アングル：簡単ではない最貧国の債務免除、副作用の懸念も

　４月２０日、新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、複数の債権国から最貧国の債務返済猶予を呼びかける声が上がっている。しかし、問題はそう単純ではないとの指摘もある。写真はセネガルのダカールで３月撮影（２０２０年　ロイター／Zohra Bensemra）

［ロンドン　２０日　ロイター］ - 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、複数の債権国から最貧国の債務返済猶予を呼びかける声が上がっている。しかし、問題はそう単純ではないとの指摘もある。

２０カ国・地域（Ｇ２０）財務相・中央銀行総裁は１５日、最貧国の債務返済を一時的に停止することで合意。一方、世界銀行のマルパス総裁は、最貧国に対する債務救済には民間部門の債権者による協力が必要で、公的機関任せの「ただ乗り」は許されないという考えを示した。

当事者全員が問題を認識してはいる。年内に返済期限が到来するアフリカ諸国の債務は計４４０億ドルに上り、デフォルト（債務不履行）はすでに始まっている。

慈善団体の推計によると、１２１カ国の低中所得国は昨年、公衆衛生の整備よりも債務返済に多くの資金を費やした。現在の状況下では看過できない人道上の問題だ。

貧困国の債務問題に詳しいグレイロック・キャピタルのハンス・フームズ氏は「（民間部門の）債権者からは、債務国が一息つけるよう、より建設的になろうという意思表示がなされている」と指摘。経済の縮小規模が甚大ななか、言うまでもなく救命が最優先事項だと付け加えた。

しかし、善意と理解を超越したところに複雑な問題はある。

投資会社ＴＣＷの新興国担当マネージングディレクター、デビッド・レーヴィンガー氏は、債務返済猶予は結局のところ債務再編につながる、と指摘する。債務再編は複雑で通例かなり時間を必要とするが、債務国にその余裕はない。

その結果、債務返済を続けるか、返済を停止して人工呼吸器や医薬品に資金を振り向けるかの二者択一を迫られる。

レーヴィンガー氏は「こうした国にとっては、債務返済をしないことが正しい選択肢だ。我々は債権者として事情を理解し、こうした国に喜んで協力したいと考えている」と述べた上で、「しかし、格付け機関からは債務不履行とみなされてしまう。この問題にも対処しなければならない」とした。

また、ＴＣＷのレーヴィンガー氏は、デフォルトにより債務国が「ハゲタカファンド」の餌食になりやすくなると指摘する。過去に、債務国政府の資産をそうしたファンドが獲得しようとした例がいくつもあったという。

そうしたリスクから債務国を守るため、公的債務契約の根拠法となる英米法を一時的に改正すべきだとの声も上がっている。

しかし、それさえもまた別の問題を引き起こす。

民間債権者はすでに、国際通貨基金（ＩＭＦ）緊急融資が債務水準をさらに膨らませていると懸念を表明している。緊急融資は返済順位が高いために、他の債務返済に回す資金が不足してしまうという。

また、伝統的な法的権利が制限されれば、別の伝染病やバッタの異常発生など、次の危機が起きたらどうなってしまうのか、という懸念も生じる。

バンガードの新興国債券担当、ニック・アイジンガー氏は、借入コスト上昇のリスクは、Ｇ２０各国が民間債権者に債務返済猶予への参加を「強要」することが難しくなることを意味する、と指摘する。

民間債権者の協力を呼び掛けている金融機関の国際業界団体、国際金融協会（ＩＩＦ）でさえ、債務返済猶予は自発的なものでなくてはならず、当該債務国から公式に要請があった場合にのみ検討するとの立場を示している。

アイジンガー氏は「現時点では、あくまでも善意の表明であり、法的な拘束力はない。多くの国が、ユーロ債市場を通じた資金調達手段を失いたくないと考えているのも事実だ」とした。

ただアイジンガー氏は、いずれにせよ大きな違いはないとみている。サハラ以南のアフリカ諸国によるユーロ債の利払いは約２５億ドルに上り、来年は約３０億ドルに拡大する見通しだが、元本返済は数億ドルにとどまっている。

「もし民間債権者も返済猶予に加わるよう無理強いされれば、支援よりもむしろ害になるだろう。民間の大きな資金源を途絶することになるからだ」とアイジンガー氏は言う。

グレイロック・キャピタルのフームズ氏は「長期的な問題の解決手段として債務返済の一時猶予を使用するのは建設的ではない」と指摘。財政問題の安易な解決法としないよう警鐘を鳴らした。

（Marc Jones記者、Tom Arnold記者）