招いて紛糾してしまうかもしれない。
<政治疲れの癒やし>
新型コロナ対策より先の話になれば、事態はもっとややこしくなる。オバマ政権時代、マコネル氏ら共和党幹部はオバマ氏の政策への反対姿勢を貫くことを選挙戦略と定め、まず2010年の中間選挙で下院の多数派を奪回した後、結局上院も握ったため、せっかくオバマ氏が掲げた野心的な政策はほとんど頓挫してしまった。その一部始終を、バイデン氏は目撃してきた。
まして新議会で民主党がかろうじて多数派となる点からすれば、バイデン氏は慎重に振る舞って、共和党につけいる隙を与えないようにするしかない。つまり同氏が打ち出した2兆ドルの気候変動対策を議会に付すのをひとまず見送り、当面は大統領令で対応することになる、というのが側近の見立てだ。
一方、バイデン氏には1つ感謝すべき材料がある。就任初日からトランプ氏によるツイッターを通じた「口撃」にさらされなくて済むということだ。トランプ氏が政治活動を取りやめると予想する人は誰もいないが、ツイッターのアカウントを永久停止されたため、バイデン政権が被る「迷惑」はその分軽くなるだろう。
ブリンクリー氏は、トランプ氏がずっと選挙結果に異議を唱えたことや連邦議会議事堂占拠事件で国民の神経がぼろぼろになったので、バイデン氏は単に就任しただけで1つの政治的成果を得られると断言。「これまで政治に振り回された1年で皆が疲弊している。ようやく新大統領を迎えたという気分によって、不安が大いに和らぐ」と述べた。
(James Oliphant記者)
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