検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員
ロイター / 2020年8月26日 12時48分
元日銀審議委員の木内登英氏は、ロイターのインタビューで、歴代最長政権となった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、海外経済の回復基調とタイミングが重なる幸運に支えられたものだったと総括した。写真は東京。2016年2月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)
[東京 26日 ロイター] - 元日銀審議委員の木内登英氏は、ロイターのインタビューで、歴代最長政権となった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、海外経済の回復基調とタイミングが重なる幸運に支えられたものだったと総括した。
木内氏は、安倍政権が定義のはっきりしない「デフレ」からの脱却を最優先課題に掲げたことを問題として指摘。相対的に経済が安定している時期に、財政健全化や金融緩和の正常化に動かなかったことで、足元のコロナ禍で政策の選択肢を狭めてしまったと語った。
木内氏は2012年から17年まで日銀審議委員。現在は野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストを務める。審議委員時代は、16年1月のマイナス金利の導入に反対するなど黒田東彦総裁による金融政策運営をけん制する役割を果たした。
<海外発の「ラッキー」が支えたアベノミクス>
木内氏はアベノミクスについて、「政策効果ではなく、海外から来たラッキーがあった」と指摘。「アベノミクスの成果であると考えられていたもののかなりの部分は、世界経済の回復の追い風によるものだ」と話した。安倍政権下で株高・円安が急ピッチで進んだが、「世界経済の順風がなければ短期間でしぼんでいた」と述べた。
2012年12月に発足した第2次安倍政権では、麻生太郎副総理・財務相がデフレ脱却担当を兼務。大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」でデフレからの脱却を目指した。木内氏は、デフレには正確な定義がなく「政治的な要素が強い目標だ」とした上で、それを目標の「中心に据えたことが問題だった」と述べた。
木内氏は、1930年代の世界恐慌後に押し寄せた激しい価格下落と経済活動の縮小が継続する「真正デフレ」(木内氏)と比較。安倍政権下では実質GDP(国内総生産)の成長が続き、コアCPI(消費者物価指数)もプラス圏で推移するなど経済・物価情勢の深刻度は浅いにもかかわらず、「デフレリスクを過大に喧伝(けんでん)した」と語った。
経済が相対的に安定する中でも財政健全化に着手せず、金融政策の正常化を進めなかったことで、新型コロナウイルス禍で大規模な対策が必要な今になってしわ寄せが来たと指摘。「国難に際して、金融・財政面からの対応ののりしろが小さくなってしまった」と述べた。
また、働き方改革、教育改革、地方創生など、安倍政権は多くの政策課題を打ち出したが、木内氏は「毎年テーマが変わっていったことが問題だ」とし、「効果が出ないうちに次のテーマに行ってしまうと、『やっている感』は出るが経済的な効果は出にくい」と述べた。
<給付金で産業構造の転換を>
木内氏は「第3の矢(成長戦略)を通じた経済の効率化という政策が圧倒的に不足していた」と指摘。新型コロナの感染拡大を機に、デフレ脱却のための需要創出から経済効率を高める政策への転換が必要だと強調した。デジタルガバメント構想とキャッシュレス化の推進、東京一極集中の是正、サービス業の生産性向上の3つを具体的な政策課題に挙げた。
新型コロナで飲食・宿泊業は特に大きな打撃を受けた。木内氏は「競争力を失ってしまう中小零細企業も出てくるので、他の業種に転換させる手伝いをする政策が必要だ」とし、給付金により産業構造の転換を促すことが必要だと述べた。「生産性の向上がうまくいけば、実質賃金の上昇率が上がる」と話した。
*インタビューは25日に行いました。
(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)
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