アングル:盛り上がる「自動運転」、性能基準ないまま開発レース
ロイター / 2020年7月23日 8時4分
7月15日、ここ数十年で自動車技術は大きな変革が進む一方で、従うべき安全性や性能に関する基準が存在しない。写真は「ハンズフリー」技術を搭載するゼネラル・モーターズ(GM)キャデラックのSUV「エスカレード」。(2020年 GM配布写真/ロイター)
Ben Klayman Paul Lienert
[デトロイト 15日 ロイター] - 「オートパイロット」、「プロパイロット」、「コパイロット」──。自動車メーカーがハンズフリー(手放し)運転を支援する新たなシステムに与えた名称はさまざまだ。だが、ここ数十年で自動車技術は大きな変革が進む一方で、従うべき安全性や性能に関する基準が存在しない。
複数の自動車産業幹部によれば、テスラの成功に刺激され、自動運転の研究に投じた数十億ドルの費用の回収を始めるため、自動車メーカー各社は、高速道路上での巡航走行など日常的な運転を自動化し、5年以内に広く普及させる計画を加速させつつある。
従来の自動車メーカーの大半は、最近まで、長時間にわたるハンズフリー運転を可能にすることに抵抗感を抱いていた。製造物責任を問われることを懸念したためだ。だが、今やハンズフリー運転システムは、自動車メーカーや、アプティブ
英調査会社のIHSマークイットで首席アナリストを務めるジェレミー・カールソン氏は「消費者が追加の出費を、それも場合によってはかなりの金額をいとわないのは、厳密に安全性にフォーカスした先進技術・性能よりも、利便性を志向しているからだ」と語る。
信頼性への懸念に対処するため、一部の自動車メーカーは、車内にカメラを装着し、警告システムを追加することで、ドライバーが注意を維持し、いざというときには人間によって操縦を引き継げるように配慮している。
だが、批判的な人々は、高速道路での運転、駐車手順、渋滞中の運転を自動化する技術は規制のすき間を縫って展開されており、自動車業界全体にわたる基準や共通技術がないため、こうしたシステムに委ねても安全なのか混乱が生じていると主張する。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)はロイターに対する文書での回答のなかで、ハンズフリー運転技術については依然として調査・データ収集を続けていると述べており、こうした技術は「十分に成熟していない」ため、公式の連邦基準を求めるのは時期尚早であるとしている。
元NHTSA局長のマーク・ローズカインド氏は、連邦レベルの基準が必要になる前に、自動車産業において同技術の開発をもっと進める必要があるかもしれないと述べつつ、消費者にとって分かりにくさが生じていることを認める。
「自分がどんな技術を手にしているのか、それが実際にどのように機能するのか、人々が分かっていないとすれば、それは安全性の点で問題だ」と、ローズカインド氏は言う。同氏は、自動運転技術を手掛けるスタートアップ企業、ズークスで安全性に関する技術革新の最高責任者である。ズークスはアマゾン
消費者団体の米自動車安全センター代表のジェーソン・レビン氏は、NHTSAが最低限の性能基準を策定すべきだと語る。「その機能が何を意図したものか消費者が知っているとしても、そもそも宣伝通りの性能を発揮するかどうか、確かめるための基準すら存在しない」と同氏は言う。
自動車産業における最初の半自動運転システムの1つであるテスラの「オートパイロット」について、国家運輸安全委員会は、ドライバーの注意を道路からそらすことになり、死亡事故につながると批判している。NHTSAは2016年以来、「オートパイロット」を搭載したテスラ製自動車が絡む衝突事故15件を調査している。
「オートパイロット」は当初「ハンズフリー」をうたっていたが、テスラはすぐにその立場を変えた。現在では「オートパイロット」の作動中、ドライバーはハンドルに手を添えていなければならない、というのが同社の主張だ。
ドイツのある裁判所は14日、テスラに対し「自動運転が可能」など同社製車両の運転支援システムについて、誤解を招く宣伝を繰り返すことを禁止する判決を下した。
規制や基準が存在しないため、JDパワーや「コンシューマー・リポート」誌、全米自動車協会(AAA)などの団体は、標準的な用語や定義について一致できるよう自動車メーカー各社を説得しようと試みている。この取り組みについては、米運輸省や米自動車技術者協会からも支持されている。
だが、主要な業界調査団体の間では、技術の呼称についてさえ意見がまとまっていない。「ハンズフリー」に代わる用語として、JDパワーは「積極的運転支援」、IHSマークイットは「拡張的ハンズオフ運転」を推している。
デトロイトの自動車メーカー各社は、テスラに比べ、自社の半自動運転システムにあまり大胆な呼称を与えていない。
JDパワーのクリスティン・コロッジ氏によれば、大半のハンズフリー運転システムの柱となっている車線維持支援(新車の70%)、全車速追従機能付クルーズコントロール(ACC、同77%)など、先進運転支援システムを搭載した新車を購入・リースする消費者は、増えつつあるという。
自動車メーカー側は、自動運転技術の搭載が広がれば、衝突事故が減少し、消費者にとっては自動車保険料の低下につながると説明する。ただ、これまでのところ保険会社は慎重で、こうした技術が事故関連コストを抑制することを示すデータがもっと必要だとしている。
保険産業の調査部門である道路安全保険協会(IIHS)のデビッド・ハーキー代表は「私たちは安全性という点から注目している。これらの技術は、道路を利用する人々の安全性を向上させるのだろうか」と話している。
(翻訳:エァクレーレン)
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