アングル:ハリス氏、現政権の外国政策踏襲も対イスラエルは強硬化か
ロイター / 2024年7月22日 18時11分
ハリス米副大統領が民主党の大統領候補に指名されて11月の選挙で勝利した場合、ウクライナ、中国、イランなどの重要な外交政策についてバイデン大統領の路線をほぼ踏襲する一方、ガザ紛争を巡ってはイスラエルに対してより厳しい態度で臨む可能性がある。7月13日、ペンシルベニア州フィラデルフィアで撮影(2024年 ロイター/Kevin Mohatt)
(脱字を補って再送しました)
Matt Spetalnick Simon Lewis
[ワシントン 21日 ロイター] - ハリス米副大統領が民主党の大統領候補に指名されて11月の選挙で勝利した場合、ウクライナ、中国、イランなどの重要な外交政策についてバイデン大統領の路線をほぼ踏襲する一方、ガザ紛争を巡ってはイスラエルに対してより厳しい態度で臨む可能性がある。
ハリス氏は現場経験が豊富で、世界の指導者らと個人的なつながりを持ち、上院議員、副大統領時代を通じて世界情勢に対する感覚を養ってきた。
しかしハリス氏はトランプ前大統領と戦うに際し、バイデン氏を悩ませ、選挙戦の最重要課題となっているメキシコ国境問題という大きな弱点も抱える。ハリス氏は副大統領の任期当初、不法移民大量流入の根本原因に切り込む仕事を任された経緯があり、共和党は彼女をこの問題の「顔」にしようとしてきた。
アナリストによると、「ハリス政権」は世界的な優先課題でバイデン政権二期目に類似している。
民主、共和党両政権で対中東交渉を担った経験のあるアーロン・デビッド・ミラー氏は、「彼女の方がエネルギッシュなプレーヤーになるかもしれないが、バイデン氏の外交政策の本質部分が直ちに大きく転換するとは予想すべきでない」と語った。
例えば、ハリス氏は北大西洋条約機構(NATO)を断固支持するバイデン氏の姿勢から外れることはなく、ロシアと戦うウクライナを支援し続けると表明している。これは、トランプ前大統領がNATOとの関係を根本的に変えると公約し、ウクライナへの武器供給継続に懐疑的な姿勢を示しているのと対照的だ。
<対中政策も維持か>
弁護士出身で元カリフォルニア州司法長官であるハリス氏は、バイデン政権前半には足場固めに苦慮した。初期には、メキシコ国境から流入する不法移民が過去最多を記録したことが重荷となった。
2020年の大統領選挙戦でも精彩を欠いていたとの見方が多い。今回、ハリス氏が大統領候補に選ばれた場合、民主党は彼女が前回より外交政策について効果的に国民に訴えられることを期待するだろう。
米国初の黒人およびアジア系副大統領であるハリス氏は、バイデン政権後半に入ると、中国からロシア、ガザに至る幅広い問題で知名度を上げ、多くの世界的指導者らに資質を知られるところとなった。
今年のミュンヘン安全保障会議では、ロシアによるウクライナ侵攻を厳しく非難する演説を行い、相互防衛をうたうNATO第5条を米国は「鉄壁」で尊重すると約束した。
中国についてハリス氏は、特にアジアで米国が中国の影響力に対抗する必要があるという、ワシントンの超党派における主流の立場に立ってきた。必要に応じて中国と対決しつつ、協力分野も模索するバイデン氏の路線を維持するとアナリストは予想している。
ハリス氏は、アジアとの関係を強化するために何度か外遊しており、昨年9月にはバイデン氏の代役として東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議のためにジャカルタを訪問。南シナ海での領有権を巡り、中国が小さな近隣諸国を威圧しようとしていると非難した。
バイデン氏は、重要な同盟国である日本や韓国にもハリス氏を代役として派遣し、同盟関係の強化に努めた。両国は、トランプ氏が安全保障への関与を薄めることを懸念している。
ワシントンの戦略国際問題研究センターで東南アジア・プログラムのシニアアソシエイトを務めるマレー・ヒーバート氏は「ハリス氏は、インド太平洋地域を重視するバイデン氏の路線を熱心に推し進めようとしていることを、この地域に示した」と語る。
バイデン氏が数十年にわたって培ってきた「外交手腕」には及ばないものの、「彼女はうまくやった」とヒーバート氏は付け加えた。
しかしバイデン氏と同様、ハリス氏も時折失言する。2022年9月、韓国と北朝鮮の非武装地帯を視察した際には誤って米国の「北朝鮮との同盟」を語り、後に側近が訂正した。
ハリス氏が大統領に就任した場合には、イスラエルとパレスチナ自治区の戦争が政策課題の上位に位置するだろう。
昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃して以来、ハリス氏はイスラエルの自衛権を断固支持するバイデン氏とほぼ呼応してきたが、同氏の一歩前に出てイスラエルの軍事的アプローチを批判することもあった。
今年3月には、イスラエルがガザにおける「人道的大惨事」の緩和に十分手を尽くしていないと露骨に批判した。同月末には、イスラエルがガザ南部ラファに本格的に侵攻すれば「報い」を受ける可能性を排除しなかった。
このような発言を踏まえれば、ハリス氏が大統領になった場合、少なくともバイデン氏より強い言い回しでイスラエルに対峙する可能性があるとアナリストは言う。
バイデン氏はイスラエルの歴代指導者らと長い付き合いがあり、自身を「シオニスト」と呼んだこともある。これに対してハリス氏は、バイデン氏のようなイスラエルとの腹を割った個人的つながりを持たない。
一方、ハリス氏はバイデン氏よりも民主党急進派との関係が緊密だ。急進派の中には、ガザでパレスチナ市民の死傷者が多いことを懸念して、バイデン氏に米国のイスラエルへの武器供与に条件を付けるよう迫った者もいる。
しかしアナリストらは、中東における米国の最も緊密な同盟国であるイスラエルに対するアメリカの政策に、大きな変化が起こるとは予想していない。
<イランの核>
ハリス氏はまた、イスラエルの宿敵であるイランに対しても毅然とした態度で臨むと予想される。イランは最近、核開発を前進させ、米政府は批判を強めている。
ワシントンのシンクタンク、アトランティック・カウンシルのジョナサン・パニコフ氏は、イランによる核兵器製造の脅威が高まっていることは、「ハリス政権」初期の大きな課題となり得ると述べた。特に、イランが米国の新大統領を試す行動に出た場合にはそうだという。
トランプ氏は大統領在任中に2015年のイランとの国際的な核合意から離脱。バイデン氏は何度も合意復活を試みたが失敗し、今では交渉再開にほとんど関心を示していない。
ハリス氏が大統領に就任した場合、イランが譲歩する重大な兆候がない限り、大きな働きかけを行わないだろう。
ただパニコフ氏は 「次期大統領がイランと交渉しなければならなくなる理由はいくらでもある。イランは最大の問題の一つになるに違いない」と語っている。
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