焦点:コロナワクチン普及のシンガポール、規制緩和で死者増加
ロイター / 2021年10月25日 16時9分
10月22日、 経済的に豊かなシンガポールは、国民の新型コロナウイルスワクチン接種を積極的に進めた結果、パンデミックと格闘する多くの国がうらやむほど高い接種率を達成した。シンガポールのワクチン接種会場で3月撮影(2021年 ロイター/Edgar Su)
[シンガポール 22日 ロイター] - 経済的に豊かなシンガポールは、国民の新型コロナウイルスワクチン接種を積極的に進めた結果、パンデミックと格闘する多くの国がうらやむほど高い接種率を達成した。ところが、足元で新規感染者数と死者数は過去最高を記録。社会にとってさまざまなリスクが残り続けることを示唆している。
シンガポールではマスク着用が義務付けられ、行動規制がなお厳しい上に、追加接種も始まった。それでもデルタ株が主体となっている直近の感染拡大局面における死者は、9月初めの55人から280人に増えた。
「これから規制措置が次第に緩和されるとともに、シンガポールはもう2回か3回、感染拡大の波を経験するかもしれない。それまで死者数は恐らく増加し続ける。まだ、ワクチンを打っていない多くの高齢者が接種可能となるか、追加接種がより普及しない限りは」とシンガポール国立大学の疾病モデリング専門家、アレックス・クック氏は話す。
シンガポールは、幾つか存在するいわゆる感染ゼロ国の1つ。世界屈指の厳格な規制措置を実行し、新規感染者と死者を他国・地域よりずっと少ない数に抑え込んできた。こうした規制は、全人口550万人の大半が接種を終えてから、徐々に規制を緩めて経済活動を再開させる戦略の一環だった。
そして今、そろりと国境を再開し、ワクチン接種を条件に入国者の隔離を不要とする先を10カ国余りまで拡大している。オーストラリアとニュージーランドも同様の段階に移行。中国は、まだそこまで踏み切っていない。
ただ、当局が直面する問題は、特にデルタ株が世界的な主流となった後、どうやって高齢者や免疫力の弱い人々の感染急増を防ぐかにある。クック氏は「私がオーストラリアやニュージーランド、中国の政策担当者なら、シンガポールで起きた事態を調査・研究するだろう」と述べた。
シンガポールで接種に利用されたワクチンはファイザー/ビオンテック製とモデルナ製が大半。接種率は84%に達しているものの、ワクチンは最も脆弱な人々を守ってはくれないかもしれない。
過去1カ月間の死者のうち、ワクチン接種を完了した人の比率は約30%。そのほとんどは基礎疾患がある60歳以上の高齢者だった。これは、高齢者と重病者ではワクチンで得られる防御力が低くなるという複数の臨床試験結果と一致する。
オックスフォード大学が運営する「アワーワールド・イン・データ」によると、100万人当たりの7日間移動平均の死者数はシンガポールが1.77人で、同じアジアの日本(0.14人)、韓国(0.28人)より多い。米国は4.96人、英国は1.92人だ。
一方、シンガポールの100万人当たりの累計死者数は47.5人と世界最少。ブラジルは2825.7人、米国は2202.4人となっている。
<デルタ株で一変>
シンガポール政府が8月に一部規制を緩和した後、新規感染者数はじわじわと拡大し、今月18日からの週は4000人近くと、昨年のピーク時の3倍に迫る水準になった。
パンデミックの大半の期間を通じて厳格な規制措置が感染を抑えてきたとはいえ、デルタ株に対する効果は弱まっている、と専門家は指摘する。もちろんワクチン接種率が高いおかげで、ほぼ全ての感染者は無症状か軽症にとどまっている。
国立大学病院の感染症専門家、デール・フィッシャー氏は「死者のほとんどはごく限られた数のワクチン未接種者だ。新型コロナウイルス感染症が風土病化するとともに、感染者がどんどん増えているという現実がある」と述べた。
こうした中でシンガポール政府は、医療体制への重圧を和らげる目的で社会距離に関する制限の一部を約1カ月間延長する方針を打ち出した。
また、12歳以上の国民向けのワクチン接種がほぼ完了したことから、政府は追加接種に軸足を置きつつあり、高齢者や医療従事者だけでなく30歳以上の一般国民までを対象にしようとしている。
シンガポールは、ワクチン接種自体を義務化していないが、未接種の場合は飲食店やショッピングモールへの入場が禁止されている。このため、11日からの週に1回目のワクチンを打った未接種者は1万7000人と前週比で54%も増えた。
アジア・パシフィック・ソサイエティ・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー・アンド・インフェクションのポール・タンビア氏は「規制緩和が感染者数に影響を及ぼすとは思わない。依然として重要なのは残っている未接種の高齢者にワクチンを行き届かせ、弱者を守ることだ」と強調した。
(Aradhana Aravindan記者)
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