焦点:ロシア製ワクチン、生産大幅遅れで海外供給に「黄信号」
ロイター / 2021年5月24日 12時17分
5月14日、ロシアが開発した新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の生産に、大幅な遅れが生じている。写真はベネズエラ・カラカスに到着した「スプートニクV」。3月撮影(2021年 ロイター/Manaure Quintero)
[モスクワ 14日 ロイター] - ロシアが開発した新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の生産に、大幅な遅れが生じている。同国は世界にワクチンを供給すると大風呂敷を広げたが、有能な人材と設備の調達が壁となり、その約束を果たせていない。
プーチン大統領は鳴り物入りでスプートニクVを世界に向けて導入すると表明。3月には諸外国との間で接種7億回分の生産契約に署名済みだと説明していた。
しかし、ロイターの集計によると、5月12日時点で生産を終えたのは3300万人分、輸出したのは1500万人分にとどまっている。これは接種2回分のセットを1人分として計算した数字。
これは、毎月数億人分を生産している米ファイザーや英アストラゼネカと比べて、大幅に低い水準だ。
製薬会社4社と、生産過程およびロシアのサプライチェーンに携わる人物2人への取材により、スプートニクVの生産を加速する難しさが浮かび上がってきた。
スプートニクVの大量生産を計画するインドなどの提携国や、自国民への接種分をロシア製に頼る国々にとって、これは心配な状況だ。
自国民への接種に重点を置く欧米諸国と異なり、ロシアは中南米からアジアまで50カ国以上にワクチンの提供を申し出ている。だが、輸出が遅れ、その穴を中国と米国が埋めようとしている。
加えて、ブラジル当局は安全性・有効性データの不足を理由にスプートニクVの輸入承認を却下した。
スプートニクVの輸出を司る政府系ファンドのロシア直接投資基金(RDIF)は、世界的に生産能力が拡大しており、年内に8億人分を生産する計画だとし、それは供給契約を遵守するという強いコミットメントを示したものとロイターの取材に答えた。
ロシア保健省にコメントを要請したが、返信がなかった。
産業貿易省は、スプートニクVの生産は国内の大規模接種計画に十分な量を超えているほか、インドや中国のメーカーも生産中だとした。
<目隠し状態>
バイオ技術企業のRファームは、モスクワ郊外にある旧ソ連時代の自動車工場跡地をワクチン生産施設に転換した。ここまでは簡単だったが、生産過程を一から習い、バイオリアクター(生物反応器)を用いて細胞を培養することは「目隠しで」作業しているようなものだったとアレクセイ・レピク最高経営責任者(CEO)は話す。
「ワクチンを生産するには、1種類について1カ月半かそれ以上を要する。その後、できた物を参照サンプルと比べ、適合すればラッキーだが、そうでなければ廃棄することになる」と説明した。
Rファームは、世界的な設備と資源の供給不足にも苦しんでいるという。3月末までに毎月1000万回分の生産を目指していたが、未だに累計生産量は100万回分に満たない。
ロイターが取材した製薬会社は、スプートニクVは「アデノウイルスベクター」ワクチンという設計になっているため、とりわけ製造が難しいと話した。
ベクターは普通の風邪ウイルスを改変し、免疫構築を誘発する遺伝子情報を体内に運ぶ役割を果たす。
他のアデノウイルスワクチンと違い、スプートニクVは初回接種分と、21日後に実施する2回目の接種分にそれぞれ異なるベクターが用いられている。製薬会社によると、初回分の方が2回目分よりも生産が容易だという。
大手製薬会社、ビオカドのドミトリー・モロゾフCEOは「非常に難しいワクチンであり、事実上2つの異なる医薬品を作っているようなものだ」と話した。同氏は後日、技術的な問題は解消し、ここ数カ月で生産が急増したとコメントした。
ワクチン戦略に詳しい関係者2人によると、こうした問題を解決するため、ロシアはアストラゼネカとの協力に乗り出した。当局はもう1つの解決策として、接種が1回で済む「スプートニク・ライト」の使用を承認した。
<土地と人材>
世界的な設備獲得競争も難題だ。ロシアは製薬工場の供給が限られている。
ビオカドとスプートニクVの生産最大手・ジェネリウム社は、ともに既存工場をワクチン生産に転用した。だが、生産を拡大するには新たな工場が必要で、ジェネリウムは新工場を建設中だ。
民間製薬会社、ファーマシンテズのビクラム・プニアCEOにとって最大の問題は、熟練した人材の不足だ。「設備は買えるし、工場なら建てられる。しかし、バイオ技術において最も重要なのは有能な人材であり、そうした人材は多くない」とプニア氏は語った。
(Polina Nikolskaya記者 Polina Ivanova記者)
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