アングル:マイナスに沈んだ物価指標、浮揚阻む複数の壁 上昇の鈍さ来年度も
ロイター / 2021年8月20日 15時4分
経済の立ち直りの鈍さを反映して、日銀が目指す物価上昇の姿が見えてこない。5年に一度の基準改定でマイナス圏に沈んだ消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)には浮揚を阻む複数の要因が立ちはだかっている。写真は2017年3月、都内で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
和田崇彦
[東京 20日 ロイター] - 経済の立ち直りの鈍さを反映して、日銀が目指す物価上昇の姿が見えてこない。5年に一度の基準改定でマイナス圏に沈んだ消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)には浮揚を阻む複数の要因が立ちはだかっている。携帯電話の通信料金値下げといった技術的な影響がはく落しても、需給ギャップそのものの解消に時間がかかり、2022年度も低い物価水準にとどまる、との予想が早くも聞かれる。
<15年基準なら3カ月連続の上昇>
総務省が20日に発表した7月のコアCPIは前年同月比マイナス0.2%。今回から2020年基準に切り替わったが、携帯電話通信料金のウエートが大幅に上昇したことで、12カ月連続のマイナスとなった。総務省によれば2015年基準ならプラス0.4%。エネルギー価格の上昇を追い風に3カ月連続で伸び率拡大となる。
<焦点の22年度、コアCPIの上昇は鈍く>
20年基準でも、コアCPIはマイナス幅を徐々に縮めており、市場では近いうちにプラス圏に浮上する可能性があるとの見方が出ている。
焦点は、携帯料金の値下げ効果がはく落する22年度のコアCPIだ。エコノミストの間では、7月に総合指数を1%ポイント程度下押した携帯料金の要因がなくなっても、伸び率は大きくなりにくいとの見方が目立っている。
信金中央金庫、地域・中小企業研究所の角田匠上席主任研究員は、22年度のコアCPIはプラス0.5%と予想する。新型コロナウイルス感染症の終息を前提に個人消費が戻ると予想するものの戻りは鈍く、需給ギャップの解消には時間がかかるとみている。GDPが年内にコロナ前の19年10-12月期の水準に戻るとの政府試算に対して、信金中金は「早くて来年1-3月期」(角田氏)とみている。
大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは「米国のように賃金上昇が見込めない中で、ウエートの高いサービス価格が上昇する絵は描きづらい」と話している。
物価のかく乱要因となってきた政府の観光需要喚起策「GOTOキャンペーン」の後ずれの影響を指摘する向きもある。
UBS証券は10日付のリポートで、基準改定を踏まえて物価見通しを変更した。コアCPIについて、21年は平均でマイナス0.3%(従来はプラス0.2%)、22年はプラス0.1%(同プラス0.5%)とし、21年だけでなく、22年も引き下げた。
栗原剛次席エコノミストは、22年のコアCPI予想引き下げについて「GOTOトラベルの前提変更が主因」と説明。それに加えて、携帯電話通信費も価格競争や一定数のユーザーが引き続き割安なプランに移行することにより、引き続き押し下げ要因になりそうだとみている。
同証券は、デルタ株のまん延を受けてGOTOキャンペーンの再開時期の予想を22年1月、期限を同年末に変更した。従来は21年10月再開、期限は22年6月と見込んでいた。昨年、GOTOキャンペーンが実施されCPIが下押された反動で、8月から12月までのコアCPIは0.5%―0.6%ポイント押し上げられるとみている。
<金融緩和、「粘り強く続けるしかない」>
日銀は7月の展望リポートで、21年度のコアCPIの政策委員見通し中央値を前回のプラス0.1%からプラス0.6%に大幅に引き上げ、市場にはサプライズとなった。10月の展望リポートでは一転、下方修正が避けられないとみられている。
9月以降は電気・ガスや食料品の値上げが相次ぎ、コアCPIは底堅い動きが続きそうなものの、上昇力には欠ける。大和証券の岩下氏は「日銀は粘り強い緩和を継続するしかない」とする。
(和田崇彦 グラフ作成:照井裕子 編集 橋本浩)
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