アングル:EV普及の「副作用」、電池リサイクルに遅れる東南アジア
ロイター / 2024年10月27日 8時8分
10月22日、電気自動車(EV)などの電池に使われる希少金属(レアメタル)は、採掘と電池廃棄の過程で環境問題を引き起こす恐れがあるため再生利用(リサイクル)が重要だが、東南アジアは他の地域に比べて取り組みが遅れている。写真は2023年2月、ジャカルタの商業施設に展示されたEV(2024年 ロイター/Willy Kurniawan)
Adi Renaldi
[ジャカルタ 22日 トムソン・ロイター財団] - 電気自動車(EV)などの電池に使われる希少金属(レアメタル)は、採掘と電池廃棄の過程で環境問題を引き起こす恐れがあるため再生利用(リサイクル)が重要だが、東南アジアは他の地域に比べて取り組みが遅れている。
電気で動くEVその他の機器の電池には、リチウム、ニッケル、コバルトなどのレアメタルが使われる。国際エネルギー機関(IEA)によると、これらの金属の需要は2040年までに4倍に増える可能性がある。
人権団体や環境活動家によると、これら有限な鉱物の採掘には環境汚染や労働搾取などのコストが伴う。また、電池の寿命が尽きると、廃棄された電池と有害化学物質が環境と人の健康にさらなる危険をもたらす。
NGO「クライメート・ライツ・インターナショナル」の研究員、クリスタ・シェナム氏は、各国政府はEV電池に最低限の再生材料使用を義務付けることで、再生可能エネルギー移行に必要な鉱物の需要を減らすべきだと訴える。
<後手に回る対応>
世界最大のEV市場である中国や欧州連合(EU)では、すでに一部の電池材料の再利用が義務付けられている。
東南アジア諸国はガソリン車からEVへの切り替えを推進する一方で、電池材料のリサイクルには出遅れており、専門家は懸念を示している。例えばインドネシアは、現在10万台に満たない二輪車と四輪車のEVを、30年までに1300万台と200万台に増やすことを目指している。
EVへの移行により、東南アジアでは40年までに2166ギガワット時相当の使用済み電池があふれ返る可能性がある。東南アジア諸国連合(ASEAN)などの報告書によると、これは100万世帯以上に1年分の電力を供給できる量だ。
使用済み電池は電気電子機器廃棄物(e-waste)に分類される。e-wasteは有害物質であることが多く、22年に世界で発生した6200万トンのうち、4分の1未満しか再生利用されていない。
東南アジアの一部では再生利用率がさらに低い。
シンガポールでは、年間推定6万トンのe-wasteが発生しているが、その6%しか再生利用されていないと、持続可能性・環境省のエイミー・コー上級相は述べている。同国には現在、e-wasteのリサイクル施設が3つあり、処理能力は年間1万1000トンだ。
インドネシアで21年に発生したe-wasteは200万トンで、公式データによると再生利用されたのは、このうちわずか約17%だった。
政府は21年、電池の生産と再生利用を行うインドネシア・バッテリー・コーポレーションを設立。今年はe-wasteの削減と管理を定めた新たな規則を設けた。
しかし、使用済み電池の回収量をどうすれば増やせるかは、まだ不明だ。
インドネシア生活環境フォーラム(WALHI)の公害・都市正義キャンペーンマネージャー、アブドゥル・ゴファール氏は「今のところ、e-wasteと電池の回収については、回収場所や輸送方法、処理施設などのインフラが不足している」と指摘。「この事実は、政府がe-wasteを優先課題としていないことを示している」と話す。
トムソン・ロイター財団はインドネシア環境省にコメントを要請したが、回答は得られなかった。
<世界最大のニッケル生産国>
世界最大のニッケル生産国であるインドネシアは、電池の再生利用を推進する一方、昨年ニッケルの生産量を約200万トン、つまり世界全体の供給量の55%にまで増やした。
活動家の推計では、ニッケル採掘により過去20年間でインドネシアの森林が18万7000─37万8000エーカー消失している。
また、ニッケルの製錬所は、主に温室効果ガスを排出する石炭火力発電所から電力供給を受けている。
また一部の専門家は、電池の再生利用も万能の解決策ではなく、新たな環境および健康リスクを生み出す可能性があると警告している。
ノルウェー科学技術大学の研究者エリック・プラセティオ氏は「現在、再生利用のプロセス自体が大量のエネルギーと化学物質を消費している」と語った。
それでも、電池の再生利用事業の処理能力は2030年までに世界全体で5倍に増える見通しで、うち70%は世界最大のリチウムイオン電池生産国である中国で計画されている。
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