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アングル:戦闘激化のレバノンで逃げ惑う外国人労働者、帰国も困難

ロイター / 2024年10月21日 15時46分

10月18日、フィリピン出身のシシ・ブリンセスさんは14年前に家事労働者としてレバノンに渡り、パレスチナ人と結婚して息子をもうけ、白血病にかかったのを乗り越えて新しい生活を築いていた。写真は16日、ベイルートの路上で避難生活を送る人々(2024年 ロイター/Louisa Gouliamaki)

Mariejo Ramos Bukola Adebayo Md. Tahmid Zami

[マニラ/ラゴス(ナイジェリア)/ダッカ 18日 トムソン・ロイター財団] - フィリピン出身のシシ・ブリンセスさん(46)は14年前に家事労働者としてレバノンに渡り、パレスチナ人と結婚して息子をもうけ、白血病にかかったのを乗り越えて新しい生活を築いていた。だが、レバノンの首都ベイルートで爆弾の投下が始まり、今は祖国に帰りたがっている。

空港の近くにある自宅から2週間前に逃げ出し、避難所に移るまでの数日間にわたって10歳の息子との路上生活を余儀なくされたブリンセスさんは「私は死期が近づいているように感じる。がんにかかった時よりもひどい」と語った。

レバノンに約1年間住み、ベイルートのアシュラフィエ地区のスーパーで働くバングラデシュ人のナズムル・シャヒンさん(30)は爆撃の衝撃で夜は眠れないと明かす。トムソン・ロイター財団のベイルートからの電話インタビューに対して「心臓がどきどきし始め、何かが私の内臓をかじっているような感覚に襲われる」と話した。

ムド・アル・マムンさんは3カ月間に得たベイルートのパン店での仕事を気に入っているが、今はやはりバングラデシュに帰りたいと思っている。

「給料も環境もずっと良く、ここがとても気に入っているが、爆撃が始まってから故郷が恋しくてたまらない」と打ち明けた。

イスラエルと親イラン武装組織ヒズボラとの1年弱にわたる戦闘はこの数週間激化している。イスラエルはレバノン南部とベイルート南部近郊、ベカー高原を空爆し、ヒズボラの指導者の多くを殺害したほか、地上部隊をレバノン南部に送り込んでいる。

イランの支援を受けたヒズボラは、イスラエルにロケット弾を発射している。

レバノン当局によると、昨年10月以降に少なくとも120万人のレバノン人が避難し、この数週間を中心に2300人を超える死者を出した。

国内に900カ所ある避難所の大部分は満杯で、野宿をしたり、ベイルートの公園で寝泊まりしたりしている人々には多くの外国人労働者が含まれている。

国際移住機関(IOM)によると、レバノンは主にアフリカやアジアからの計17万7000人を超える移民の労働者を受け入れている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、レバノン労働省によると移民労働者は25万人程度いると説明している。

これらの労働者は家事や接客業で働く女性が中心で、中東地域で多くみられる労働契約制度のカファラ制度によって雇用されている。

ウガンダを拠点とする活動家のサフィナ・ビラニさんは、アフリカからの移民に食品と避難所を提供するためにオンラインで資金調達をしている。イスラエルによる爆撃が始まると雇用主が避難し、多くの女性たちが放り出されたという。

ビラニさんはトムソン・ロイター財団の取材に対し、ウガンダの首都カンパラから「多くの女性は、空港に到着すると直ちに雇い主から旅券(パスポート)を取り上げられ、(彼女たちに)2度と渡さなかったと話している。彼女たちはお金を持っておらず、雇用主は戦闘が始まるとすぐに彼女たちを見捨て、書類も渡さなかった」と語った。さらに「彼女たちの大部分は銀行口座も、公的に身元を証明できる書類も持っていない」と指摘し、このことが祖国に帰るために親類が送金するのを難しくしていると説明した。

ビラニさんは、取り残されたアフリカ人らは差別に直面しているとして「アフリカからの移民は2級市民として扱われており、これは人種差別と大きく関係している。だからこそ政府は真剣に市民を保護しなければならない」と訴えた。

<航空機派遣を>

レバノンには1万1000人を超えるフィリピン人の正規労働者がいる。フィリピンのマルコス大統領は、国民が安全かつ迅速に帰国できるように準備を進めるように命じた。

ナイジェリアで働いている夫を持つブリンセスさんも、「マルコス大統領、他の国々が自国民にしたように、どうか私たちのために航空機をここに派遣してほしい」と、嘆願する。

昨年から約500人のフィリピン人が本国に帰還しており、駐ベイルートのフィリピン大使館は今月8日までに1700人を超える帰国申請を受理した。

大使館はフィリピン人労働者のために一時的な避難所を設けた。だが、ブリンセスさんによると携帯電話の使用が制限されており、故郷との連絡が取れなくなる可能性があるため、多くの人が利用を渋っているという。

フィリピン人の一部からは、大使館の対応が遅いと不満が聞かれる。

妹がハウスキーパーとしてレバノンで働いているマーク・アンソニー・ブンダさんは「私の妹は政府のチャットボットから繰り返し返信をもらった後、ベイルートの大使館に行くように指示された。しかし、雇用主が許可してくれず、パスポートも持っていなかったので無理だった」と語った。

ブリンセスさんの状況は異なり、パスポートは持っているものの有効期限が切れており、外国人労働者としてレバノン当局から出国許可を受けることが必要となる。

ブリンセスさんは最初に家を出た時、息子をベイルートの外の比較的安全な山岳地帯にある義母の家に預けた。送還の知らせが来るのに備え、自身は大使館の近くにいたかったのだ。

ところが「大使館は、私たちの要求に一度に応えることはできないと言った。特に、ここでは私たちの申請を処理するのが遅いからだ」とブリンセスさんは説明した。

現在は息子と再会し、ベイルートの避難所で暮らしている。

<詐欺師と支援>

多くのアフリカ人労働者もレバノンで働いている。外務省のデータによると、その中でもケニア人は約2万6000人を数える。その多くは、ケニアの全国商工会議所とレバノン企業との間で結んだ協定による。

ケニア政府はケニア人に対し、無料で避難できるようにクウェートの大使館に登録するよう指示し、そのために1億ケニアシリング(1億1500万円)を割り当てた。

ムサリア・ムダバディ官房長官によると、既に1500人弱が登録した。

政府はまた、法外な料金で避難できるようにすると偽った詐欺師に注意するよう警告した。

外務・ディアスポラ省は「現在レバノンにいる全てのケニア人に対し、詐欺師が弱い立場の個人につけ込んでいるとの報告について警告したい。これらの詐欺師は、避難サービスに非合法の料金を請求している」との声明を出した。

レバノンには約15万人のバングラデシュ人もおり、ガソリンスタンドやスーパー、駐車場での勤務や、清掃員として働いている。バングラデシュ人は通常、レバノンで仕事を得るために仲介者に約50万タカ(62万円)を支払っている。

駐ベイルートのバングラデシュ大使館の当局者らは、医療ケアと助言を彼らに提供しており、帰国を希望する人々の情報収集を始めたと説明した。

バングラデシュ暫定政権のホセイン外務担当顧問によると、バングラデシュはIOMに対して自国民を避難させるために航空機のチャーター便を手配するように要請した。

レバノンの工場で約10年間にわたって監督者として働いてきたシディコル・ラーマンさんによると、イスラエルによるレバノンへの空爆以来、多くのバングラデシュ人が仕事と家を失い、地域社会や大使館が提供する避難所に身を寄せている。

バングラデシュ人のシャヒンさんは「手を差し伸べる余裕のある人たちは同胞を支援している。現金を渡したり、食品を買ってあげたり、避難所を提供したりしている。しかし、私の心は日に日に落ち込んでおり、唯一の望みは祖国に帰ることだ」と話した。

<簡単ではない決断>

前出の活動家ビラニさんはレバノンの活動家Dea Hage-Chahineさんと協力し、弱い立場にある女性移民労働者に手を差し伸べようとしている。

Hage-Chahineさんはトムソン・ロイター財団にベイルートから電話で、駐ベイルートのシエラレオネ大使館の外で寝泊まりしていた147人のシエラレオネ人女性と3人の赤ちゃんを収容するために民間の建物を数カ月間確保したと語った。

これとは別にわずか4人だけのチームで、シエラレオネ人を中心に58人のアフリカ人のために5つのアパートを借り、帰国に必要な書類を入手するために政府と連絡を取った。

Hage-Chahineさんは「レバノンの移民社会は疎外され、無視されてきた。戦闘と大規模な人道危機を経験している間に何が起きているか想像がつくだろう」と話す。その上で「私たちは女性たちのための書類作成に取り組んでいるが、航空機を確保できないのではないかと心配している。政府が航空機を派遣してくれることを望んでいる」と語った。

シエラレオネのカッバ外相は地元メディアに対し、政府はレバノンと貿易雇用協定を結んでいないため労働者を迅速に避難させることは難しいと言及した。

一方でシエラレオネ政府は、IOMやレバノンのシエラレオネ人社会のリーダーたちと協力し、本国送還の手続きをしている間に自国民を安全な場所に集めている。

レバノンを離れることは、誰にとっても簡単な選択というわけではない。

レバノン南部に住むフィリピン人の家事手伝い、リチェル・バグシカンさん(32)は空爆やドローン(無人機)のせいで眠れないと打ち明ける。レバノンにこれまで9年間住み、自国への送還を申請しているものの、帰国について悩んでいる。

バグシカンさんは「ここレバノンでは経済危機と戦争が続いているが、フィリピンに比べれば仕事を得られるチャンスがある。フィリピンでは仕事が保証されていないため、再び外国で働かなければならないかもしれない」と話した。

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