功罪半ばの「独裁者」=経済・治安再建も失意の晩年―アルベルト・フジモリ元ペルー大統領
時事通信 / 2024年9月12日 15時15分
【サンパウロ時事】年率約7500%の超インフレと極左テロを力業で抑え込み、疲弊したペルーの再建と発展の礎を築いた。一方で、政権末期に独裁や汚職などで高まった「負のイメージ」も最期までつきまとった。人権侵害事件で無罪を主張したが、禁錮25年の実刑が確定。功罪半ばする指導者は晩年の大部分を獄中で過ごし、失意のうちに息を引き取った。
熊本県出身の両親は、ペルー移住後に生まれた長男アルベルトに「勤勉、誠実」の大切さを繰り返し説いたという。日本式の厳しいしつけは、南米初の日系人大統領誕生に大きく寄与することになる。
凄惨(せいさん)を極めたテロを憂い、1990年の大統領選に出馬。「テロリストに殺される」と猛反対する母親を、「死ぬ覚悟だ」と説き伏せた。学界から彗星(すいせい)のごとく現れた東洋人顔の大統領。密約と賄賂が横行する旧来型政治にうんざりしていた国民は、大きな期待を寄せた。
国会では少数与党に甘んじ、野党と鋭く対立。政策が行き詰まった92年、反対派を抑え込むため憲法停止と国会閉鎖に踏み切った。「自主クーデター」と呼ばれた強引なやり方は「独裁者」と批判を浴びたが、貧困層など多くの国民は非常措置を評価。支持率は80%に達した。
強い指導力は、96年の日本大使公邸人質事件でも発揮された。立てこもる左翼ゲリラの要求を一貫して拒否。発生から127日目、軍特殊部隊を突入させてゲリラを全員射殺した。テロに屈しない姿勢は決して揺るがず、任期中に主要組織はほぼ壊滅。治安の劇的回復で外資による投資が活発化し、現在に至る経済的安定が実現したことは反対派も認める。
しかし、2000年に側近の不正が暴露されると、日本滞在中に辞任を表明し、批判と失望を買った。大統領返り咲きを目指すも、刑事被告人として祖国で裁かれる屈辱も味わった。裁判所は、軍部隊が左翼ゲリラと疑う市民を拉致・殺害する作戦を黙認していたと認定した。
リマ市の外れにある収監先の国家警察施設では、好きな風景画を描く日々。インターネットを通じた情報発信にも熱心だった。だが、体力の衰えとともに、悔しさや孤独が心と体をむしばんだ。
17年のクリスマスイブ、病床で長年待ち望んだ恩赦の知らせを受けた。日本を出国してから事実上12年ぶりに自由の身に。「国民を失望させたことを認める。心より許しを請いたい」と謝罪した。しかし、裁判所は18年10月、「人権侵害は恩赦対象にならない」などとして恩赦を無効と判断。19年1月に再び捕らわれの身となり、23年12月の釈放まで雌伏の時を過ごした。「国民のために再び働きたい」。今年7月に26年の大統領選への出馬を表明したが、復権への執念が実ることはなかった。
[時事通信社]
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