魂むしばむ恐怖と孤独=生存者「伝え続ける」―27日、アウシュビッツ解放80年
時事通信 / 2025年1月26日 15時40分
ナチス・ドイツによる第2次大戦中のユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を象徴するポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所が1945年に解放されてから27日で80年を迎える。インタビューに応じた生存者のエバ・ウムラウフさん(82)は当時2歳。収容所の記憶は全くないが、生存者が抱えるユダヤ人という理由だけで迫害され、家族を失った恐怖と孤独が「無意識のうちに肉体と魂をむしばんだ」と語った。
最も古い記憶は解放後、幼少期に住んだスロバキア北西部トレンチーンの光景だ。街を歩けば知らない大人たちが自分たちを見て「奇跡だ」と驚き、チョコレートをくれた。「なぜ自分が奇跡なのか」。疑問は湧いたがうれしくもあった。
ウムラウフさんは42年12月、スロバキア中西部のノバキー収容所で生まれた。44年11月3日、両親と共にアウシュビッツに移送。収容時に引き離されたという父親の記憶はない。85日後、連合国側のソ連軍によって解放された。2歳だった少女の身に何があったかは不明だが、重い呼吸器疾患を患い、極度の飢餓状態に陥っていた。軍医は母に「子どものことは忘れなさい」と告げるほどだった。
左腕の内側に「A26959」と入れ墨が刻まれているが、「全ての人が番号を持っている」と思っていた。小学生の頃、友達には当然のようにいる父親や、親戚が一人もいないことに違和感を覚えた。収容時に彫られた入れ墨の意味や、母と3歳年下の妹以外の親族が全て殺害されたことの異常さを理解できるまでには時間がかかった。
結婚後にドイツ南部ミュンヘンに移って小児科医としてキャリアを積み、「普通」に暮らしてきたウムラウフさん。心の傷がうずき始めたのは42歳の時だ。第3子妊娠時、赤ん坊がガス室に放り込まれる悪夢を見た。出生後に容体が安定しなかったわが子を失う恐怖にさいなまれた。気に留めてこなかったユダヤ人を狙った事件に激しく動揺するようになった。
「アウシュビッツは私たち家族の人生全てを決定付けている」。2014年に心臓発作を起こしたことを機に、生存者の「宿命」を背負う覚悟を決めた。失った家族の痕跡を求めて資料を集め、他の生存者を訪ねて聞き取りを実施。16年に自伝を出版した。ホロコーストを直接経験した最後の世代として、記憶を戦後世代に「できる限り伝え続ける」と誓っている。
[時事通信社]
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