焦点:ベラルーシの抗議活動、プーチン氏にも不安材料となる理由
ロイター / 2020年8月23日 8時28分
8月19日、ベラルーシで進行中の大規模な不正選挙抗議とルカシェンコ大統領退陣を求めるデモは、同国を勢力圏にとどめておきたいロシアのプーチン大統領にとって外交政策上の試練だ。2019年6月、ベラルーシ・ミンスクで撮影(2020年 ロイター/Vasily Fedosenko)
[モスクワ 19日 ロイター] - ベラルーシで進行中の大規模な不正選挙抗議とルカシェンコ大統領退陣を求めるデモは、同国を勢力圏にとどめておきたいロシアのプーチン大統領にとって外交政策上の試練だ。ロシア国内でも反政府派が勢い付いており、ロシアの内政問題に転じる能性もある。
9日実施の大統領選でルカシェンコ氏の圧勝が発表されて以来、ベラルーシでは選挙の不正への抗議活動が続く。
この動きは、ロシアの政治にも影響を及ぼしている。
ロシア極東のハバロフスクでは、プーチン大統領が地元の政治危機への対処を誤ったとして、プーチン政権に反発する人々が6週連続でデモを実施中。最近では「ベラルーシよ、永遠に」と支持の合言葉を叫び、西に9000キロメートル離れたベラルーシのデモにエールを送り始めた。
ハバロフスクのデモは期間の長さ、規模の大きさともにロシアでは異例だ。
「ベラルーシよ、ハバロフスクは君たちと共にある」と手書きされたプラカードを掲げる男性は、テレビ番組の取材に対し、ベラルーシ国民もロシア国民も不公正な政治システムに我慢できなくなっていると指摘。「自分はベラルーシとハバロフスクに共通点を感じる」と話した。それは単にデモを行っているということではなく、同じ目的、つまり「正直な選挙に票を投じて参加する権利」を求めて団結していることだという。
ロシアの野党有力指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏の支持者らも、ベラルーシの動向を注視していると話す。いずれロシアで同様の事態が起こった場合に備え、学びを得るためだ。
ベラルーシは、旧ソ連諸国の中で文化的、政治的、経済的にロシアと最も密接に結びついている国だ。両国は「連合国家」を目指す条約に調印しており、国旗は赤をあしらう旧ソ連スタイルだ。
ただ、プーチン氏はルカシェンコ氏とは別の存在で、近い将来にプーチン氏の支配体制が深刻に脅かされる兆しもない。それでも両国の関係の緊密さや、言語が共通している、つまりベラルーシもロシア語を公用語とすることから、ベラルーシの動向は必然的にロシア自身の政治情勢に影響し始めている。
カーネギー・モスクワ・センターのシニアフェロー、アンドレイ・コレスニコフ氏は、ロシアはベラルーシよりはるかに規模が大きく、社会的に民族などがもっと分かれている分断された国であるため、今すぐには、ベラルーシと同じことが起こる可能性は乏しいと言う。
<プーチン氏にとっては不安>
しかし、プーチン氏と同じく20年以上権力を握り続ける独裁指導者に対して、ロシア語を話す市民数万人が抗議の声を上げる光景は、同氏にとっては不安だろうともコレスニコフ氏は指摘する。
「彼としては、ベラルーシの抗議は失敗する必要がある。隣の『兄弟』国で抗議が成功を収めるのは、気分が良くないだろうから」と分析。
ベラルーシで危機が始まって以来、プーチン氏はルカシェンコ氏と数回、電話で話し、必要があれば軍事支援を行うと申し出た。ただ、今のところ、ロシア政府はその必要はないと判断している。
ロシアの政治体制は厳格に統制されているため、反政府派は影響を行使するのに何年も苦心してきた。しかし今、彼らはベラルーシのデモから着想を得ている。
野党指導者のナワリヌイ氏は来月のロシア地方選挙に向けて14日、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で、今回、ベラルーシの基幹部門の労働者によるストの成功をきっかけに、政権が抗議活動に対応せざるを得なくなったエピソードを興奮気味に紹介した。ルカシェンコ氏の対立候補に投票したと訴える労働者たちの映像もアップしたが、そこには「ロシアの将来」とのナワリヌイ氏のコメントが付けられていた。
ナワリヌイ氏の側近のレオニド・ボルコフ氏は、自分たちはベラルーシ当局のやり口を注目していると話す。「私たちは、ルカシェンコ氏がインターネットを切断しようとしたことを注視している。これは非常に重要だ。なぜならロシアでも、間違いなく同様の事が待ち受けるからだ」とツイートした。
ロシアの反政府活動家らは、2024年のロシア大統領選で今のベラルーシと似た状況が訪れる可能性を見据えている。プーチン氏は憲法改正に成功、再出馬を可能にした。
ロシアの野党政治家のドミトリー・グドコフ氏は「今のベラルーシに、われわれの近未来が見える」と語り、ベラルーシの大統領選では投票結果をすげ替える不正が行われたのは間違いないと指摘した。
ロシア大統領府も、潜在的な脅威を警戒している兆しがある。
ロシア国営メディアは当初、ベラルーシの抗議デモを同情的に伝えていたが、その後は論調を切り替えた。外国政府による介入や、ポーランドが地域的優位を虎視眈々と狙っていることに言及するようになり、過去の東欧などでの民主化運動も取り上げるようになった。これはウクライナやジョージアでの体制抗議活動のことを指す。
モスクワにあるベラルーシ大使館周辺で数百人の同国人がピケ隊を組んだ際には、たまりかねてロシア当局が排除に乗り出し、プラカードなどを近くのごみ箱に投げ捨てた。
(Andrew Osborn記者)
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