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アングル:連続ハリケーンで米国に大きな被害、洪水マップの見直しを求める声

ロイター / 2024年10月26日 7時58分

 10月23日、米国南東部を襲ったハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」で甚大な被害が出たことを受けて、気候変動により異常気象が深刻化する中で災害対応を迅速かつ包括的に見直すべきだとの声があがっている。写真はヘリーンが通過した後のノースカロライナ州バーンズビル。10月2日撮影(2024年 ロイター/Marco Bello)

David Sherfinski

[リッチモンド(米バージニア州) 23日 トムソン・ロイター財団] - 米国南東部を襲ったハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」で甚大な被害が出たことを受けて、気候変動により異常気象が深刻化する中で災害対応を迅速かつ包括的に見直すべきだとの声があがっている。

新たな洪水ハザードマップの必要性から、制定以来数十年を経ている場合もある建築基準の改定に至るまで、次の暴風雨が襲来する前に少なくとも検討だけはしておかねば、と専門家は指摘する。

「たとえ有史以来のレベルの暴風雨であろうと、すでに万策尽きたとは絶対に思ってはならない。洪水へのレジリエンス(抵抗力、回復力)を高める方法は分かっているのだから」と語るのは、非営利組織「州氾濫原管理者協会」でエグゼクティブディレクターを務めるチャド・バーギニス氏だ。

今回の2つのハリケーンによって、230人以上が死亡した。「ヘリーン」で完全に孤立したコミュニティーも複数ある。

災害復旧を困難なものにする大きな要素として、暴風雨の規模が過去に例のないレベルであり、一部の地域では水位上昇が迫った時点でまったく対応の準備が整っていなかったという点がある。米紙ワシントン・ポストの報道によれば、連邦緊急事態管理庁(FEMA)が作成した洪水ハザードマップも、最も甚大な被害があった多くの地点で、リスクを過小評価していた。

非営利組織「自然資源防衛協議会(NRDC)」の弁護士ジョエル・スキャタ氏は、洪水ハザードマップそのものが、せいぜい50パーセンタイル程度の信頼度でしか作成されていないという。

「これでは、コインを投げるように開発の意思決定をしているようなものだ。これを信頼度95パーセンタイルのレベルまで引き上げ、それに基づいて開発のリスクを評価するとどのような結果になるかを正確に知るためには、連邦議会がFEMAの予算を増額する必要がある」

一方、FEMAの工学・モデル作成部門のディレクターを務めるルイス・ロドリゲス氏は、FEMAが作成する洪水保険料率マップは、将来的にどこで洪水が発生するかを予測するものではなく、過去に洪水が発生した場所を示しているだけでもないと説明する。

「マップは、最低限の氾濫原管理が行われた場合に、あるコミュニティーにおいて洪水が発生しやすいエリア、洪水保険に関して最もリスクが高いエリアを特定の時点で切り取ったものだ」とロドリゲス氏は言う。「洪水は、マップに引かれた線に沿って起きるわけではない。雨が降る場所ならばどこでも洪水はありうる」

バーギニス氏は、国内の内陸河川のかなりの部分については適切なマップが作成されておらず、現実的な洪水リスクはぼんやりとしか分かっていないと語る。

「議会は、やるべき仕事をやるための十分な予算を配分してこなかった」とバーギニス氏。「予防的な対策よりも災害救援への支出が優先されがちだ」

<「FEMAは解決策の一部」>

FEMAの広報担当者は「ヘリーン」と「ミルトン」への対応・復旧を続けるために必要なものは揃っているとしている。だが政府が「数十億ドル規模の災害」が増加する将来に直面する中で、FEMAでは予算の制約により、緊急性の低いプロジェクトを棚上げせざるをえない状況が少なくとも2年は続いている。

クレイグ・ヒューゲイト元FEMA長官は、「緊急ニーズ」への資金の移動は必要であるものの、次の暴風雨に向けたレジリエンス強化を狙ったプロジェクトに対しては長期的な影響を及ぼしかねない、と語る。

2009年から17年までオバマ政権のもとでFEMA長官を務めたヒューゲイト氏は、「インフレ圧力が常態化していて、何もかも以前よりコスト高になっている」と指摘する。「建設を3-4カ月先送りするだけで、そのあいだも価格が上がり続けるのが普通だ」

ヒューゲイト元長官は、FEMAが担っているのは災害対応の一部にすぎないと述べた。補助金や支援プログラムは住宅都市開発省(HUD)など他の省庁が管轄しているからだ。

「こうした災害の多くにおいてはFEMAが解決策ではない。解決策の一部であって、すべてをカバーしているわけではない。特にHUDなど他のプログラムも必要になるし、連邦議会は災害への予算配分の際に、包括的補助金プログラムの運用に関してHUDに大きな裁量権を与えている」

こうした資金を各州が効果的に活用している例として、ヒューゲイト元長官は、ルイジアナ州のジョン・ベル・エドワーズ元知事の名を挙げた。同知事は16年の洪水被害の後、HUDからの支援を、新たな住宅の建設ではなく、住民が被害家屋を修理する際の助成金として活用した。

ヒューゲイト氏は、「あれは恐らく、新規の住宅や低所得者向け住宅の建設を試みるよりも優れたソリューションだった」と語る。「あれほどの規模で被害家屋の修理に助成金を配るのを見たのは実際初めてだったが、あの施策はもっと頻繁にやる必要があるだろう」

中小企業庁(SBA)の中小企業・個人向けの災害融資制度も予算が枯渇しているが、11月5日の選挙が終わるまでは連邦議会が再招集される可能性は低く、補正予算の配分や、災害対応資金の投入に向けた新法の審議はそれからになる。

<失敗をお膳立てするような対応策>

バーギニス氏は、州による対応は過去のいくつかの災害を機にかなり前進したと指摘する。たとえばフロリダ州では、1992年のハリケーン「アンドリュー」の後に建築基準を全面改定した。

またテキサス州は2017年のハリケーン「ハーベイ」を機に「洪水問題への対応に本格的にリソースを投じるようになった」と同氏は指摘する。

だがノースカロライナ州議会は昨年、これとは異なる方向を選んだ。2030年代まで州の建築基準を改定しにくくするような法案を可決したのだ。

「今後建設される住宅をこれまでより安全なものにしていくという面だけではなく、連邦政府による支援の獲得という面でも、実に不利な立場に置かれてしまった」とNRDCのスキャタ氏は言う。

たとえばFEMAの「レジリエントなインフラ及びコミュニティーの構築」制度では、将来の災害リスクに対して地域を強化するための財源を各州が競い合っている。

「これまでより厳しい建築基準の採用など、各州がこれまでにどのような取り組みをしてきたかで結果が左右される。ノースカロライナのように州が建築基準を後退させれば、連邦財源の獲得に失敗するお膳立てをすることになる」

バーギニス氏は、恐らく最近の災害を教訓にして、連邦・州・地方自治体レベルで何かしら先見の明ある政策が生まれてくるのではないかと語る。

「たとえば、良質な洪水ハザードマップがない、あるいはマップ自体がないコミュニティーがあったとする。そこへ洪水が発生した。すると、どこまで水位が上昇したかが分かる。それを規制上の氾濫原と見なして、その水位をめどに対策を進めればいい」とバーギニス氏は言う。

「複雑な話ではない場合もある。非常に常識的な対策で、今よりもはるかにレジリエンスを高めることができると考えている」

(翻訳:エァクレーレン)

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