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焦点:ロンドンに眠る金塊、ベネズエラ「2人の大統領」が争奪戦

ロイター / 2020年6月28日 8時28分

 6月19日、英中銀の地下金庫に預けている金塊の管理権を巡り、ベネズエラのマドュロ大統領とグアイド暫定大統領(写真)が司法の場で争おうとしている。3月9日、首都カラカスで撮影(2020年 ロイター/Manaure Quintero)

Angus Berwick Mayela Armas

[ロンドン/カラカス 19日 ロイター] - 英国の中央銀行であるイングランド銀行の地下金庫には、各国が預ける膨大な金塊が眠る。その一部、19億米ドル相当(約2000億円)の延べ棒を巡り、ベネズエラの2つの陣営が争っている。

マドゥロ大統領は、同政権下にある中央銀行の資産だと主張する。一方、米国などが大統領に認定する野党指導者グアイド氏は、この資産を管理すべきは自分であると言う。英政府がベネズエラの正統な指導者として認めているのは、グアイド氏だ。

どちらの主張に正当性があるか、英国の裁判所がこのほど審理を開始する。ベネズエラ中央銀行が、この資産へのアクセスを認めるよう英中銀を提訴したことを受けてのものだ。裁判官が5月28日に示した決定によると、何かしらの結論が出るのは8月あるいは9月になりそうだ。

減少を続けるマドゥロ左派政権の海外資産のなかで、この金はかなりの部分を占める。ベネズエラ中銀の弁護士によれば、金の大半は売却して新型コロナウイルス対応の資金に充てられる予定だという。6年間にわたる経済危機で揺らぐベネズエラの医療システムは、新型コロナで崩壊の危機に瀕している。

しかし、野党側は中銀の主張を否定する。マドゥロ政権はこの資産を友好国に売却するつもりなのだと、グアイド氏陣営は指摘する(政権側の弁護士はこれを否定)。過去2年間、マドゥロ政権が必要な外貨を調達するため、ベネズエラ国内の金約30トンを国外に売却していることが、関係者と中銀のデータから明らかになっている。

2018年5月の大統領選を違憲と主張し、19年1月にマドゥロ政権の正統性を否定して暫定大統領就任を宣言したグアイド氏側は、今回有利な判決が出れば他国にも影響を与え、諸外国の銀行口座に凍結されている50億ドルを含め、より多くのベネズエラ資産を掌握できるようになるものと期待している。

グアイド氏の主任弁護士(海外担当)を務めるホセ・イグナシオ・エルナンデス氏は、「裁判所からの承認が得られれば、非常に重要な前例となることは疑いの余地がない」と話す。

事の発端は、マドゥロ氏の再選が決まった2018年5月だ。野党連合は選挙をボイコットし、違憲であると主張。英国のジョンソン外相(当時)が「ベネズエラに対する経済的な締め付けを厳しくしなければならないかもしれない」と口にした。マドゥロ政権に対する制裁強化を懸念したベネズエラ中銀は、英中銀に対し、預託している金資産14トンを自国に返還することを求めた。

ベネズエラ中銀の弁護士サロシュ・ザイワラ氏によると、18年末ごろ、オルテガ総裁はこの件について英中銀当局者と協議するためロンドンを訪れた。英中銀側はオルテガ総裁に対し、同氏の権限に疑義があるため、指示には従えないと応じたという。

19年2月、英国は他の多くの国とともにグアイド氏を支持する側に回った。米国の財務省は同年4月、ベネズエラ中銀に制裁を科した。「腐敗した政権関係者の蓄財のために」、マドュロ氏がベネズエラ中銀を利用して資産を「略奪」しているというのが理由だった。

ベネズエラはこの制裁前、同国中銀が金を担保にドイツ銀行から調達していた資金を返済。英中銀に保管されている金17トン分がベネズエラ中銀の管理下に戻り、合計で31トンとなった。これはベネズエラが保有する金の約4分の1に相当する。グアイド氏の弁護団が裁判所に提出した記録によると、ベネズエラ中銀はそのほかの金スワップ契約も前倒して解除、さらに多くの金資産が中銀管理下に戻った。

グアイド氏側が英国の裁判所に求めているのは、ベネズエラ中銀を代表して金資産を受け取る権限を有する者は誰かという判断だ。昨年7月、グアイド氏は中央銀行理事を独自に任命している。

今年2月、マドゥロ政権は法律事務所を交代、ザイワラ氏と契約した。ザイワラ氏は、英国政府を相手に損害賠償を起こしたイラン国営メラット銀行の弁護士を務めたことがある。経済制裁によってメラット銀行の名声と事業価値が棄損したと訴えたもので、英政府は昨年、和解金12億5000万ポンド(1700億円)を支払った。

「英国の裁判所の判断は世界的に尊重される。今回の訴訟が大きな意義を持つのは確実だ」と、ザイワラ氏は言う。

裁判所に提出した書類によれば、ザイワラ氏は4月、英中銀側の弁護士に書簡を送った。英中銀に対し、10億ドル相当の金の売却を手配し、売却代金を国連開発プログラム(UNDP)に送金するよう指示する内容で、UNDPはこれによって、ベネズエラの新型コロナ対策に必要な医薬品・食糧を購入するものとされている。

英中銀はこれを拒否、ザイワラ氏は5月に訴訟を起こした。「国家規模・グローバル規模の緊急事態」において、英中銀がベネズエラ中銀の資産を奪ったという主張である。

オルテガ総裁は5月、ロイターに対し、「私たちには何の歳入もない。キャッシュフローを生み出す手段がない」と語った。

マドゥロ政権によると、ベネズエラの新型コロナ感染者はこれまでに3300人、死者は28人。ここ数週間で感染者数は加速しており、重症患者の急増による医療崩壊の懸念が高まっている。

UNDPはベネズエラ中銀からの接触があったことを認めている。6月3日付けで野党側に送られた書簡をロイターが閲覧したところ、UNDPのラテンアメリカ地域担当者は、何らかの関与を行うとすればベネズエラと英国の中銀の間で「公式合意」した後だと述べている。

英中銀は、マドゥロ氏、グアイド氏のいずれの中央銀行理事会からの指示に従うべきか裁判所に判断を求めている。

ベネズエラ中銀は裁判所に提出した陳述書のなかで、ベネズエラを実行支配しているのはどちらか、英国政府が承認した大使はどちらの側かを判断すべきだと主張している。英外務省の外交官リストにベネズエラ大使として記載されているのは、マドゥロ氏が任命した人物であり、グアイド氏側が指名したバネッサ・ノイマン氏ではない。ノイマン氏はこれについて、グアイド氏が出入国管理局を管理下に置いていないためだと述べている。

一方、グアイド氏陣営は、英政府が誰をベネズエラ暫定大統領として承認しているかに基づき裁判所は判断すべきだと主張している。英外務省は3月、裁判所宛ての書簡で、政府の立場は今も変わっていないことを確認している。

さらにグアイド氏率いる野党側は、マドゥロ政権によって関係者が恫喝されている主張している。ロドリゲス副大統領は5月、グアイド氏とその主任弁護士エルナンデス氏が「金を盗もうとしている」と非難した。

6月1日、エルナンデス氏は首都カラカスの自宅が諜報員によって襲撃されたと訴えた。ただ、同氏は現在米国に住んでいる。同氏はこの襲撃について「ベネズエラの海外資産を守ろうとした」ことに対する報復だと語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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