焦点:コロナからの回復、中国先行で明暗 鉄鋼は輸出増再来を懸念
ロイター / 2020年5月21日 13時4分
5月21日、世界的な新型コロナウイルスの蔓延から、中国がいち早く回復の動きを見せている。日本企業にとっては、工場の再稼働や部品輸出の復活、消費の回復など「明」の側面がある一方で、中国の勢力が増す「暗」の部分もある。写真は中国・武漢市の自動車工場。4月撮影(2020年 ロイター/Aly Song/File Photo)
[東京 21日 ロイター] - 世界的な新型コロナウイルスの蔓延から、中国がいち早く回復の動きを見せている。日本企業にとっては、工場の再稼働や部品輸出の復活、消費の回復など「明」の側面がある一方で、中国の勢力が増す「暗」の部分もある。需要減の直撃を受けている鉄鋼業界は「原料高・製品安」の再来に懸念を示している。
<中国のビジネスモデル導入>
中国の鉱工業生産は4月に前年同月比3.9%増と今年初めてプラスに転じ、ロイターがまとめたアナリスト予想1.5%増を上回る回復を見せた。
医療物資を各国に提供する「マスク外交」は批判の対象にもなっているが、中国の経済回復は、今期業績予想を未定とするなど先を見通せていない日本企業にとって明るい材料と言える。
サプライチェーンと需要の両面で中国の影響を大きく受けた自動車産業。4月の日産自動車<7201.T>の中国販売台数が前年比1.1%増となるなど、需要面での戻りは顕著だ。ホンダ<7267.T>の倉石誠司副社長は12日の決算会見で、4月中旬までに現地拠点で稼働を再開した中国について「新エネ車の優遇政策の延長や一部ナンバープレート発給規制の緩和などの消費刺激策が打たれ、市場は活発化してきている」との認識を示した。「4月の販売実績は前年同期比9割まで回復しており、受注も好調に推移している」という。
自動車や家具などの耐久財消費は、感染拡大が終息していけば、控えていた需要が顕在化する「ペントアップデマンド」が生じやすい。
中国は、延期されていた全国人民代表大会(全人代)を22日に開く。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は「一般財政赤字の大幅拡大が予想され、その大部分は、現金給付や商品券またはその組み合わせによる消費刺激策に使われるだろう」 と予測。後ずれした消費は、今後も出てくる可能性が高い。
中国の回復は、需要面の戻りだけでなくコロナ後のビジネスモデルの先行事例としても注目される。新型コロナの影響で、1―3月期はすべての地域で減収となった資生堂<4911.T>。ただ、一時70%以上の店舗が休業となった中国では3月末にほぼ全店で営業を再開し、需要も力強く回復しているという。そうした中、魚谷雅彦社長は「非常に面白いモデルができあがりつつある。中国から学びがある」と話す。
人と人との接触を避けなければならない新型コロナにより、店頭でメイクのカウンセリングなどを行う業務が難しくなっている。そこで、百貨店にいる同社のビューティーコンサルタントが、テレビの生放送に相当する「ライブストリーミング」で商品を説明、顧客はECで購入するという流れを作り出した。魚谷社長によると「日本でもやろうとして、日本のビューティーコンサルタントが訓練して準備している」という。コロナとの共存に向けて、先行する中国の例を取り込みながら着実に準備を進めている。
<中国粗鋼生産は増加>
一方で、中国の回復が事業にマイナスの影響を及ぼすのではないかという声もある。「JFEグループ発足以来の最大の危機」(JFEホールディングス <5411.T>の寺畑 雅史副社長)という厳しい環境に置かれている鉄鋼業界だ。
中国国家統計局が発表した4月の粗鋼生産は、前月比7.7%増加した。経済活動の再開に伴い国内の需要が上向いた。4月は前年同月比でも0.2%増加。製鉄所163カ所の稼働率は5月15日時点で85.6%と約11カ月ぶりの高水準となった。 ただ、国内の在庫は依然として高水準で、世界の鉄鋼需要も弱いことからアナリストや業界団体の間では生産の急拡大が供給過剰につながるリスクが懸念されている。
日本製鉄<5401.T>の橋本英二社長は「中国経済のいち早いノーマル化を背景に、中国ミルの相対的優位性がさらに高まる」と懸念を示す。中国政府が景気押上げのために講じる浮揚策によって中国鉄鋼業界の過剰生産に拍車がかかれば、あふれ出した鋼材は市況を下押すことになる。
2019年度には10年ぶりに1億トンを割り込んだ日本の粗鋼生産。リーマン・ショック時でさえも9000万トン台を維持したものの、20年度には8000万トンをも割り込むという厳しい見方が出ている。
日本では、東京や大阪など8都道府県を除いた39県の緊急事態宣言が14日に、続いて大阪府などの3府県も21日に解除されるが、経済活動が回復するには程遠い状況だ。
日本の鉄鋼業はもともと、内需の減少を輸出増で補ってきた。日本製鉄の橋本社長は「鋼材の輸出が今後どうなるかが大きなポイント。買い手は新興国だが、資源安や為替下落で新興国の購買力が落ちる。供給側として中国が出てくる可能性がある」とし、現在の輸出規模を維持することは困難かもしれないと話している。
(清水律子 取材協力:新田裕貴 編集:田中志保)
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