アングル:米支援で息吹き返すウクライナ、兵力不足はなお課題
ロイター / 2024年4月23日 15時16分
4月22日、 米議会で半年近く論争が続いたウクライナ支援がようやく実現しようとしており、これは前線で消耗し切っているウクライナ軍にとって救いの神になるとともに、戦局を一変させる力になる可能性を秘めている。写真は20日、ウクライナ東部ドネツク州の前線で、りゅう弾砲の発射準備をするウクライナ兵(2024年 ロイター/Radio Free Europe/Radio Liberty/Serhii Nuzhnenko)
Tom Balmforth Charlotte Bruneau
[キーウ/クプヤンシク近郊(ウクライナ) 22日 ロイター] - 米議会で半年近く論争が続いたウクライナ支援がようやく実現しようとしており、これは前線で消耗し切っているウクライナ軍にとって救いの神になるとともに、戦局を一変させる力になる可能性を秘めている。ただし、効果が表れるにはかなりの時間がかかるかもしれない。
米下院が総額610億ドル(約9兆4388億円)のウクライナ支援緊急予算案を可決したことを受け、今週中には上院を通過し、バイデン大統領が署名して成立する見通しだ。
ウクライナ東部クプヤンシク近郊でロシアの攻勢を食い止めるための戦いで疲弊している軍兵士の1人からは「(もっと早く)可決してくれれば事態を劇的に変えられた」との恨み言も聞こえる。この兵士は、砲弾不足で歩兵の支援火力が弱まり、人命と領土の双方で犠牲を強いられたと話す。
ロイターが取材した軍事アナリスト2人やウクライナの元国防相、欧州の安全保障当局者らは、米国から武器弾薬が届けばウクライナが東部でロシアの大規模攻勢を阻止できるチャンスは高まる、と口をそろえる。
とはいえ、ウクライナは引き続き前線兵力の不足に直面しているほか、ゼレンスキー大統領が警告するようなロシアの夏季攻勢があった場合、1000キロに及ぶ広大な前線に沿って築かれた防衛陣地がどれだけ強固なのか疑念も残る。
ポーランドのロチャン・コンサルティングのコンラッド・ムジカ所長は「ウクライナの最も重大な弱みは兵力が足りないことだ」と指摘する。
ゼレンスキー氏が今月16日に署名した徴兵制度改革法は、動員の速度や効率性などを改善することを目指すもので、5月に発効する予定だ。しかし、新規入隊者は数カ月間の訓練を経なければ前線に配置できず、この空白はロシアが攻勢に動く機会になるとムジカ氏は解説。「向こう3カ月は(ウクライナ側にとって)恐らく事態が悪化し続ける。だが動員が計画通りに進み、米国の支援が実行されれば、秋以降は事態が良くなるはずだ」と予想した。
<ロシア優位の戦局>
ロシアは2月に長い激戦を経てウクライナ東部ドンバス地方の要衝アブデーフカを制圧して以降、戦局を優位に進めている。ロシア軍はゆっくりと前進し、投入する兵力や砲弾も増やしているところだ。
現在は戦略的に重要なチャシウヤールを圧迫しつつあり、ここをロシア軍に掌握されれば、ウクライナ側がなお保持するドンバス地方の幾つかの都市にも接近を許すことになる。
ゼレンスキー氏は先週、ロシア軍の今の砲兵火力はウクライナ軍の10倍に達していると述べた。ウクライナ軍将官の1人も今月、東部におけるロシア軍とウクライナ軍の兵力は10対7でロシアが有利だと懸念を示している。
ウクライナ軍情報部門の報道官は、ロシアがドンバス地方の完全掌握に注力しており、アブデーフカ西方と、クプヤンシクからリマンにかけて、バフムト西方という3つの戦線で攻勢をかけていると付け加えた。また昨年ウクライナが奪回したロボティンにも圧力を加えているという。
今年になってウクライナの陣地は、制空権を握るロシア軍機からの何千発にも上る爆弾で叩かれ、防御力が弱ってきている。
ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相は、米国などから地対空ミサイルシステムが供給されれば防衛力を強化できるし、年内にもウクライナが受領する予定のF16戦闘機はロシア軍機を完全に駆逐してくれると期待する。
ザゴロドニュク氏は、砲弾が補充されればウクライナとロシアの砲兵火力の格差縮小にもつながると話す。
米国だけでなく、欧州連合(EU)もチェコが主導する形で6月に155ミリ砲弾のウクライナ向け供与を開始する。
欧州の安全保障当局者はロイターに、ウクライナが米国とEUから新たな支援を得れば、ロシアが向こう12カ月で戦線に大きな突破口を開けるのを防げる確率は「かなり高い」との見方を示した。
<守りを固めて攻勢準備へ>
一方、ロチャン・コンサルティングのムジカ氏は、ウクライナ軍が全戦線にわたってロシア軍の前進を食い止める上で必要なのは「大規模な」兵力の投入だと主張し、個別に志願兵を入隊させる取り組みでは兵力不足解消には不十分だと付け加えた。
先の欧州の安全保障当局者も、ウクライナは動員を強化しなければならないと認めている。
ウクライナ軍情報部門の報道官によると、同国領の18%を占領するロシア軍がウクライナに展開している兵力は45万―47万人で、これに3万5000人の国境警備隊や、空軍と海軍の作戦兵力が加わる。
ウクライナ側は以前、保有兵力は約100万人だと明らかにしていた。
ゼレンスキー氏は昨年12月、新たに最大50万人の新兵を動員したいと表明していたが、今年2月に就任した新総司令官は、国内の資源を見直した結果として必要な兵力数の見積もりを大幅に減らしたと述べた。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の軍事科学ディレクター、マシュー・サビル氏は今年のウクライナ軍の状況について、防衛陣地はできる限り十分強固に構築されているが、恐らく一部の地域をロシアに奪われるだろうと分析。これは昨年のウクライナ軍の反転攻勢がロシアの前線に重大な穴を開けることができず、ロシア側が兵力集中に動き、米国の軍事支援が非常に遅れた結果だと述べた。
サビル氏は「(ウクライナにとって)目下の大きな課題は(各戦線で)同時に強固な防衛態勢を築き、来年の攻勢を準備することだ」と話す。
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