アングル:公園を追われるホームレス、「野宿の禁止」が米で議論に
ロイター / 2024年4月22日 18時46分
人口3万9000人の小さな地方都市、オレゴン州南部グランツパス市が今、公的な場所で人々が寝泊まりするのを政府が法的に禁止できるのかどうかを問う連邦最高裁審理の焦点となっている。写真は持ち物を移動させるアンバー・ロックウェルさん。グランツパスで17日撮影(2024年 ロイター/Deborah Bloom)
Deborah Bloom
[グランツパス(米オレゴン州) 20日 ロイター] - 米オレゴン州南部グランツパス市を流れるローグ川沿いの、草が生い茂った公園である晴れた日の午後、アンバー・ロックウェルさん(42)が黒い鉄製のカートにテントやスーツケース、バッグ、キャンプ用ストーブなどを積み込み、別の公園に移動する準備をしていた。
グランツパスでは、彼女を含めて何百人ものホームレスが毎週のように荷造りをして居場所を転々とすることで、警察から罰金支払い命令や逮捕、所有物没収などの措置を受けるのを避けようとしている。
荷物をまとめる作業の休憩中に話をしてくれたロックウェルさんは「私たちには居場所がない。存在すらしてはいけないのかと思わざるを得ない」と打ち明けた。
人口3万9000人のこの小さな地方都市が今、公的な場所で人々が寝泊まりするのを政府が法的に禁止できるのかどうかを問う連邦最高裁審理の焦点となっている。
最高裁では22日に口頭弁論が行われる。最終的に下される判決は、ホームレスの野宿を巡る全米各地の自治体の規制動向に重大な影響を及ぼすだろう。
2018年にグランツパス市当局を相手取り起こした訴訟に原告側として関与している弁護士のエド・ジョンソン氏は「ホームレスを犯罪者扱いして駆逐しようとしても、2─3年後には今の倍に数が増えることになるだけだ」と主張。その理由としてホームレスに犯罪歴を与えれば、働き口や住む家を見つけてホームレスから抜け出すのが一層難しくなる点を挙げた。
ジョンソン氏ら原告側は最高裁に提出した口頭弁論のための準備書面で、グランツパス市議会議員が13年、野宿禁止の規制を策定した際に、ホームレスを市内から一掃するつもりだと明言していると指摘している。
この規制について既にサンフランシスコの連邦高裁は、シェルター(一時避難所)が利用できない場合に公園や路上など公的な場所での野宿を禁止するのは「残酷で異常な」刑罰であり、合衆国憲法修正第8条に違反するとの見解を示しており、グランツパス市がこれに異議を申し立てて最高裁に上告した。
また原告側によると、グランスパス市は高裁判決後も取り締まりを続けている。訴訟が決着するまで市は野宿禁止規制の執行を差し止められているものの、地元警察は72時間前に通告すれば公的スペースから宿営施設を撤去できるという州法を利用しているという。
グランツパス市には公共のホームレス避難所はなく、19年時点で推定600人が家を失った状態にあった。
一方、グランツパス市は最高裁に提出した準備書面で、公共の場所での野宿制限違反に罰金を科すことは残酷でも異常でもないと反論する。
同市だけでなくモンタナ州やアイダホ州の司法当局、ワシントン州の法執行機関、カリフォルニア州のニューソム知事らも最高裁に対して高裁判決を覆してほしいと要請している。高裁判決は、危険で不衛生な野宿に自治体がどう対処すればよいか混乱をもたらす、というのが彼らの言い分だ。
これに対してホームレス支援団体からは、最高裁は高裁判決を支持すべきで、各自治体はホームレス対策として住宅建設に力を注ぐ必要があるとの声が出ている。
<厳しい視線>
オレゴン州の法令に基づくと、グランツパス市の規制に従わないと295ドルの罰金を支払わなければならない。所有物が没収ないし廃棄されてしまう場合もある。ロックウェルさんはしばしば迅速な移動ができなかったため、現在支払うことができない数千ドルの罰金を科されている。
「私はお金を持っていないし、収入もない」と訴えるロックウェルさんは、昨年夏には以前に過ごしていた公園に戻ってきたら所有物を捨てられていたと振り返る。その中には、死産した息子の遺骨が入ったつぼもあった。
グランツパス市の警察トップは、一般的に所有者が分からない拾得物は90日間保管されるため、自分のものだと名乗り出る時間的な余裕は十分にあると断った上で、ロックウェルさんの事案に関しては担当者も骨つぼだと分かっていたら廃棄しなかっただろうが、衣類や危険物、麻薬で使う器具などと混在していたとすれば、逸失してもおかしくないと説明した。
ホームレスの野宿に対しては、一部市民からは不満が出ている。長年グランツパスで暮らすジョアニー・ジェンセンさんは、以前のように公園で快適に過ごせなくなったと述べ、孫が所属する草野球チームはいつも練習や試合の前に、注射針や、糞便などを除去するための掃除を強いられていると付け加えた。
グランツパスで過去20年にわたって断続的にホームレス生活をしてきたマーク・ライオンさん(65)は、地域社会が自分や他の路上生活者により敵意を持つようになった様子を目の当たりにしている。「私も家があればこんな場所にいたいと思わない。それでもどこかにいるべき存在だ」と理解を求めた。
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