アングル:「トランプ氏推し」のロシアメディア、ロ大統領府は冷静
ロイター / 2024年10月23日 15時35分
10月22日、プーチン大統領を始めとするロシア当局者は、11月5日の米大統領選で誰が勝利してもロシアにとっては大差ないと主張する。写真は9月、大統領選候補者討論会の模様を写すモニター。フィラデルフィアで9月撮影(2024年 ロイター/Evelyn Hockstein)
Andrew Osborn Guy Faulconbridge
[モスクワ 22日 ロイター] - プーチン大統領を始めとするロシア当局者は、11月5日の米大統領選で誰が勝利してもロシアにとっては大差ないと主張する。しかし、ロシア国営メディアの米大統領選の報道を見れば、共和党候補のトランプ前大統領を強く支持しているのは誰の目にも明らかだろう。
国営テレビ局チャンネル1のニュース番組は今月、米大富豪のイーロン・マスク氏とテレビ番組司会者タッカー・カールソン氏が民主党候補のハリス副大統領を中傷する動画を流した。
プーチン氏が皮肉交じりに先月語ったハリス氏の爆笑癖を放送で大きく取り上げ、ハリス氏の選挙戦中の最もさえなかった場面をまとめて流した。
チャンネル1は対照的に、トランプ氏と副大統領候補のバンス上院議員についてはトランスジェンダーの政策から移民問題に至るまでの全てで堅実で、常識があるとの内容を放送。トランプ氏を暗殺する計画が発覚したように、不吉な勢力に狙われていると描いた。
ロシア政府は誰が次期大統領になるのかは米国民だけの問題であり、誰が選ばれても協力すると言っている。また、国営メディアは、放送方針の意図的な操作を否定している。
だが、一部の元国営メディア従業員は、大統領府が毎週の定期会合でさまざまな問題についての放送指針を出していると公に語っている。
国営メディアがトランプ氏を明らかに好むのは、驚くことではないかもしれない。
トランプ氏は、バイデン米大統領やハリス氏と比べてロシアに侵攻されたウクライナへの支持を明確に打ち出していない。ウクライナ政府は、トランプ氏が勝利した場合には、最も重要な同盟国となっている米国を失うかもしれないという懸念を強めている。
プーチン氏を長年にわたって繰り返し称賛し、良好な協力関係を築いたと自負するトランプ氏は先週、ウクライナのゼレンスキー大統領が開戦の手助けをしたと非難した。
トランプ氏については今月、2021年1月に大統領職から退任して以来プーチン氏と数回にわたって話したと報道されたが、トランプ氏は事実関係を認めることを避けた。
対照的にハリス氏は、プーチン氏のことを「人殺しの独裁者」と批判し、ウクライナを支援し続けると明言。さらに、ロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏がロシアで獄死したことは「プーチン氏が持つ残虐さをさらに示した」と訴えた。ロシア政府は、ナワリヌイ氏が死亡したことへの関与を否定している。
国営テレビはゴールデンタイムのトーク番組で、トランプ氏への支持を表明するスピーカーもしばしば出演させてきた。
モスクワ大のアンドレイ・シドロフ上級研究員は今月、国営テレビの主要トークショーでトランプ氏の方がロシアにとって好都合だと語った。その理由としてトランプ氏が勝利すれば内紛を引き起こし、米国が分裂するという反西欧のロシアのタカ派が長年抱いてきた幻想が現実になる可能性があるからだとの見方を示した。
シドロフ氏は「私はトランプ氏を支持するし、常に支持してきた。彼は破壊者だ。もしもトランプ氏が当選すれば、米国での内戦ぼっ発が現実味を帯びるだろう」とし、「トランプ氏はミサイルを発射することなく、私たちの地政学的な敵対国を本当に崩壊へと導くことができるだろう」と話した。
一方で、もしもハリス氏が勝利すれば現在と同じ「たわごと」が続くだろうと予想した。
<「幻想を抱いていない」>
米情報機関の2017年の報告書によると、プーチン氏は16年の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントン元国務長官を誹謗中傷し、トランプ氏を支援するために巧妙なキャンペーンを張るように指揮していた。ロシア政府は大統領選への介入を否定し、トランプ氏は選挙期間中のロシアとの共謀を否定した。
今回の米大統領選で2人の候補はロシアへのアプローチが異なるものの、米ロ関係が1962年のキューバ危機以来で最悪の時期を迎えている中で一部のロシア政府関係者は双方の候補に警戒感を示している。
彼らは、リス氏が選ばれた場合、バイデン氏がロシアの代理戦争だとみているウクライナでの戦闘を 「最後のウクライナ人が倒れるまで」続けることを意味すると話す。
他方でトランプ氏は大統領在任時に、プーチン氏のことを温かい言葉で評したのとは裏腹に制裁を課したことが記憶されている。
ロシアのラブロフ外相は今年9月に「私は幻想を抱いていない。(大統領在任中に)トランプ氏はプーチン氏と何度か話をした。ホワイトハウスで私を何回か迎えてくれた。彼は友好的だった」としながらも、「トランプ大統領の下で対ロシア制裁が定期的に発動された」と振り返った。
その上でラブロフ氏は「結果として、私たちは独立独行が必要だという結論に達した。私たちは、善人が米大統領になることをあてにすることは決してないだろう」と言及した。
あるロシア高官は、大統領府の上層部ではトランプ氏についてさまざまな見解があるとしながらも、トランプ氏の勝利がロシアに良い結果をもたらさないかもしれないとの見方もあることを認めた。
この高官は「トランプ氏が大統領になった後にどうなったのかを見てほしい。事前には誰もが米ロ関係にとってプラスになると言っていたが、結局はさらに悪化した。トランプ氏はいろいろなことを言うが、いつも言った通りにするわけではない」と指摘した。
別の高官はロシアがどちらの候補にもあまり期待していないと説明。この高官は「トランプ氏、ハリス氏のいずれでもロシアとの関係を根本的に変えることはない」とし、「西側諸国はロシアと中国を悪だとみなし、西側諸国を善とみなしている。どのようなリーダーであっても、米国のエリート層を支配しているこの見方を変えることは考えがたい」との述べた。
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