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アングル:イスラエル出国か迫られる決断、紛争下の出稼ぎ労働者

ロイター / 2023年10月27日 10時38分

 10月7日のハマスによるイスラエルへの越境攻撃では約1400人が死亡。そのほとんどは民間人だった。タイ政府によると、同国民も少なくとも30人(大半が農場労働者)が亡くなり、16人が負傷、17人は人質にされた。写真は犠牲になったタイ人労働者の遺体を納めたひつぎ。バンコクの空港で20日撮影(2023年 ロイター/Artorn Pookasook)

Lin Taylor Mariejo Ramos Chaiyot Yongcharoenchai

[マニラ/バンコク 25日 トムソン・ロイター財団] - 故郷のタイから遠く離れたイスラエルの農場で働くカムルエさん(41)は今月7日、パレスチナ自治区ガザとの境界に近い仕事場へズッキーニの収穫作業に向かう途中、乗っていたトラックが突然猛烈な銃火を浴びた。「彼らはあらゆる方向からむやみやたらに撃ってきた」と、イスラム組織ハマスの襲撃を振り返る。

運転手がトラックを何とか安全な場所に移動させたものの、カムルエさんを含む数人の労働者が負傷した。

タイ政府が用意した航空便で帰国したカムルエさんは「私は右足を撃たれて、今も療養中だ」と語るが、危険度が下がればまたイスラエルに戻って借金返済のために働くつもりだ。

7日のハマスによるイスラエルへの越境攻撃では約1400人が死亡。そのほとんどは民間人だった。タイ政府によると、同国民も少なくとも30人(大半が農場労働者)が亡くなり、16人が負傷、17人は人質にされた。

この攻撃によって4人のフィリピン人のケアワーカーも死亡し、2人が行方不明になっている。

イスラエルで現在合法的に働いている外国人出稼ぎ労働者はおよそ11万人に上るが、こうした事態で警戒感が広がり、何千人もが国外に脱出しつつある。

タイ外務省は先週、国民を帰国させるための航空便を連日運航しており、これまでに少なくとも8160人から帰国したいとの申し出があったと発表した。

フィリピン政府は19日、イスラエルにいる出稼ぎ労働者たちに医療や資金面で支援を行うとともに、帰国する場合の費用を負担すると表明。少なくとも36人(大半がケアワーカー)が帰国する意向という。

イスラエルの人口・移民局のデータに基づくと、同国で働く外国人出稼ぎ労働者のうちタイ人とフィリピン人はそれぞれおよそ3万人と、国別で最も多い。

<働き続ける必要>

このままでは安全が保てないと懸念して帰国する出稼ぎ労働者が多いとはいえ、中には仕事をやめる余裕がない人たちもいる。

昨年6月からイスラエルで清掃員の仕事をしているフィリピン人のマリビク・イェイプさん(40)はトムソン・ロイター財団に、地元の仕事あっせん業者に支払う代金やその他費用を賄うために背負った20万ペソ(3527ドル)の借金を返すには、働き続けるしかないと明かした。

イェイプさんは毎日ホテルの部屋の掃除で休む暇がない。イスラエルの観光産業はほぼ休止状態にある半面、ガザ近くの地域から避難してきた人々がホテルに宿泊しているからだ。

今年5月にタイからイスラエルにやってきた農場労働者のシン・ドンフエンさん(38)も、家族から心配だから帰ってきてほしいと言われながらも、10万バーツ(2766ドル)の借金を返すため、踏みとどまるつもりだ。

「家族は帰国を望んでいる。だが現実にそれができるか。貯金がないまま帰国しても、借金は返さなければならない」と訴えた。

イスラエルの出稼ぎ労働者支援団体には、「どこに行けば安全か」「自分たちにはどんな権利があるのか」「仕事がなくなっても政府から援助を受けられるか」といった問い合わせが殺到している。

同団体の広報担当者は、ハマスや、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによる攻撃にさらされて経済が機能しなくなっているイスラエル各地では、多くの出稼ぎ労働者が働き口のない状態に置かれていると指摘した。

海外で働くフィリピン人の権利擁護を唱える「ミグランテ・インターナショナル」は、フィリピン政府の対応が鈍いと批判する。問題視しているのは、戦闘が始まってすぐに避難計画を提示せず、警戒レベルも引き上げなかった点だ。

ミグランテ・インターナショナルのホアナ・コンセプシオン会長は、イスラエル在住のフィリピン人労働者はフィリピン大使館に、仮設シェルターを設置してほしいとずっと要請しているが、なしのつぶてだと呆れかえる。

コンセプシオン氏の話では、結局労働者たちはシェルターを備えた一戸建てや集合住宅のリストを自分たちで作り、共有せざるを得なくなった。

<目に見えない存在>

複数の労働者支援団体は、今回のイスラエルとハマスの交戦で、戦闘地域の出稼ぎ労働者が直面する固有の問題が浮き彫りになったとの見方を示した。

英国の出稼ぎ労働者支援団体、フェアスクエアの共同創設者ニック・マクギーハン氏は「出稼ぎ労働者が一般の人々から隔離された状態にある場合、目に見えない存在と化してしまうことは避けられない」と懸念する。

イスラエルにおけるタイの農場労働者の実態を調査してきたマクギーハン氏は「戦闘が始まっても、出稼ぎ労働者たちはどの当局者の優先的な(保護対象)リストにも入らなくなる」と話した。

イスラエル政府は外国人労働者宛ての書簡で、彼らに対応するコールセンターの稼働時間を延長するとともに、さまざまな言語で安全確保のための指示を出していると説明している。

ただイスラエルの外務省と人口・移民局はコメント要請に回答がなかった。

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