焦点:中南米「エスカス条約」、環境保護活動家の命を守れるか
ロイター / 2021年4月25日 8時0分
4月19日、ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。ブラジル・アマゾナス州の熱帯雨林内にある先住民の土地で、森林伐採された場所を示す人々。2019年8月20日に撮影(2021年 ロイター/Ueslei Marcelino)
Anastasia Moloney
[ボゴタ 19日 トムソン・ロイター財団] - ラテンアメリカにおける活動家を保護することを目指す「エスカス条約」は、毎年多くの活動家が命を落としている同地域において、重要な分岐点になるかもしれない。もっとも、人権擁護団体によれば、この条約の成否は各国政府と大企業が本気を見せるかどうかにかかっている。
ニカラグアの活動家、ロッティ・カニンガム氏は、この条約を極めて重要と位置付けている。ニカラグア国内の先住民の土地における鉱業・農業プロジェクトに反対する同氏は、殺害予告やオンラインでの嫌がらせを受けることを覚悟するようになった。
「私たちは先住民の権利や母なる大地、天然資源を保護しようとする中で、脅迫やハラスメント、殺害予告に悩まされてきた」とカニンガム氏は言う。先住民出身の弁護士である同氏は、電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じた。
「これは事実上の戦争だ。フェイスブックでは、『戦争と言うからには血が流れる』というメッセージも受け取った」と、ニカラグア大西洋岸地域公正・人権センター(CEJUDHCAN)を率いるカニンガム氏は語る。
活動家に対するこうした攻撃が、脅迫に留まらない例も多い。ラテンアメリカ・カリブ海地域では、昨年、推定300人近い人権活動家が殺害された。
カニンガム氏のような活動家にとって世界で最も危険な地域であるラテンアメリカだが、活動家に対する保護を改善し、加害者に司法の裁きを受けさせることにつながるのではないかと期待されているのが、「エスカス条約」である。
この条約は4月22日に発効する。域内33カ国のうち24カ国がこれまでに調印し、12カ国が正式に批准した。法的な拘束力を承認した12カ国のうちの1つがニカラグアである。
カニンガム氏によれば、この条約は活動家を保護するだけでなく、鉱業や畜産などの事業者に対する許認可の決定に際して、先住民の人々の「実効的な関与」が可能になることが期待されるという。
また、この条約は、活動家が環境をめぐる事件や問題に関する公式情報にアクセスできるようにすることを各国に義務付けている。
<「画期的な条約」>
人権・環境に関する国連特別報告者のデビッド・R・ボイド氏は、この「画期的な」条約は、「命を救う」転機をもたらす可能性があると語る。
「環境・人権活動家の保護に向けた各国政府の具体的な義務を盛り込んだ世界初の条約だ」とボイド氏は言う。
「グローバルに見て、ラテンアメリカの一部の国は、環境・人権活動家に対する暴力が頻発するホットスポットになっている。この条約は、防止措置を強化し、各国政府が守るべき義務を定めることによって、そうした状況に対処することを直接めざすものだ」と──。
ボイド氏によれば、環境保護活動家に対する犯罪は見過ごされる場合があまりにも多いが、この条約によって、各国がそうした犯罪を捜査し、加害者を訴追するよう国内法を強化することを促す可能性があるという。
この条約が発効する一方で、ラテンアメリカ諸国の一部では、活動家への攻撃が今まさに増大しつつある。
活動家グループのフロントライン・ディフェンダーが今月公表したデータによれば、昨年、南北アメリカでは284人の人権擁護活動家が殺害されており、世界全体の犠牲者の86%を占めていた。
啓発団体グローバル・ウィットネスによる2020年のレポートによれば、土地に関する権利や環境保護のための活動家が最も多く犠牲になったのは、エスカス条約にも署名したコロンビアである。
土地の権利をめぐっては、昨年コロンビアで64人の活動家が殺害された(2018年は25人)。これはグローバル・ウィットネスがこれまでに記録した同国に関するデータでは最多となっている。
やはり暴力が頻発するホットスポットとなっているものの、エスカス条約に調印していないのがホンジュラスだ。最近では昨年12月に発生した襲撃事件で、銃と山刀で武装した男たちが、環境保護活動家を家族の前で射殺している。
<ゼロ・トレランス>
エスカス条約は締約国に対し、「活動家に対する暴力を」監視・報告し、新たなルールの遵守を確保するための機関を設置することを命じるとともに、表現の自由、移動と平和的な集会の権利など、環境保護活動家の権利を定めている。
ボイド氏は、環境保護活動家を危険にさらしている紛争の多くは、鉱業など採取産業が主導し、地元のコミュニティに対して彼らの土地で何が起きるのか説明もせずに進められるプロジェクトが原因になっていると話す。
条約が実際に効果を発揮するためには、暴力事件の根絶に向けて、先住民の人々には自分たちの土地で起きることについて判断する権利、プロジェクトについて十分な情報と協議の機会を与えられる権利があることを各国政府と企業が認識しなければならない、とボイド氏は言う。
ボイド氏は「こうした明快なステップによって、人々の生命を危険に晒すことにつながっている多くの紛争が実際に予防されるだろう」と語る。
グローバル・ウィットネスの活動家、マリナ・コマンドゥッリ氏は、政府が十分なリソースを確保することを公約し、企業の価値観が変化することも鍵になると言う。
コマンドゥッリ氏は「(条約が効果を発揮するとしたら、それは)適切な予算が配分され、域内の全ての国が条約履行にコミットし、大企業が人間と地球を優先しはじめる場合に限られる」として、政府と企業の姿勢の変化が必須だと語る。
さらに同氏は「ラテンアメリカ・カリブ海地域の環境保護活動家は、脅迫され、犯罪者扱いされ、殺害されるのは日常茶飯事だ。多くの場合、暴力事件は企業活動に関連している。各国政府は、そうした犯罪行為に加担している」と指摘。
「気候変動の危機への対処においては、環境保護活動家が主役になる。暴力や脅迫に対しては、ゼロ・トレランス(まったく容認しない)のアプローチが必要だ」と訴えた。
(翻訳:エァクレーレン)
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