アングル:ドル、主要通貨で最も低迷 FRBのハト派姿勢などで
ロイター / 2021年5月26日 15時32分
[ニューヨーク 25日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のハト派的な姿勢と米国外における経済成長の加速がドル相場を圧迫している。こうした動きは株式などの資産には追い風となる可能性がある。
ドルは今年の高値から4%下落、今四半期はこれまでのところ主要通貨で最も低迷する通貨となっている。対照的にユーロは対ドルで4%上昇。ブラジルレアルは6%高、中国人民元は約3%上がった。
先物市場ではドルは5週連続で売り越され、売り越し額は158億6000万ドルと3月上旬以降で最大となった。
モルガン・スタンレー・ウエルス・マネジメントのリサ・シャレット最高投資責任者(CIO)は「現在見えている光景の一部は、ドル離れという世界的ポートフォリオフロー調整の第1イニングの表だ」と述べた。
ドルを圧迫している要因はいくつかある。投資家の間では、物価が大きく上昇したとしても債券の買い入れ規模は早期には縮小しないとFRBが表明していることがドルの魅力を低下させる決定打になっている、との見方がある。量的金融緩和はある意味ではドル紙幣の印刷に等しく、物価上昇はドルの購買力を弱める。
アドバイザー・キャピタル・マネジメントのチャック・リーバーマンCIOは「誰もが見て見ぬふりをしているが、FRBがインフレへの対処で後手に回る懸念は高まっている」と語った。
FRBがハト派的な姿勢を繰り返し表明する一方、ブラジルやロシア、トルコなど一部の国は政策金利を引き上げ、利回りを追求する投資家にとってこうした国の通貨は魅力が高まっている。
米国では10年物国債利回りが今年のピークから約17ベーシスポイント(bp)低下した。
米国の経済成長がピークを迎えるかもしれない一方、欧州など他の地域は景気回復が始まったばかりの局面にあることも、ドルが下げる要因になっているという。
オックスフォード・エコノミクスの予測では、第1・四半期にマイナス成長となったユーロ圏の域内総生産(GDP)は年末にかけて伸びが加速し、第3・四半期は年率換算で9.2%成長になるとみられる。一方、米国の成長率は第2・四半期に13.3%でピークに達するとの見立てだ。
モルガン・スタンレーのシャレット氏は、ドルの軟化によって最も恩恵を受けるのはユーロ、英ポンド、人民元になると考えている。
ドルは世界で圧倒的な影響力があるため、ドル相場の変動は幅広い資産に波及することが多い。素材は価格がドル建てで設定され、ドルが下落した際に外国の投資家には割安となる。今年に入り高騰していた銅、石油などの原材料価格が下落に転じたのに伴い、S&P/ゴールドマン・サックス・コモディティー指数は最近のピークから約3%下落した。
ドル安はまた、米国を本拠とする多国籍企業にとっても歓迎すべき動きとなる傾向がある。外国で稼ぎ出した利益をドルに転換する際に有利に働くからだ。
ハイテク部門の企業は外国為替相場の変動によって最も影響を受ける業種の1つ。ラッセル1000指数の構成企業をビスポーク・インベストメント・グループが分析したところ、ハイテク企業は海外売上高比率が約54%となっている。ハイテクに次ぐのは素材の約48%だ。
インフレ圧力によってFRBが金利に関する姿勢を緩めざるを得なくなるかもしれないとのシグナグが表れ、ドルの下落基調反転を後押しする可能性もある。
4月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、「多数の」FRB当局者が、継続する強い景気回復に基づき金融政策の変更を検討する用意があるように見受けられた。だが4月の低調な雇用統計が、当局者の見通しを悪化させたかもしれない。
バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのアナリストチームは「当社は、米国(経済)が過熱するシナリオについて懸念している。そうしたシナリオはインフレがFRBの許容範囲を大きく超える事態に結び付く可能性がある」と指摘。「当社の見解では、そうした事態は真に市場を動揺させる可能性があり、(ドルが)大きく上振れする結果につながり得る」と説明した。
株価の下落もドルを押し上げる可能性がある。ドルは市場が混乱した局面で安全資産として買われるためだ。
アムンディ・パイオニア・アセット・マネジメントの通貨戦略ディレクター兼ポートフォリオマネジャー、パレシュ・ウパディアヤ氏は、こうしたリスクから一部の投資家はさらなるドル安を見込む投資を手控えるかもしれないと考えている。
それでも同氏は、世界的な経済成長の加速が豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドルの対米ドル相場を押し上げ続けると見ており、「米ドルの基礎的条件は弱気のままだ」と話した。
(Saqib Iqbal Ahmed記者)
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