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アングル:成長率7%でも安定求めるインドの若者、公務員予備校は大人気

ロイター / 2024年7月28日 8時5分

 インド政府の仕事に就くこと――スニル・クマールさん(30)は過去9年間を、そのために費やしてきた。写真は6月19日、プラヤーグラージにある公務員予備校「スーパー・クライマックス・アカデミー」で撮影(2024年 ロイター/Sahiba Chawdhary)

Sahiba Chawdhary Ira Dugal

[プラヤーグラージ(インド)/ムンバイ 21日 ロイター] - インド政府の仕事に就くこと――スニル・クマールさん(30)は過去9年間を、そのために費やしてきた。

採光も換気も悪いトタン屋根の仮設教室へ大勢の生徒とともに押し込まれ、何年にもわたってさまざまな試験のために勉強を続けた。連邦政府の職を得るために必要な権威ある公務員試験もあった。州公務員の採用試験にも挑戦したし、他の下級公務員の試験も2つ受けた。

だが、13回にわたる挑戦はまだ成功していない。

公務員試験の受験資格の年齢上限は35歳だ。国内で最も人口の多いウッタルプラデシュ州に住むクマールさんは、32歳になるまで挑戦し続けるつもりだという。

「政府関係の仕事の方が安定している」とクマールさんは言う。「あと2、3年で就職できれば、10年間苦労した意味はある」

政府の統計によれば2014―22年にかけて、連邦政府の採用試験を2億2000万人が受験し、72万2000人が合格した。合格するには何度も挑戦を繰り返すことになるだろうし、経済は好調で民間セクターは拡大しているが、それでも毎年数千万人もの若いインド国民が公務員のポストを目指す。

こうした傾向の背景には、多くのインド国民が抱える文化的・経済的な不安がある。世界の経済大国の中で最も成長率が高いインドだが、国民の多くは先の読めない労働市場に悩まされている。雇用の安定性はもちろん、雇用機会さえもほぼ期待できない。世界最大の人口を抱えるインドでは、民間セクターよりも公務員の方が安心できると考える人が多い。

「家族の誰かが政府関連の仕事に就けば、ほかの家族は、これで生涯にわたって安泰だと考える」。そう語るのは、政府系採用試験の受験者のための予備校を運営するザファル・バクシュ氏だ。

隣国バングラデシュでは先週、公務員採用の優遇枠に反対する学生の抗議行動で、100人以上の死者が出ている。

インドの国内総生産(GDP)は、2014年の2兆ドルから2023/24年度(2023年4月―2024年3月)には3兆5000億ドルまで成長し、今年度も7.2%の成長が予想されている。

志願者は、民間の仕事では期待できない生涯にわたる保障や医療給付、年金、住宅手当が政府職員には与えられると話す。公言する人はほとんどいないが、政府系ポストの多くでは、いわゆる「袖の下」も期待できる。

前出のバクシュ氏によれば、予備校の需要が高まったことで大手企業も参入し、オンライン講座も登場しているという。

バクシュ氏は、収益性も将来性も高いビジネスだと考えている。「需要がなくなることはない」

<良質の雇用が不足>

4―5月の総選挙でモディ首相率いるインド人民党(BJP)は単独過半数を確保できず、政権維持のために連立与党の力を借りることになった。複数のアナリストはその大きな理由として、雇用機会を巡る不満を指摘している。

今月発表された政府統計によれば、2017/18年度以降、インドでは毎年2000万人分の新規雇用機会が生まれている。だが民間のエコノミストは、その多くは通常の賃金を得られる正規労働者ではなく自営業や農業での臨時雇用だと話している。

ノムラは今月のリポートで、インド政府は来週提示する総選挙後初の予算案において、新規の製造施設に対する税制上の優遇措置や国防セクターなどでの国内調達の励行により雇用創出を推進する可能性が高いと述べている。だが、こうした政策が実際に雇用を生み出すには時間がかかる。

ベンガルール市のアジムプレムジ大学持続可能雇用センターのローザ・アブラハム准教授は「単に雇用が足りていないだけでなく、給与が高く福利厚生が充実した仕事が不十分だということだ」と語る。

政府系の仕事に就くことを希望しているプラディープ・グプタさん(22)にとって民間セクターで働くことは、あくまで「最後の選択肢」だ。

就職予備校で活況を呈するウッタルプラデシュ州プラヤーグラージ市で取材に応じたグプタさんは「(政府の仕事には)名誉と雇用の安定があり、プレッシャーもきつくない」と話す。

今年初め、ウッタルプラデシュ州警察による募集では、6万人の欠員に対して500万人近い応募があった。連邦政府治安当局の巡査職の採用試験では、定員2万6000人に対して470万人が応募した。

さらに政府省庁の雑用係や運転手といった職種については、2023年に約7500人の募集に対して260万人近くが応募した。

野党第1党の国民会議派の試算によれば武装警察や学校、医療、軍など政府のあらゆるレベルで、600万人近くの欠員が残っているという。

連邦政府に対し、政府による雇用と欠員状況についてのデータを請求するメールを送ったが、回答はなかった。

<稼ぐ就職予備校>

2014年以来プラヤーグラージで就職予備校を経営するマルーフ・アフメド氏にとって、これは有利な状況だ。

アフメド氏によれば、同氏が運営する予備校は現在5カ所に校舎を構え、対面・オンライン双方の講座で2万5000―3万人近くを指導しているという。

合格率、つまり政府系のポストに採用される比率は約5―10%と低いが、需要は依然として高いとアフメド氏は言う。

こうした就職予備校産業は非公式で組織化もされていないため、国内に何カ所くらいあるのかは分かっていない。

人材派遣会社チームリース・サービスの共同創業者であるリトゥパルナ・チャクラボルティ氏によれば、政府系の仕事に対する人気の高さは国内雇用市場の状況と同時に、労働に対する姿勢を映すものでもあるという。

「民間セクターは実力主義で、景気の浮き沈みに左右される」とチャクラボルティ氏は述べた。「政府職員なら、一度職に就けば、ほとんどの場合は業績とは無関係に、将来は安泰だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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