焦点:ガザの戦後、統治主体で混迷 イスラエル占領なら紛争激化も
ロイター / 2023年11月20日 15時13分
11月17日、イスラエルがパレスチナ自治区でイスラム組織ハマスを壊滅させ、同地を占領したとしても、その後に軍を引き揚げてパレスチナ国家を再建する道筋をつけるための信頼に足る「戦後計画」がないままでは、流血や紛争が果たしなく続く恐れがある。写真はガザとされる場所で作戦を行うイスラエル兵士ら。16日提供(2023年 ロイター/Israel Defense Forces)
Samia Nakhoul Humeyra Pamuk Matt Spetalnick
[17日 ロイター] - イスラエルがパレスチナ自治区でイスラム組織ハマスを壊滅させ、同地を占領したとしても、その後に軍を引き揚げてパレスチナ国家を再建する道筋をつけるための信頼に足る「戦後計画」がないままでは、流血や紛争が果たしなく続く恐れがある。米政府やアラブ諸国の高官、外交関係者や専門家は、口をそろえてこう警告している。
2人の米政府高官や4人のアラブ諸国当局者、事情に詳しい4人の外交関係者らに話を聞いたところ、これまでイスラエルや米国、アラブ諸国のいずれも、戦後のガザ統治を軌道に乗せられるような構想を打ち出せていない。つまりイスラエル軍がいつまでも、治安活動を続けざるを得ない泥沼に入り込みかねない。
イスラエルはガザ北部の支配を強化するばかりで、速やかな軍事的勝利の後で何年にもわたる現地での暴力的な反抗に悩まされた米軍のイラクやアフガニスタンにおける経験を全く学んでいない、という声が米国やアラブ諸国の一部からは聞こえてくる。
ガザでハマスの実効支配が崩されても、インフラが破壊され、経済が壊滅した後では、住民の間には過激思想が広がり、イスラエル軍を標的にした攻撃が助長される可能性があるとみられている。
イスラエルと米国、多くのアラブ諸国は、10月7日にイスラエルへ奇襲攻撃をかけたハマスは追い払われるべきだ、との意見で一致する。しかし、ハマスの代わりに誰がガザを統治するのかという点で、合意は全く形成されていない。
西側やアラブ諸国は、ヨルダン川西岸を部分的に統治しているパレスチナ自治政府の地位を再び強化して、ガザ統治でより大きな役割を持たせるのが自然だ、との見解を示してきた。
ただ、87歳になったアッバス議長率いるパレスチナ自治政府は、2007年にハマスとの闘争でガザの支配権を失ったことや、ヨルダン川西岸へのユダヤ人入植に歯止めをかけられないことで信頼感が薄らいでいる。そればかりか、汚職のまん延と行政能力の低さに批判が集まっている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、現在のパレスチナ自治政府の状態では、ガザ支配権など与えるべきでないと主張。イスラエル軍だけがハマスを一掃し、テロの再発を確実に防止できると訴えた。イスラエル政府はこの発言後、同国がガザの占領を意図しているわけではない、と補足説明している。
ガザの支配権をハマスに奪われるまでパレスチナ自治政府のガザ地区治安責任者を務め、現在はアラブ首長国連邦(UAE)に活動拠点を置くモハメド・ダーラン氏は、イスラエルがガザの支配を強めれば戦争が終わると信じているなら、間違いだとくぎを刺した。
ガザで戦後のパレスチナ自治政府のリーダー候補の1人と目されているダーラン氏は「イスラエルは占領軍であり、パレスチナ人は占領軍として対応する。ハマスの指導者も戦闘員も誰1人として降伏などしない」と述べた。
ダーラン氏は、ガザの戦後統治を託す人物としてUAEの支持を得ているとされる。だが、はっきりした政治的な進路が見えない中では、誰も統治の任になど当たりたくないと指摘。「イスラエル、米国、国際社会からは何もビジョンが見えてこない」と語り、イスラエルに対しては戦争を打ち切って、「二国家共存」の解決を目指すための真剣な協議を始めるよう呼びかけた。
バイデン米大統領は15日、ネタニヤフ氏にガザを占領するのは「大間違い」だと警告はしている。それでもイスラエルから米国や同盟諸国に、ハマスを壊滅させた後にガザからどのように撤退するのか、明確なロードマップは示されていない。
複数の米政府高官は今、イスラエル側に現実的な目標設定とそれをどう達成するのか、計画を策定するよう圧力をかけている。
一部の米政府高官が懸念しているのは、いくらイスラエルに自衛権があるとはいえ、これだけ多数の民間人犠牲者が生じた結果として、パレスチナ人がより過激化してハマスの戦闘員を増やすか、別の軍事組織の誕生をもたらしてもおかしくないという点だ。
ロイターがガザ住民に取材したところでも、イスラエルの侵攻で新しい抵抗の世代が生まれたことが分かった。公務員として働き、現在ジャバリヤ難民キャンプで暮らす37歳の男性も、イスラエルの占領下で生き残るぐらいなら、死を選ぶと断言した。
<米国主導の協議>
米政府がガザの戦後について、パレスチナ自治政府や他の利害関係者、エジプト、ヨルダン、UAE、サウジアラビア、カタールといった同盟国と進めている話し合いは、まだ始まったばかりだと、2人の米政府高官は明らかにした。
米政府高官の1人は、地域の友好国に同意を求める働きかけができるほど構想が固まっていないと話す。
バイデン氏は以前から、ガザとヨルダン川西岸を統合するパレスチナ国家とイスラエルの二国家が共存するというビジョンとともに戦争を終わらせるべきだと主張している。
だが、同氏や側近から具体的な達成方法は何も提示されず、協議再開の提案はなされていない。
何人かの専門家は、協議再開に向けた取り組みは非常に困難だとみなしている。それはもちろん、10月7日の奇襲攻撃でイスラエルのハマスに対する態度が一気に硬化し、イスラエルの容赦ない反撃がパレスチナ人の反発を招いたのが大きな原因であることは言うまでもない。
事情に詳しいある人物は、バイデン氏がより控えめな決定を下すかもしれないと予想する。例えば、最終的な協議再開に至るおおよその経路をまず定める、といった内容だ。
バイデン氏の側近らも、パレスチナ国家という概念すら拒否しているネタニヤフ氏と極右連立政権は、協議再開には気乗り薄だと認めている。
来年の大統領選をにらみ、ユダヤ人や親イスラエルの有権者の離反を恐れるバイデン氏が、ネタニヤフ氏にパレスチナ側への譲歩を強いるのをためらっている面もありそうだ。
一方で、ブリンケン米国務長官は繰り返し、米政府は「テコ入れされた」パレスチナ自治政府がヨルダン川西岸とともにガザを統治するのが望ましいと考えていると説明している。
ところが、2005年に議長となったアッバス氏が率いるパレスチナ自治政府は、1993年のオスロ合意で概略が示された二国家共存が遠のいてしまったことで、信頼が損なわれてしまった。
そこで複数の外交関係者は、アッバス氏を「名誉職」に祭り上げ、若い指導者への交代を図ることが可能ではないかとの見方を示した。
欧州の外交関係者の1人は、パレスチナ自治政府にガザの戦後支援の配分において重要な役割を与え、統治機構としての正統性を復活させる案も議論されていると述べた。
パレスチナ自治政府のある高官は、ガザを同政府の手に戻すのが唯一受け入れ可能なシナリオであり、米国や西側諸国もそれを議論していると強調した。
この高官は、ダーラン氏や他の人物が統治責任者になるという提案については、コメントを拒否した。
戦後のガザ統治を巡っては、国連とアラブ諸国軍の支援を受けた行政機関が受け持つ案も浮上しているが、エジプトを含めた肝心の主要なアラブ諸国が難色を見せている。
アラブ諸国の軍がガザに入れば、パレスチナ人に武力を行使せざるを得ない場面に見舞われるが、そこで実際に武力を用いたいと思うアラブ諸国は存在しないからだ。
<難しいアッバス氏の後継者選び>
多くのパレスチナ人の間でアッバス氏の人気がないとしても、代わるべき指導者についても意見がそろっていない。
例えば、ダーラン氏はエジプトやイスラエルには受け入れられる公算が大きいとはいえ、ガザの治安責任者だった時代に米国との距離が近かったため、議長になればあらぬ誤解を招きかねず、長年にわたってアッバス氏や自治政府の要職者と確執があり、ハマス支持者とも対立してきた。
パレスチナ人の間で人気が高いのは、元ファタハ司令官で2004年にテロへ関与したとしてイスラエルに逮捕・収監されたマルワン・バルグーティ氏だが、イスラエル側が釈放したがらない以上、次期指導者になる現実味は乏しい。
米政府高官の1人は、地域の各勢力がそれぞれ自らに有利な人物を手駒として持っているので、アッバス氏の後継者選びは難しくなるとの見通しを示した。
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