焦点:北朝鮮の狙いはトランプ大統領、韓国挑発は奏功するか
ロイター / 2020年6月24日 8時50分
Hyonhee Shin
[ソウル 19日 ロイター] - 北朝鮮はこの数週間、韓国との緊張を強める行動を取り続けている。その狙いは米国の反応だ。国内問題に心を奪われているトランプ政権をもう一度、振り向かせ、北朝鮮制裁の緩和につながる交渉を再開させたいという思惑があるに見える。
北朝鮮は16日、南西部・開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破し、韓国との対話の打ち切りを宣言したほか、軍事行動も辞さない姿勢を示している。
一方のトランプ氏は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長との3度にわたる歴史的な会談にもかかわらず、朝鮮半島非核化の取引には失敗した。今はどうかと言えば、新型コロナウイルス危機と人種差別反対の抗議デモ、11月の大統領選といった国内の様々な課題にかかりきりの状態だ。
金氏は、トランプ氏との会談が失敗に終わったことで厳しい現実に直面している。すでに制裁で疲弊していた北朝鮮経済は新型コロナ対応の国境封鎖で一段と悪化し、政権上層部や軍部の支持基盤を危うくしている可能性がある。
アナリストによると、米国の同盟国である韓国を金氏が攻撃する狙いの1つは、米政権に対し、北朝鮮との間で未解決の問題があることを思い起こさせ、恐らくは介入を余儀なくさせることにある。
韓国の元大統領外交秘書官の張虎鎮(チャン・ホジン)氏は、「トランプ氏は事態を収めるために北朝鮮と話し合う必要性を感じている可能性もある。軍事的挑発を示唆した金氏の脅しについては受け流す態度を公にするだろう」と分析。「北朝鮮としては、南北合同経済プロジェクトの推進に向けて、韓国が北朝鮮制裁の緩和をより強く働き掛けることを願っているとみられる。韓国との緊張を高め、そう仕向けようとしている」と語った。
<制裁緩和は遠い公算>
北朝鮮との米国の交渉を率いてきたビーガン北朝鮮担当特別代表などの米当局者は、米大統領選前に「土壇場の努力」をするだろう、とソウルの外交関係者は言う。同関係者は米政権がまもなく完全に選挙モードに突入すると指摘し、「こうした米当局者の間には、今年前半を無駄に終わらせるわけにはいかないとの焦りがある」と述べた。
ただ、事情に詳しい米外交筋によると、米政権はいつでも北朝鮮と話し合いをする意欲はあるが、近い将来に事態を大きく進展させるような交渉は考えにくい。とりわけ、北朝鮮が寧辺核施設の廃棄を提案するだけなら、事態打開は望み薄という。米国に制裁見直しを検討させるに十分な核開発計画放棄を北朝鮮が話し合う意欲がない以上、制裁緩和は遠いままになる公算が大きいという。
非核化交渉の韓国側の責任者だった魏聖洛(ウィ・ソンナク)氏によると、新型コロナと反人種差別抗議デモ、民主党で大統領選への指名を確定させたバイデン候補の支持上昇によって、譲歩を獲得するための金氏の戦略が変化した可能性がある。
金氏は新年の演説で「新たな戦略兵器」を公表すると予告した。自身が昨年末に設定した交渉再開の期限を米政権が無視したため、というのが理由だ。にもかかわらず、北朝鮮は今や、トランプ氏の政策課題から抜け落ちているように見えるのだ。トランプ氏自身が国内危機にはまり込んでいるためだ。
<大統領選にらむ金氏の慎重姿勢>
魏氏は「北朝鮮はそれまで、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験など重大な挑発行動も辞さないとみられていたが、新型コロナとこれに続く米国内の政治状況金氏を踏まえ、金氏は新しい計算をしているように見える」と語った。
「トランプ氏がトラブルに見舞われている中で、(非核化に逆行する)ICBM発射などを行えばバイデン氏を利するだけだろうから、金氏は暫定策として短距離ミサイル発射に訴えた。そして今度は韓国を標的にしている」。
元外務次官の趙太庸(チョ・テヨン)氏によると、米大統領選でバイデン氏が勝つことになれば、金氏にとって、その後の交渉はずっと困難なものになる。バイデン氏はトランプ氏よりも原則にのっとった手法を取るだろうし、派手な首脳会談ショーではなく熟練した交渉団に権限を与えるだろうという。
一部の専門家によると、トランプ氏が大統領選で負ける可能性が強まってくれば、北朝鮮が再びICBM実験に回帰する可能性は捨てきれない。しかし、これは、制裁緩和に向けて北朝鮮政府のために国際社会に働き掛けてきた中国を動揺させるだろうという。
魏氏は「ICBM実験のような重大な挑発は裏目に出る恐れがある。だから金氏は米大統領選の11月までは強硬に出過ぎないようによくよく考えなければならないはずだ」と述べた。
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