アングル:有力政府系ファンド、不動産投資を再考 コロナで変化
ロイター / 2020年8月26日 14時31分
8月24日、新型コロナウイルスのパンデミックが原因で、世界の政府系ファンド(SWF)は、以前なら思いも寄らなかった判断をせざるを得なくなっている。写真はロンドンのオフィス街で3月撮影(2020年 ロイター/Simon Dawson)
[ロンドン 24日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミックが原因で、世界の政府系ファンド(SWF)は、以前なら思いも寄らなかった判断をせざるを得なくなっている。
世界各地で一等地のオフィスが空室だらけとなっただけでなく、ホテルも稼働率はほぼ半分に下がり、小売店は事業継続に四苦八苦する中で、SWFはこれまで主な投資先の1つだった不動産の多くから大々的に手を引きつつある。
業界データ分析のグローバルSWFからロイターに提供された、これまで非公開だったデータによると、今年1─7月のSWFによる不動産セクター投資額は44億ドルで、前年同期比で65%も減少したことが分かった。
不動産投資の内容も変化している。IPEリアル・アセットによると、パンデミック中の電子商取引の活況を背景に倉庫などの物流用物件への投資を拡大する一方、オフィス用や商業用の不動産は圧縮する動きが広がってきた。
そこで浮上する大きな疑問は、平均的に運用資産の8%前後に達していたSWFの不動産投資を巡る変化が構造的なものなのか、あるいは新型コロナという大規模かつ予想外で、なじみの薄い世界的な出来事に起因する一時的な現象なのかになる。
グローバルSWFのマネジングディレクターで、かつてPwCのSWFアドバイザーだったディエゴ・ロペス氏は「不動産は依然としてSWFのポートフォリオで大きな部分を占めており、今後もそうだろう。新型コロナで磨きが掛かったのは、ポートフォリオの多角化と強じん性を築くSWFの取り組みの巧みさだ。これまでと違う資産クラスや産業に目が向くようになっている」と話す。
グローバルSWFのデータからは、もう1つの大口の不動産投資家である公的年金基金に比べ、不動産投資に対するSWFの弱気度が高いことも読み取れる。大半の産業や資産で今年の投資規模はSWFと公的年金の比率が2対1となっている一方、不動産ではこれが全く逆だからだ。
<悪影響長期化も>
SWFのポートフォリオのうち、株式や債券などは3月の底値から持ち直したが、ロックダウン(封鎖)と社会的距離確保を求める規制措置によって、じわじわと打撃が及んだ保有不動産価格が上がるのか保証されていない。
商業不動産サービス・CBREの試算によると、世界中の不動産価値は2020年に14%減少した後、21年に3.4%しか回復しない見込み。専門家は、在宅勤務やオンラインショッピングが拡大している点から、パンデミックの影響は長期化するのではないかとみている。
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の不動産専門家ヨランデ・バーンズ氏は「毎日オフィス勤務していた人が全て戻ってくるとは想定できない以上、幾つかの大都市の商業ビジネス地域は、真の脅威にさらされていると思う」と述べた。
業界分析会社・プレキンのデータをロイターが集計したところでは、今年に入って保有不動産の価値が減少したSWFの中でも、特にシンガポールのテマセク・ホールディングスとGIC、アブダビ投資庁(ADIA)、カタール投資庁(QIA)の痛手が大きく、合計価値は181億ドル目減りして1329億ドルになった。
ロイターは、この下落について評価額の目減りと資産売却のどちらが原因なのかは確認できず、4つのSWFはコメントを拒否するか、回答していない。
不動産投資に関するデータを開示しない多くのSWFの例外的存在の1つとなっているのは、ノルウェーのSWFだ。保有不動産額は昨年末の470億ドルから足元で490億ドルに増加しているが、先週には、非上場不動産ポートフォリオの上半期のリターンがマイナス1.6%になったと発表した。
不動産サービスのジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の分析では、ロンドンやロサンゼルスといった普段なら新規の直接投資が極めて活発な地域の不動産も、今年はSWFから総じて敬遠されており、SWFは「守りの態勢」にあるという。
<需要増大の物件>
それでもSWFは、倉庫や商品配送センターといった物流拠点向けの不動産投資には積極的だ。背景には、ロックダウン期間にトイレットペーパーや衣服から住宅に至るまで、何でもネットで買う動きが定着し、物流関連不動産の需要が高まっていることがある。
SWFの年初からの不動産投資の内訳で見ると、全体の約22%が物流用で、昨年の15%を上回っていることが、グローバルSWFのデータから分かる。逆にオフィス用と小売店用の投資はそれぞれ49%から36%、15%からゼロへと比率が低下した。
アラスカ・パーマネント・ファンド・コーポレーション(APFC)のマーカス・フランプトン最高投資責任者がロイターに明かしたところによると、不動産取引全般は「相当鈍化」したものの、伝え聞くところでは物流と集合住宅用の不動産は活況で、SWFによるそうした物件の保有額は7月1日時点で47億ドルと、6月末の40億ドルから増加しているという。集合住宅と産業施設の不動産投資信託(REIT)を購入したためというのだ。
6月にはテマセクが、インドネシアを拠点とする電子商取引企業・トコペディアに対する5億ドルの出資に参加した。
また、バイオテクノロジー関連施設用の不動産も、パンデミック中からにわかに脚光を浴びている。JLLの英資本市場責任者、アリステア・メドウズ氏は「生命科学関連には、かなりの需要が見受けられる。これは関連オフィスから専門研究施設、倉庫用地まで多岐にわたる」と指摘した。
<安値拾いの好機>
コロナ危機は、新規投資の機会も提供している。パンデミック収束後には、一部のSWFが底値に沈んだ不動産の物色に乗り出すかもしれない。
SWFも運用する香港金融管理局(HKMA)はロイターに、適切な投資機会がないかどうか、市場環境を注視していると述べた。
それなりの判断力を備えた投資家にとっては、不確実性が高い世界では、不動産はなお確固とした投資先になり得るとの声も聞かれる。UCLのバーンズ氏は、SWFは他の機関投資家に比べると「身軽」で、環境の変化に適応する能力が高いと評価。「世界の混乱時には不動産は比較的良い投資先になる」と強調しつつ、適切な物件を選び取る目利き力があるかどうかに左右される面が非常に大きいとくぎを刺した。
(Tom Arnold記者)
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