焦点：具体的政策論避けるハリス氏、「戦略的曖昧さ」の狙いは

８月２３日、米民主党の大統領候補カマラ・ハリス氏の上級政策顧問を務めるブライアン・ネルソン氏は、米民主党全国大会の会期中に開かれた円卓会議で、イラク核合意や児童税控除の財源など選挙戦の核となる政策について質問攻めに遭った。写真は２２日、シカゴで行われた民主党大会で聴衆にこたえるハリス氏（２０２４年　ロイター/Kevin Wurm）

Jarrett Renshaw

[シカゴ ２３日 ロイター] - 米民主党の大統領候補カマラ・ハリス氏の上級政策顧問を務めるブライアン・ネルソン氏は、米民主党全国大会の会期中に開かれた円卓会議で、イラク核合意や児童税控除の財源など選挙戦の核となる政策について質問攻めに遭った。しかしその都度「ハリス副大統領に先んじて自分の考えを示すつもりはない」と述べ、４５分間に８回も同じ答えを繰り返した。

ハリス氏は２２日夜の党候補指名受諾の際、ロシアや北朝鮮と対峙し、イスラエルの自衛権を擁護しつつ、パレスチナの自決権を支持するなどとした外交政策の指針を発表。国内向けには中産階級への減税、住宅不足の解消、南部国境の安全確保などを約束した。

こうした政策は民主党支持者から好意的に受け止められた。大方の予想よりも強硬な内容だったが、具体的な施策よりも幅広い指針に焦点を当てていた。

ハリス氏が民主党の指名候補となったのはわずか１カ月前で、具体的な計画をまとめる時間が不足していたのは事実だが、意図的に政策の詳細に触れなかった面もある。ハリス氏とその陣営はどの点でバイデン氏の政策を転換するかについて明確な例を示すことを避けている。

ハリス氏が指名候補となって以来、熱狂的な支持や寄付、世論調査結果の改善などの追い風を受けて、ハリス氏の選対チームは、共和党候補のトランプ氏とその陣営が新たな攻撃材料を見つけるのを防ぐため、政策の詳細をあまり提供しないよう慎重になっている。特にエネルギー政策のような難しい課題では、ハリス氏側近が「戦略的曖昧さ」と呼ぶ、意図的に具体的な政策を示さないアプローチを採っている。

ある選挙戦関係者はロイターに、ハリス氏は「具体的な政策よりも価値観を表す声明を多く打ち出し、有権者自らがこうした声明から結論を導き出すようにしていく」と明かした。

ただ、ハリス氏は１１月５日の投票日に向けて政策の具体化を求める圧力にさらされそうだ。

＜信じる心＞

４年前、元カリフォルニア州司法長官で上院議員だったハリス氏は大統領選に向けて動き出したが、あっという間に党の指名候補争いから脱落した。当時は候補としての安定感を欠き、メッセージの発信や戦術を変更してもほとんど効果はなかった。

今回はバイデン政権の継承者であると同時に、新世代の顔でもあると自らを描こうと努めている。こうした戦略はこれまでのところ成功を収め、世論調査で支持率が上昇し、トランプ氏と接戦になっている。

トランプ氏はハリス氏が食品価格引き下げの方針を公表すると、こうした取り組みは「社会主義的」だと非難。ハリス氏を「同志カマラ」と呼ぶなど、ハリス氏への攻撃を続けている。

一方、ハリス氏陣営によると、同氏は水圧破砕法（フラッキング）の禁止や、連邦政府が単一の保険提供者となる国民皆保険制度「メディケア・フォー・オール」など、２０２０年の大統領選で打ち出した２つの政策をもはや支持していない。

ハリス氏は９月にトランプ氏と直接対決するテレビ討論を行うほか、一対一のインタビューでは政策の具体的な内容を示すよう求められるだろう。

ハリス氏陣営の担当者によると、同氏はアリゾナ、ジョージア、ペンシルベニアのような激戦州に重点を置いて全国を行脚する予定だ。

民主党の全国大会では議会上院トップ、シューマー院内総務の発言が、政策議論を先送りしてトランプ氏打倒に焦点を当てたい党のムードを象徴していた。ハリス氏が今後数週間でより詳細な気候変動対策を提供する必要があるかどうかを問われると、「皆が信じる心を持つべきだ。彼女は素晴らしい、環境を重視する大統領になるだろう」と答えるにとどめた。

党大会に参加した党員二十数人をインタビューしたところ、懸念を示した党員はいなかった。

元ニュージャージー州議員のトム・マリノウスキー氏は「有権者が知っていること、あるいは知っておくべきことは、候補者の１人は気候変動問題が現実で、恐ろしいものだと信じ、米国はクリーンエネルギーの世界的リーダーになるべきだと考えており、もう１人は気候変動を気にかけもしないということだ」と述べた。