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焦点:米中西部の農業地帯、農家の収入急減で地域のビジネスも苦境

ロイター / 2024年6月24日 9時0分

 米カンザス州のブレイディ・ピーターソンさんのレストラン「ピーツ」は、数キロにわたって風に揺れる小麦の穂に囲まれた小さな街にある。ランチ客で満員御礼のはずの土曜日だが、今は閑古鳥が鳴く。写真は小麦畑。カンザス州コルビーで5月15日撮影(2024年 ロイター/Heather Schlitz)

Heather Schlitz

[スミスセンター(米カンザス州) 18日 ロイター] - 米カンザス州のブレイディ・ピーターソンさんのレストラン「ピーツ」は、数キロにわたって風に揺れる小麦の穂に囲まれた小さな街にある。ランチ客で満員御礼のはずの土曜日だが、今は閑古鳥が鳴く。ふだんはフライドチキンやチーズバーガーを注文する近所の農家の人たちであふれていたが、農業収入の低迷とともに、ピーターソンさんの商売も上がったりだ。

売上低迷でピーターソンさん自身の収入も激減した。猛暑に見舞われる夏にも自宅のエアコンを使う余裕はないし、親友の葬儀に着ていくスーツを買うお金もない。

「結局、仕事着のTシャツと、良い状態のジーンズを履いていった」と、ピーターソンさんは語った。

米国の農家の2024年の収入は急落が予想されている。農産物価格の急速な反落、政府支援の削減、借入コストと人件費の高騰が原因だが、その経済的苦境は農家だけでなく、地域全体へと波及しつつある。

特に状況が深刻なのは、「プレーリー」と呼ばれる米国中部の平原地域に位置する各州だ。関係者によれば、この地域の農家はこの10数年で最悪の経済状況に直面しており、小規模都市はゴーストタウンになる恐れがあるという。

ロイターはカンザス州内で、企業経営者10人、商工会議所幹部2人、さらに2人のエコノミストと3人の農家に話を聞いた。厳しい干ばつが2年続いたうえに、種子と農薬・化学肥料の価格高騰、金利上昇、作物価格下落により、周辺の地域経済も干上がりつつあるという。

企業経営者たちは、前年比で20ー30%の減収になっていると語っている。米農務省では、全米では農業収入が前年比で25%低下すると予想している。金額ベースで見れば、年間での減少としては過去最大になりそうだ。

カンザス州コンコーディアで「メグズ・グルーミング・ペットサロン」を営むミーガン・ジェンセンさんは、「このあたりは農業地帯だ。それなのに、肝心の農家が使うべきお金を持っていない」と涙ぐむ。「有り金残らずこの店に投資してきた。失敗したらホームレスになってしまう」

米国の農家の収入は、2022年に過去最高を記録したが、その後、南米諸国での豊作や輸入産業・食肉加工産業での需要減少に由来する農産物価格の急落により、状況は一気に暗転した。トウモロコシ、大豆、小麦の先物価格は過去3年で最低の水準で推移している。

農務省のデータによると、カンザス州などプレーリー地域各州での農家収入の低下はさらに深刻で、今年は少なくとも2010年以降で最低になると予想されている。

カンザス州は米国最大の小麦生産州だ。エコノミストらは、農家収入の低迷は全国共通だが、米国産小麦への需要が縮小することで特に小麦生産地域への打撃が深刻だと指摘した。

<祭りか飢饉か――激しい浮き沈み>

カンザス州スミスセンターのブライス・ウィール市長は農家出身で、よく日に焼け、ふぞろいの白いあごひげを蓄え、しゃがれ声で話す。「ピーツ」店内でフライドチキンを前にして、相次ぐ差し押さえや、1500人台となった市内人口の減少、経済が陥っている悪循環について語ってくれた。

「農産物価格に依存しない産業は、まず見当たらない。農産物価格は地域社会に劇的な影響を与えている」と同氏は語った。

カンザス州の農業地帯では、中心街でもシャッターを下ろしたままの店舗があちこちで見られ、住民はかつてないほど人通りが減っていると指摘する。

カンザス州ノートンで銃砲店を営むシェーン・ワイアットさんは「このあたりでは浮き沈みがとても激しい。お祭り騒ぎか、飢饉(ききん)かといった具合だ」と語る。「ゴーストタウンとまでは行かなくとも、農産物価格低迷の影響は火を見るより明らかだ」

クレイトン大学の研究者らは5月、米国経済全般が順調に成長する一方で、中西部及びグレートプレーンズの農村地域の実体経済が後退したと報告している。農機具の売上不振と、農地価格が過去5年間で初めて下落したことが背景にある。

ノートンで宝飾店を営むラス・アーバートさんにとっての喜びは、上質のダイヤモンドが微かな光のもとでさえ輝く様子を若いカップルに見せ、婚約したばかりの女性が自分の指輪を見て微笑むのを見ることだ。だが、この小さな農業の街が経済的不振に陥ってからは、そういう場面も減っている。

「農家の若い人たちの中には、結婚を来年まで見送っているという例もある」とアーバートさんは語る。「今は節約したいからだ」

たまに客が来店しても、あまり値の張らないものを買っていくことが多い。銃砲店であれば銃ではなくてポケットナイフ、宝飾店では2カラットのダイヤモンドではなく、控えめな宝石といった具合だ。住民が所有物を質入れして当座の現金を得ることが増えたが、買い戻すために質屋を再訪する例は減った。

インフレの進行と金利上昇も、農家にとっては特に痛い。種子や肥料、家畜や農機まで、収穫後の返済を当てにした短期・変動金利のローンに依存しているからだ。

長引くインフレは企業経営者にも圧力となっているが、わずかな値上げでも文句を言われ顧客が離れてしまうコミュニティーでは、インフレだからといって値上げするにも迷いがある。

同州コンコーディアでドリンクバーとギフトショップを営むタミー・ブリットさんは、「同じ金額を稼ぐのに3倍は働かなければならなくなった気がする」と語る。

たえまないプレッシャーと、いつ終わるとも知れぬ仕事量のせいで、身も心も参りそうだと話す人もいる。

「ピーツ」の経営者ピーターソンさんは、「ストレスが高じて、髪をかきむしりたくなる日々だ。ときどき、店の裏に走り出て、戻る前に少し大声で叫びでもしないとやっていられない」と語る。「でも、楽天的にならないといけない」

(翻訳:エァクレーレン)

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