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アングル:水不足のパナマ運河で船滞留、今後のニューノーマルか

ロイター / 2023年8月25日 17時36分

 今月、「エバーマックス」号は照明器具やソファ、ハロウィーン用の衣装、作り物のクリスマスツリーといった貨物を積み、記念すべきパナマ運河初通過を果たそうとしていた。写真はパナマ運河を通航するばら積み貨物船「モンロビア・NSUチャレンジャー」。4月19日撮影(2023年 ロイター/Aris Martinez)

Lisa Baertlein Marianna Parraga

[ロサンゼルス/ヒューストン 21日 ロイター] - 今月、「エバーマックス」号は照明器具やソファ、ハロウィーン用の衣装、作り物のクリスマスツリーといった貨物を積み、記念すべきパナマ運河初通過を果たそうとしていた。ところが同号は、重量削減のため何百個ものコンテナを降ろすことを余儀なくされた。理由は、史上最悪規模の干ばつだ。

台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)所有の「エバーマックス」号は8月1日、太平洋と大西洋を繋ぐパナマ運河を通過する船舶として、積載コンテナ数の最多記録を樹立するはずだったが、異常気象による混乱のため、そのチャンスはついえた。

パナマ運河庁は、同運河を通行する船舶の最大重量を下げ、1日当たりの通航許可隻数を抑えている。目的は水の節約だ。

現在、世界の貿易の80%を担う海運業界への気候変動の影響は特に注目されている。そんな中、世界で5番目に降水量が多い国であるパナマでさえ水不足に陥っていることで、海運専門家はこうした状況が「ニューノーマル」になりはしないか懸念している。

船舶オーナーには、積荷を減らすか、数千キロも距離が延びる覚悟で航路を変えるという選択肢もある。さもなければパナマ運河通過の順番待ちを我慢するしかないが、8月初頭には160隻の船舶が停滞し、21日間もスケジュールが遅れた船もある。

パナマ運河の通航制限により、中国・米国間のスポット輸送価格が最大36%も上昇する一方で、海水温の上昇を踏まえ、気候学者は異常気象がさらに激化しかねないと警告している。

ワールドウェザーの創業者で農業気象学者のドリュー・ラーナー氏は、「気温が平年よりはるかに高いだけに、注意喚起が必要だ」と語る。同社の顧客には、世界規模のコモディティー商社が複数含まれている。

空輸・海運の料金ベンチマークサイト「ゼネタ」でチーフアナリストを務めるピーター・サンド氏は、運河の管理事業者も、海運貿易の混乱に対応しつつ、来年にはさらに深刻な乾季をもたらすと見られる状況に備えるために綱渡りの状態にあると語る。

2022年には1万4000隻以上の船舶がパナマ運河を通過した。パナマ運河を最も頻繁に利用しているのはコンテナ船で、北東アジア・米国東岸間で取引される消費財の40%以上を輸送している。

船荷証券の監査を業務とする企業で最高経営責任者(CEO)を務めるスティーブ・フェレイラ氏が提供するデータによれば、パナマ運河で停滞した米国行き船舶の積荷は、バービー人形や自動車部品、BYD製ソーラーパネル、水処理装置、糖尿病検査キットなどだった。

パナマ運河の通航制限は今年初めから実施されており、約170カ国、事実上あらゆる種類の貨物に影響を与えている。米国から輸出される大豆や液化天然ガス、チリ産の銅や未加工のサクランボ、ブラジル産牛肉なども含まれている。

トウモロコシから鉄鉱石に至るコモディティーを輸送するバラ積み船だけでなく、石油やガス、化学製品を輸送するタンカーにも影響が出ている。エネルギー会社の中には、石炭や液化天然ガスを積載した船舶をスエズ運河経由の航路に転針させたところもある。

<気になる水位>

パナマに干ばつをもたらしているのは、中央太平洋および東部太平洋の熱帯域における海水温が平年よりも高くなる「エルニーニョ」と呼ばれる現象だ。

パナマ運河庁とスミソニアン熱帯研究所(STRI)が示したデータによれば、パナマ運河周辺地域は、同国で観測記録の残る143年の中で史上1、2位を争う最も乾燥した年となりつつある。この地域で観測された雨量は平年よりも30-50%少ない。

パナマ運河の閘門システムにおいて船舶を浮かべる水を供給する主要水源は雨水に頼っているガトゥン湖だが、今年の雨季での増水分にもかかわらず、その水位は通常以下に留まっている。

STRIのスティーブン・ペイトン氏によれば、本格的なエルニーニョ現象が生じると、乾季の到来が早まる可能性があり、平年よりも気温が高くなるのがパナマにおける典型的なパターンだ。これがガトゥン湖からの蒸散量を増加させ、2024年3月か4月までに記録的な低水位をもたらす可能性があるという。

パナマにおける降水パターンを30年以上にもわたり観測してきたペイトン氏は、「全ての要素がそろっている」と語る。

パナマ運河開設から109年になるが、本格的なエルニーニョ現象に伴う乾燥というパターンが発生する頻度は、この25年間で大幅に高くなった。これが続けば「(パナマ運河が)最大級の船舶でも通過できることを保証するのはますます困難になっていく」と、ペイトン氏は指摘する。

<さらなる制限も覚悟>

水位低下に対応するため運河の管理事業者が船舶の最大積載量を抑制してきたことは、「エバーマックス」のような大型船舶には頭痛の種となっている。

「エバーマックス」は40フィート(約12メートル)コンテナを8650個以上運べるように建造された。パナマ運河の太平洋側に到着したとき同船が積載していたのはコンテナ7373個分だけだったが、それでも制限を超過してしまった。

パナマ運河庁とEIKONの船舶追跡サービスによれば、「エバーマックス」は700個ほどのコンテナを荷揚げして鉄道で輸送し、運河の大西洋側で再び回収して、米国東岸への航行を続けたという。同船のオーナーである長栄海運 はコメントを控えるとしている。

パナマ運河庁は通常1日約36隻となっている通航許可隻数を32隻に削減している。1隻通過するたびに約5000万ガロンの水が必要となり、再利用されるのはその一部に留まっているからだ。

海運企業の経営陣は、今年後半にはさらに通航許可隻数が削減されるのではないかと身構えており、2020年には、干ばつが今年ほど深刻ではなかったにもかかわらず、管理側が1日の通過船舶数を27隻に削減した例を挙げる。

SEKOロジスティクスでグローバル最高商業責任者(CCO)を務めるブライアン・ブールケ氏は、「世界どこであれ、製品を海上輸送しているならば、気候変動由来の混乱が発生する可能性に注意を払うべきだ」と語る。「パナマ運河は、単に直近の事例にすぎない」

(翻訳:エァクレーレン)

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