インサイト:軍事関与避けるイラン、ハマス支援との整合性に苦慮
ロイター / 2023年10月23日 17時9分
今月15日、イランは宿敵イスラエルに痛烈な最後通告を行った。写真はイスラエル南部のガザとの境界線付近で待機するイスラエルの戦車の車列。21日撮影(2023年 ロイター/Violeta Santos Moura)
Parisa Hafezi Jonathan Saul Arshad Mohammed
[ドバイ 22日 ロイター] - 今月15日、イランは宿敵イスラエルに痛烈な最後通告を行った。パレスチナ自治区ガザへの猛攻撃を止めなければ、わが国も行動を起こさざるを得なくなる、と外相が警告を発したのだ。
そのわずか数時間後、イランの国連代表はタカ派的なトーンを和らげ、イスラエルがイランの利益や市民を攻撃しない限り、自国の軍隊は紛争に介入しないと世界に保証した。
イスラム組織ハマスを長年支援してきたイランは今、板挟みの状況に立たされている。そのことが、イラン指導部の考え方を直接知る同国高官9人への取材で分かった。
イスラエルによるガザ侵攻を傍観すれば、イランが40年以上追求してきた地域支配戦略が大きく後退することになると、これらの情報筋は言う。
しかし、米国が支援するイスラエルに大規模な攻撃を行えば、イランは大きな打撃を被る上に、既に経済危機に苦しむ国民の間で指導者への怒りに火がつく可能性がある。
イランは軍事、外交、国内の優先課題など、幅広い問題をてんびんに掛けていると情報筋らは説明した。
安全保障当局者3人によれば、イランの最高意思決定者の間では、当面のコンセンサスが以下のように形成されている。
一つ目は、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによるイスラエルの軍事目標への限定的な越境攻撃および、地域の他の同盟組織による米国の軍事目標への小規模な攻撃に賛同すること。
二つ目は、イラン自身を紛争に巻き込むような大規模なエスカレーションを防ぐことだ。
イランの国営メディアによると、議会・国家安全保障委員会のバヒド・ジャルザデ委員長は18日に「われわれは、友であるハマス、(ガザの過激派)イスラム聖戦、ヒズボラと連絡を取り合っている。彼らのスタンスは、われわれが軍事行動を起こすのを期待していないということだ」と述べた。
イラン外務省に今回の危機に対する対応についてコメントを求めたが、回答はなかった。イスラエル軍当局もコメントを控えた。
イランは綱渡り状態だ。
情報筋らによると、30年以上をかけ、ハマスとイスラム聖戦を通じて築いてきたガザの権力基盤を失うことは、イランにとってネットワーク構築に穴が開くことを意味する。
同国はヒズボラからイエメンの親イラン武装組織フーシ派まで、中東全域に代理武装組織の網を張り巡らせてきた。
3人の政府関係者によれば、イランが軍事行動を起こさなければ、こうした代理組織から弱腰と見なされかねない。また、イスラエルに対するパレスチナの大義を長年支持してきたイランの立場が損なわれる恐れもある。イランはイスラエルを国として認めず、邪悪な占領者と見なしている。
「イランは、ガザ地区にある武器を守るためにヒズボラを戦場に送るのか、それともこの武器を放棄して降参するのかというジレンマに直面している」と、イスラエルの元諜報高官、アビ・メラメド氏は語った。「これがイランの立ち位置だ。リスクを計算しているのだ」とも語った。
<国の存続を最優先>
軍事大国イスラエルは、核兵器を持っていると広く信じられている。同国はこれを肯定も否定もしていない。イスラエルはまた、米国の支持を得ており、米国はイランへの警告も兼ねて空母2隻と戦闘機を地中海東部に移動させた。
イランの外交高官は「イランの指導部、とりわけ最高指導者ハメネイ師にとって、最優先事項はイランの存続だ」と述べるとともに「だからこそ、イラン当局は攻撃開始以来、イスラエルに対して強い言い回しを用いながらも、少なくとも今のところ、直接的な軍事的関与を控えている」と解説した。
ハマスがイスラエルを攻撃した今月7日以来、ヒズボラはレバノン・イスラエル国境沿いでイスラエル軍と衝突し、ヒズボラの戦闘員14人が死亡した。
ヒズボラの考え方に詳しい情報筋2人によると、こうした低レベルの戦闘はイスラエル軍を忙殺させつつ、新たな主要戦線は開けないよう意図されたものだ。
イスラエルの安全保障に詳しい情報筋3人と西側の安全保障筋1人がロイターに語ったところによると、イスラエルはイランとの直接対決を望んでいない。また、イランはハマスを訓練し武器を供与してきたが、7日の攻撃を事前に知っていた形跡はないという。
最高指導者ハメネイ師は、ハマスがイスラエルに与えた損害を賞賛しつつも、イランによる攻撃への関与は否定している。
イスラエルと西側の安全保障筋は、イスラエルがイランを攻撃するのは、イラン軍に直接攻撃された場合だけだと語った。もっとも状況は不安定であり、ヒズボラや、シリアやイラクのイラン代理組織がイスラエルを攻撃し、多くの死傷者が出た場合には、状況は変わり得るとくぎを刺した。
<米国は軍事介入せず>
米政府高官らは米国の目的について、選択肢を開けておきつつも、紛争拡大を防ぎ、他国が米国の利益を攻撃するのを抑止することだと説明している。
バイデン米大統領は18日にイスラエルを訪問した帰り、ヒズボラが戦争を始めた場合、米軍はイスラエル軍と一緒に戦うとバイデン氏側近がイスラエルに示唆した、というイスラエルメディアの報道をきっぱりと否定した。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、紛争を封じ込めたいという米国の意向を改めて説明し「米軍を戦闘に投入する意図はない」と記者団に語った。
<イラン国内に蓄積する指導部への不満>
一方、今回の中東紛争にはイラン国民自身が一定の影響を及ぼすかもしれない。
高官2人によると、国内では経済危機と社会問題を背景に指導部への反感が強まっており、指導部はこれを鎮めながら直接紛争に関与する余裕はない。
昨年、スカーフの着用が不適切だとして当局に拘束された女性が死亡して以来、何カ月間も社会不安が続いている。国は着用規則を守らない国民への取り締まりを続けている。
経済的な苦境が続く中、多くのイラン国民は、中東におけるイランの影響力を拡大するため、数十年にわたり代理組織に資金を流してきた政府を批判するようになった。
イランの反政府デモでは何年も前から「ガザでもレバノンでもなく、私はイランのために命を捧げる」という言葉がスローガンとなっている。
元イラン高官は「イランの曖昧な立ち回りは、地域の利益と国内安定との間で微妙なバランスを採る必要性を浮き彫りにしている」と語った。
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