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アングル:黒人差別に賠償を、国に代わり整備進める米自治体

ロイター / 2024年1月22日 8時27分

 1月12日、元政治学教授のドワイト・マレンさんは数十年にわたり、人種間の不平等に関するデータ収集に水面下で取り組んできた。写真は2021年3月、米イリノイ州エバンストンで撮影(2024年 ロイター/Eileen T. Meslar)

Carey L. Biron

[ワシントン 12日 トムソン・ロイター財団] - 元政治学教授のドワイト・マレンさんは数十年にわたり、人種間の不平等に関するデータ収集に水面下で取り組んできた。米南部ノースカロライナ州アッシュビルで実施されている公的賠償の手続きこそ、その成果だと考えている。

マレンさんは20年近く前、地域の健康・教育・司法などにおける人種間格差に関する研究を始めた。

米ミネソタ州ミネアポリス近郊で2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官の暴力によって死亡した事件を受け、全米で不当な人種差別への抗議活動が広まると、変革の時が来たと多くの人が感じたとマレンさんは言う。

「これまでの集大成だ。市や郡単位で、現状を変える行動を起こさなくてはならない」とこの地域の自治体が設置した賠償委員会を率いるマレンさんはトムソン・ロイター財団に語った。

「奴隷化に始まり、リンチや隔離政策、大量投獄を経て、都市の再開発まで。そうした差別は現在も格差の問題として続いている」と、マレンさんは指摘する。

同委員会は2022年、アッシュビル市を含むバンコム郡によって任命され、10月には司法や経済開発、教育、健康、住宅などにおける不平等に対処することを目指した勧告書の草案を発表した。

賠償に関する議論は国家レベルでは何十年間も放置されてきたが、現在は地域コミュニティーが主導しながら、全米各地の数十カ所で進められている。

こうした取り組みの中には、先祖が奴隷にされたことと、それに伴う暴力や侮辱に対しての賠償を検討しているものもある。他方、アッシュビルなどでは、より最近の構造的な人種差別やその影響を重視している。

「想定する賠償の形は人それぞれ違う」とアッシュビルで公平性と包摂性の問題を担当するブレンダ・ミルズ氏は言う。

「制度や政策の変更による是正を期待する人もいる一方で、金銭や土地の補償を求める人もいる」

この問題の複雑性や感情を伴う側面は、対応を困難なものにしている。

「いま何が肝心かを見極め、仲間の生活に変化をもたらそうと試みている」とマレンさん。

「ただ、十分な前例がない。飛行機を組み立てながら操縦している気分だ」

<エバンストン市の例>

国家賠償法案は1980年代以降、米連邦議会に何度も提出されてきた。ただ、2021年に初めて重要な委員会を通過しただけにとどまり、全会での採決には至っていない。

ただ、すでに数十の都市が賠償手続きに着手している。カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーの3州や、ハーバード大学などの機関も取り組みを始めている。

地域規模の活動で先陣を切っているのは、中西部イリノイ州シカゴ近郊の町、エバンストンだ。1969年以前の差別的なゾーニング法による被害への賠償として、2022年には黒人住民やその子孫に対して最高2万5000ドル(約370万円)の支払いを開始した。同法はアフリカ系米国人に対して特定の地域での住宅購入を事実上禁止する内容だった。

「こうした法律により、今なお続く人種隔離が作り出された」とエバンストン市議会での賠償プログラムを指揮するロビン・ルー・シモンズ氏は言う。

「近隣の学校や健康的な食事へのアクセスができず、住宅や空気は劣化し、ビジネスインフラへの機会は少なく、緑地も不足している」とシモンズ氏は述べた。

救済措置に法的根拠を持たせるにはまず、過去の政策が差別的であったと市当局が認める必要があった、と元エバンストン市法務官のニコラス・カミングス氏は言う。同氏は賠償案における法的な枠組みの作成に尽力した。

「初の試みだったため、さまざまな課題にも直面した」とカミングス氏は振り返る。

「ただ、それ以前の法律や政策、制度とは異なり、大きな影響を及ぼす可能性があった」

同プログラムが「圧倒的な支持を得ている」と話すのは、ノースウエスタン大学の政治学教授で、2023年10月に公表された研究を監督したアルビン・B・ティラー・ジュニア氏だ。

同氏の調査によると、エバンストン市で暮らす白人の70%、黒人の64%が賠償制度を支持している。また、市政府への信頼も高まっているという。

「人々がこうした問題について議論し、理解を深め、実践した上で『取り組みに賛同している』と表明できる都市があるということ。それに気付けることが非常に重要だ」

ノースウエスタン大学を置く人口約7万8000人の都市エバンストンでのプログラムには、約640人が申請した。シモンズ氏は成果が少しずつ見え始めていると話す。

「想定していなかった方向でも結果が表れている。人々の心情が変化し、コミュニティーが修復され、改善し始めている」

シモンズ氏は現在、非営利組織ファースト・リペアを通じ、こうした経験を全国に広めている。これまでに100以上のコミュニティーと連携してきたという。

「賠償への取り組みは、市が主導している」とシモンズ氏は語る。

「地域規模での動きが国家賠償法の前例となり、成立を後押ししている」

<「賠償責任ができること」>

米国内の世論では、賠償制度に対する否定的な意見も多い。米ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、アフリカ系米国人の4分の3が奴隷にされた人々の子孫には賠償を受ける権利があると回答した一方で、賛同を示した白人はたった18%だった。

地域単位での試みにも批判が寄せられている。保守派監視団体ジュディシャル・ウォッチはエバンストンでのプログラムについて、「人種差別的な方法で税金を使い」、憲法に違反しているなどと非難した。

また、デューク大学の経済学者ウィリアム・A・ダリティー・ジュニア氏は、人種間の経済格差を埋めるには全米で推定16兆ドル以上が必要だとして地方主導での取り組みに疑問を呈した。

「州や地方自治体・個人レベルで別々の取り組みが進んでいる現状下では、不完全で一貫性が無く、公平性を欠く可能性がある」とダリティー・ジュニア氏はメールでの取材で応じた。

「主な懸念は、ばらばらに賠償を進めることで国家規模の取り組みは不必要だと結論付けられてしまう可能性だ」

ダリティー・ジュニア氏はマサチューセッツ州アマーストで育った。この町も独自の賠償手続きに着手している。

アマーストの「アフリカ系遺産補償総会」は9月に最終レポートを発表し、教育・安価な住宅・就労機会を最優先にした補償を呼び掛けた。

地元の黒人の経験を浮き彫りにする「目を見張る」ような市民参加型プロセスを経て優先順位が明らかになった、とアマースト町議会の元議員で賠償委員会トップのマイケル・ミラー氏は言う。

「とても革新的な町だという認識がある一方、黒人であるというだけで存在が認識されず透明人間のような感覚を味わっていることも繰り返し耳にしてきた」

当局は200万ドルの資金拠出を約束しており、今後数カ月以内に住民が望む用途を別の機関が精査することになる。

アマーストの町が黒人住民の意見を求めること自体、初めてだとミラー氏は話す。

「地方単位での補償の取り組みは、米連邦政府の法案にはなり得ない。ただ、非常にミクロなレベルで、修復的司法が社会に及ぼし得る影響を人々に示すことができる。そうすれば、賠償の規模拡大に向けたモメンタムが生まれるだろう」

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