アングル:需要高まる「排出量ゼロ配送」、新興企業はEVバンで攻勢
ロイター / 2023年9月23日 11時2分
欧州、米国の配送サービス産業において、スタートアップ企業がしのぎを削っている。写真はEVバンを充電する、パックフリートのトリスタン・トーマスCEO。ロンドンで2022年10月撮影(2023年 ロイター/Nick Carey)
Nick Carey Lisa Baertlein
[ロンドン/ロサンゼルス 22日 ロイター] - 欧州、米国の配送サービス産業において、スタートアップ企業がしのぎを削っている。焦点は、都市部の小売企業・消費者に直結する「ラストワンマイル」で、大手に先んじて電動(EV)バンによるゼロエミッション(二酸化炭素排出量ゼロ)の配送を実現することだ。
環境・社会・企業統治(ESG)と排出量削減に関する目標達成という小売企業のニーズに働きかけているのは、独リーファーグリュン、英ゼディファイやパックフリート、そして米ニューヨークを拠点とするダッチエックスなどだ。調査会社ピッチブック、そしてロイターが入手したデータによれば、ゼロエミッション配送に携わるスタートアップ全体で、これまでに約10億ドル(約1482億7000万円)を調達している。
スタートアップ各社の狙いは、業界大手が長い時間をかけて準備を進めている隙に市場シェアを握ってしまうことだ。たとえばフェデックスは、自社の配送車両におけるゼロエミッション目標の達成を2040年までとしている。ドイツポストDHLグループは保有車両の60%を30年までにEV化する方針を示している。アマゾンも30年にリビアン製EVトラック10万台の運用を開始する計画で、ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は、25年までに配送車両の40%を代替燃料で動かす予定だ。
小規模だが急成長中のスタートアップ企業は、都市や郊外への配送での独自のルート最適化技術を使いつつ、競争が激しい市場において価格を抑えつつ業容拡大しなければならない。それは同時に、スタートアップ各社が買収のターゲットとなることを意味する。
「持続可能な配送のために高い送料を払いたいと思う人はいない」と語るのは、独ベルリンを拠点とするリーファーグリュンのニクラス・タウへ最高経営責任者(CEO)。ドイツとオーストリアの大都市で配送事業を展開する同社の顧客には、H&M、「ザラ」などのファッションブランドを展開するインディテックス、ハローフレッシュといったアパレル小売企業がある。
アパレル小売企業として世界第2位のH&Mは、「リーファーグリュンなどとの多様なパートナーシップを通じて」、ゼロエミッション配送の取り組みを拡大していると表明した。
リーファーグリュンは都市中心部に荷物集積拠点を構築したうえで下請業者に配送を外注し、そうした業者がメルセデスベンツ製、中国の上汽大通(マクサス)製EVバンを利用する契約を結べるようにしている。
タウへCEOはリーファーグリュンの売上高について、2022年の「100万ユーロ単位」に対して今年は7倍増となり、2024年には「1億ユーロ単位」に到達するはずだと語る。
リーファーグリュンはここまで1500万ユーロ(約23億6200万円)を調達しており、迅速な事業拡大に向けて来年はさらに調達額を増やす予定だ。
配送大手が保有車両のEV化に向けて巨額の投資を進める間にも、時は刻一刻と過ぎていく。
DHLでは試験的なプロジェクトとして、オランダにおける電子商取引関連の「ラストワンマイル」配送を、今年末までに全てゼロエミッションに切り替え、これに続いて他市場でも「数百億ユーロ」規模の投資を進める。DHLで企業開発部門を率いるイン・ゾウ氏が明らかにした。
英スタートアップのパックフリートの売上高は、2022年に10倍の成長を見せた。顧客増加に伴い、ロンドン市内で展開する配送車両は2024年にはEVバン400台へと、現在の約50台から拡大する見通し。
パックフリートは来年、リバプール、バーミンガム、マンチェスターへと進出し、2年以内に英国内の主要20都市を網羅する計画だ。
トリスタン・トーマスCEOは「顧客からの問い合わせで最も多いのは、いつになったら進出してくるのか、この量全部を引き受けてもらえるようになるのはいつになるのか、という内容だ」と語る。
<「過酷なビジネス」>
今のところ、ゼロエミッションの宅配事業が成功を見せているのは欧州市場である。
だがダッチエックスは、ニューヨークで新サービスを立ち上げようとしている。共同創業者のマーカス・ホード氏によれば、小容量のコンテナをフェリーでマンハッタンに運び、ファーンフェイの電動カーゴバイクに積み替えて市内で配送するという。アマゾン・フレッシュやホールフーズといった顧客の荷物を電動バイク配送で扱う予定だ。
「できるだけ多くの配送をゼロエミッションにするよう、とても要求の強い顧客もいる」とホード氏は語る。
ダッチエックスの売上高は、今年30%以上増加して約4000万ドルになる見込みだ。今年はフィラデルフィアでも事業を開始する予定で、来年はさらに米国内の3─4都市に進出する。
DHLのゾウ氏は、物流企業に対して排出量削減を求めるプレッシャーは、顧客だけでなく、投資家からも高まっていると話している。
小売企業の一部は厳しい目標を設定している。たとえばイケアは、2025年までに「ラストワンマイル」配送を100%ゼロエミッションにする目標を掲げている。
スタートアップにとっての課題は、規模拡大の難しさである。スタートアップの多くは通常の配送用トラックよりも小さな車両を使っており、人件費その他のコストを埋め合わせるだけの量の荷物を配送することが困難なため、利益率が削られている。
「ラストワンマイルの配送はとても過酷なビジネスだ」と語るのは、カリフォルニア州を拠点とし、電動バイクに積載する貨物コンテナを製造するURB─Eのスベン・エッツェルスバーガーCEOだ。
テネシー大学で物流を研究するトーマス・ゴールズビー氏は、フェデックス、UPS、DHLといった「物流大手」は非常に大きなスケールメリットを享受しているが、その一方で地域企業にも成功の目はある、と指摘する。
「こうしたスタートアップによる脅威については、もちろん既存の物流企業もその発展への目配りを絶やさないだろう」とゴールズビー氏は語る。「また、既存企業は何かの部分で本当に成功しているサービス事業者があれば、買収に動きがちだ」
DHLのゾウ氏は、ゼロエミッションを掲げる配送スタートアップは脅威ではないと言いつつ、商取引上の関係であれ事業提携であれ、そうした企業への注目は常に怠らない、と話す。
英スタートアップのゼディファイは、電動カーゴバイクを使った配送事業を国内10都市で展開し、今後6カ月でさらに7つの都市に進出する。小売企業の顧客基盤を広げる一方で、フェデックスなど物流大手の貨物の配送も請け負っている。
ゼディファイのロブ・キングCEOは、事業を行う都市が増えれば小売企業との全国規模の契約につながるとし、今年の配送量は200万個、2024年には800万個に増える見込みだと語る。
今後4年以内に、英国内の人口10万人以上の都市約50カ所に進出するというのがゼディファイの目標だ。
キングCEOは「現在の配送量なら利益が出るし、非常に効率がいいことを証明できている」と語る。「だが、目標としている規模を実現するのは、どのような企業にとっても困難な課題だ」
(翻訳:エァクレーレン)
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