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10年下半期・日銀議事録:「包括緩和」決定、金融資産購入「異例」の措置

ロイター / 2021年1月25日 9時19分

[東京 25日 ロイター] - 日銀は25日、2010年7─12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。ベン・バーナンキ議長率いる米連邦準備理事会(FRB)が大胆な金融緩和を進める中、外為市場で円高が進行。日銀は10月の会合で実質ゼロ金利政策の復活や多様な資産買い入れなどを束ねた「包括緩和」へ踏み出す。当時、上場投資信託(ETF)などの資産買い入れは「異例の時限措置」という位置づけで、同施策にはらむリスクも慎重に吟味されたが、買い入れ開始から10年経た今も施策は継続し、止め時を捉えられないまま「効果」と「持続性」が今日的な課題として浮上している。

2010年は民主党が政権を担った。鳩山由紀夫首相(肩書きは当時、以下同)が米軍普天間基地移設問題などをめぐる政権運営の混乱の責任をとって辞任し、6月に菅直人内閣が発足していた。

<円高で議論活発化>

7月14─15日の会合では、日銀が前回6月会合で正式に決定した「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、メディアや銀行などが誤解している部分があると各政策委員が言及。政策の主旨を正確に伝えていくことが重要だと話し合われた。

この時期、ドル/円が80円半ばと約15年ぶりの水準になっていたこともあり、8月9─10日の会合では円高に関する議論が活発化した。須田美矢子審議委員は、日本では円高がプラスになっている人は沈黙し、困った人だけが大きな声を出していると述べ、日本は円高への「恐怖症が強過ぎる」と指摘。白川方明総裁も円高の影響について「バランス良く評価していく必要がある」と考えを述べた。

<止まらぬ円高、臨時会合で追加緩和>

8月の日銀会合の直後、FRBが失速しつつある景気回復のてこ入れに向け、満期を迎えるモーゲージ担保証券(MBS)を長期国債に再投資する方針を打ち出した。刺激策からの出口戦略について協議していたFRBにとっては大きな方針転換を意味し、ドル/円は8月末に一時83円台に突入する。

菅首相は8月27日、円高に懸念を表明。為替介入を示唆するとともに、日銀には「機動的な金融政策の実施を期待する」と語った。米国に出張していた白川総裁は予定を早めて帰国。日銀は30日、臨時の決定会合を開き、追加の金融緩和を決めた。

追加緩和は、3月会合で供給量の拡大を決めた0.1%の固定金利での共通担保資金供給オペを拡充する内容。白川総裁をはじめ複数の政策委員から、日銀が景気の下振れリスクにしっかり取り組んでいる姿勢を示すうえで意味があるとの指摘が出ていた。

<「『動かない日銀』のレッテル返上」との声>

9月に入っても外為市場では円高基調が続いた。1週間前の臨時会合で追加緩和を打ち出したばかりであったが、9月6─7日会合の声明文には今後の追加緩和の可能性を示唆する文言が盛り込まれた。

宮尾龍蔵審議委員は、円高と株安が今後一層強まれば、日本経済の見通しのメインシナリオの変更が必要となると指摘。「政策オプションの検討も含めて適時・適切に行動していくということが重要」だと主張した。須田委員が「動かない日銀というレッテルを返上する必要がある」と宮尾委員の発言に同調。西村清彦副総裁は「現状の金融緩和の質、量を考えながら、予断を持たずに政策のツールキットを広げて、有効な政策を検討していく必要がある」と述べた。

<包括緩和>

9月14日の民主党代表選では再選を果たした菅首相だったが、ドル/円はこの日、82円台まで円高が進んだ。翌15日、政府・日銀が6年半ぶりの為替介入に踏み切り、一時85円台まで押し戻したものの効果は続かず、10月にかけて再び円高が進行した。

10月4─5日の会合は、日銀が「包括緩和」と名付けた措置を打ち出した重要回となった。政策金利の誘導目標を引き下げて実質ゼロ金利政策を復活。同政策の時間軸を明確化するとともに、多様な金融資産を買い入れるため、バランスシート上に総額35兆円程度(新型オペ30兆円程度、買い入れ資産5兆円程度)の基金を創設することも検討するとした。

議論では、複数の政策委員から、強力な金融緩和を一段と強く推進することが必要との意見が述べられた。一方、これまでに(政策の)実効性を見込める領域が狭まってきており、日銀が手をつけていない手段を模索することがテーマとなった。

須田委員は、全体としてリスク量が減ると考えられるため多様な資産の購入が望ましいとし「私が常々候補として懐に入れていたものは株式の購入」だと表明。宮尾委員も「異例の時限措置」としてリスク性資産を含む多様な金融資産の買い入れを提案。どのような金融資産が候補として考えられるのかと執行部に問いかけた。

櫛田誠希企画局長は、株式のところではETFは個別性がなく、市場全体への波及も期待できるという点で候補になり得る、と指摘。宮尾委員は、日本経済にリスクテイクを幅広く促すという自身の提案の趣旨にETF買いは合致する、と同意した。

一方、野田忠男委員は、政策効果を高める狙いから、いくつかの政策を束ねる形で金融緩和を打ち出すことができないかと提案したほか、西村副総裁は「多様な金融資産を幅広く購入する、基金とでも名付けられるようなものを導入するのが適当」との意見を出した。

西村副総裁は、多様な金融資産の購入は、資産の損失発生リスクを日銀が負うことを意味し、結果的に国民に負担が及ぶ類のものであると指摘。その意味は非常に重いとの認識を示した。白川総裁は「臨時、異例であることがいつの間にか恒常化する危険性がある」と語った。

日銀は「包括緩和」の表明以降、早期に金融資産買い入れを始められるよう準備を急いだ。10月28日の会合では、創設する基金による買い入れについて運営の基本要領などを決定。積み残したETFとJ━REITの買入基本要領も決めるため、次回会合を従来予定の11月15━16日から、同4─5日に前倒して行うことにした。

<白川総裁、FRBの「QE2」に感想>

11月の決定会合の直前、FRBが連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、追加の金融緩和策を決めた。2011年6月までに6000億ドルの米国債を追加購入し、市場に資金を供給する量的金融緩和第2弾、「QE2」と呼ばれる政策だ。

11月会合では白川総裁が「QE2」に対する感想を述べる場面があった。FRBはバランスシートの規模を大きく拡大させてきたが、その効果が非常に強いものであれば、さらにここで再拡大する必要がないと指摘。「そのことが示すように量の拡大それ自体が持つ景気への効果については、やはり慎重にみておいた方が良い」と語った。

宮尾委員は、ETF等の購入に関し、方法次第で副作用を伴うと指摘した。仮に日銀の買入方式がマーケットに伝わってしまうと、マーケットの攪乱要因となるおそれがあるため、運営は十分な注意を払ってほしいと要請。同時に「必要が生じた場合にはその買入方式についても適宜見直しを行うことも検討をお願いしたい」と念押しした。

12月に入るとETFとJ-REITの買い入れが始まり、資産買入の基金において全ての対象資産の買い入れがスタート。ドル/円も円高が一服し83円から84円台を中心に一進一退となっていた。12月20━21日の決定会合では、包括緩和の暫定的な評価が議論された。

<ETF購入、現在は持続性を議論>

2010年12月、年4500億円ペースでスタートしたETF買入額の上限はその後、段階的に引き上げられ、コロナ禍の昨年3月に当面12兆円まで拡大。現在の日銀のボードメンバーからも資産買い入れの持続性について問題意識が示されるようになってきた。白川総裁が10年前の包括緩和決定時に指摘した「臨時、異例であることがいつの間にか恒常化する危険性」は、現在、日銀が置かれている状況を的確に言い当てている。

(杉山健太郎 編集:石田仁志)

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