焦点:増える「在宅勤務トレーダー」、不正取引どう監視するか
ロイター / 2020年7月21日 7時44分
7月15日、カナダの金融機関は従業員がトレーディング業務を在宅で行うなど、テレワーク化が急速に進んでいる。写真は3月、在宅勤務に備えて機材を取り外すニューヨーク証券取引所のトレーダー(2020年 ロイター/Lucas Jackson)
[トロント 15日 ロイター] - カナダの金融機関は従業員がトレーディング業務を在宅で行うなど、テレワーク化が急速に進んでいる。しかし一部の専門家は、権限を逸脱した行為やインサイダー取引の可能性への対策の強化が不可欠だと指摘しており、業務監視体制の真価が問われている。
カナダ銀行(中央銀行)は5月、テレワーク化の進展で取引パターンの変化といったトレーダーの監視が困難になるなど、金融機関には業務上のぜい弱性が高まる恐れがあると警告を発した。
これまでのところ金融機関や規制当局による監視体制の大幅な見直しはなく、ほとんどのトレーダーがテレワークを開始した3月以降、疑わしい活動は表沙汰になっていない。
しかしリスクを警戒する声もある。
トロント大学のマリウス・ゾイカン准教授(金融学)は「在宅勤務の場合、何かの問題や不正行為を発見するのにより多くの時間がかかる」と指摘。新型コロナウイルス危機に伴う市場のボラティリティ上昇やリテール取引の急増で、当局が不正の兆しを探す際の「雑音」が増えているという。
カナダ証券取引所のリチャード・カールトン最高経営責任者(CEO)によると、債券など、監視の甘い、店頭市場で扱われる金融商品のリスクが高い。
ゾイカン氏によると「銀行の技術は(在宅で)トレーディングを行い、注文を受け付けて執行するには十分」だ。しかしリモートトレーディングは、取引フロアのカメラや職場の監督責任者といった手厚い監視体制がなく、「死角」が存在する。
市場規制を担うカナダ投資業規制機構(IIROC)が直接的な監査、IDチェック、報告期限などの項目の適用免除を提示したことも、不正行為の発見を遅らせる可能性がある。
ゾイカン氏によると、今の監視体制は取引を実行したトレーダーやインサイダー取引の特定といった分野は捕捉できていない。
コンサルタント会社カプコのカナダ担当CEO、クリス・フォード氏は、監視体制にはパソコンのキーボードの打ち込み記録を含めるとともに、企業の機密情報はクラウド上のみに置くべきだと述べた。
IIROCの広報担当者は、新型コロナ大流行でもたらされた変革が将来の「教訓になる」ことを期待しているが、こうした課題について議論するのは早計だと述べ、監視体制の手直しは視野に入っていないと示唆した。
市中銀行も監視体制の見直しは手付かずだ。
トロント・ドミニオン銀行
銀行最大手のカナダ・ロイヤル銀行
ナスダック
ノバスコシア銀行
IIROCの元幹部でカナダ技術規制協会(CRTA)の役員であるウェンディ・ラド氏は、テレワークとのギャップを埋める技術は存在するが、中小企業には伝わっていない恐れがあり、大手は採用に消極的かもしれないと話した。
アベニュー・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ブライデン・タイク氏は「変化のスピードが非常に速く、規制当局やコンプライアンス当局は迅速に対応する必要がある」と訴えた。
IIROCの監督機関であるカナダ証券管理局(CSA)は今秋、取引後の市場の動きを分析するシステムを導入する予定だが、当初は株式取引だけが対象になる。
(Nichola Saminather記者)
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