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豊かな海に酸性化の影=北極でいち早く進行―クリオネのエサに影響も

時事通信 / 2024年9月10日 15時10分

 【みらい船上・時事】ベーリング海峡の北に広がる北極のチュクチ海南部は、多様な海洋生物が集まる「ホットスポット」として知られる。海洋地球研究船「みらい」が同海域で行った採水調査では「シー・エンジェル(海の天使)」と呼ばれる巻き貝の一種クリオネも見つかった。だが、北極では海の酸性化がいち早く進んでおり、生態系への悪影響も懸念されている。

 ◇エサなしでも1年生存

 2本の角がある頭部に半透明の胴体。羽のような翼足をひらひらと羽ばたかせて浮遊する。体長は5ミリ程度。クリオネはプランクトンの一種で、北海道のオホーツク海沿岸では流氷の接岸とともに大量に出現することから、「流氷の天使」とも呼ばれる。

 クリオネを見つけた北海道大水産科学院の熊谷信乃さんは「すごくかわいい。飼育します」と言うと、クリオネを入れたガラス瓶を冷蔵庫に。1年くらいはエサがなくても生存できると話す。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)の藤原周・副主任研究員によると、チュクチ海南部には太平洋から栄養豊富な海水が流れ込む。食物連鎖の底辺にある植物プランクトンが米アラスカ州ホープ岬沖で沈んで貝や甲殻類のエサとなり、さらに海底の生物を食べる魚やクジラなどが集まって豊かな海を形成しているという。

 ◇殻がぼろぼろに

 一方、北極では海の酸性化が進行している。温暖化の主な原因である大気中の二酸化炭素(CO2)が海に吸収されると、海水はアルカリ性から酸性に近づく。これが進めば、炭酸カルシウムでできた貝やサンゴ、プランクトンの殻が溶けたり、殻を作りにくくなって成長に支障が出たりする恐れがある。

 米西海岸では、カキの養殖施設で幼生が大量死する事例が発生した。クリオネが唯一食べるミジンウキマイマイも、殻を持つプランクトン。酸性化した海水中では、ミジンウキマイマイの殻がぼろぼろになる現象も確認されている。

 藤原氏は「二酸化炭素は冷たい海水に溶け込みやすい」と説明。「北極で海氷が解けると、『ふた』がなくなったような状態になり、より多くの二酸化炭素が吸収される。その上、真水に近い海氷融解水が海中のアルカリ度を下げ、さらなる酸性化を促す」と話す。

 ◇将来の漁場に脅威

 特にチュクチ海の北方、海底が高台のように隆起したチュクチ海台で酸性化が著しい。JAMSTECの西野茂人・主任研究員は、ロシアのシベリア沿岸から酸素飽和度が低く酸性化が進んだ海水が流れてきていると指摘。シベリアでは温暖化で海岸浸食や永久凍土の融解が起き、海に流れ込んだ有機物を分解する過程で水中の酸素が減少し、二酸化炭素が増加しているという。

 チュクチ海台は水深が比較的浅いため、将来的に公海漁業の漁場になる可能性がある。西野氏は「この海域の低酸素化と酸性化は、漁業可能海域の生態系に対する脅威になりかねない」と警告している。 

[時事通信社]

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