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アングル:領土沈んでも国として存続を、水没危機のツバルが国際社会にアピール

ロイター / 2024年9月27日 13時43分

 南太平洋の島国ツバルの総人口は1万1000人。9つの環礁で暮らす人々にとって、残された時間は減りつつある。写真は人口の集中するフナフティ環礁の航空写真。9月6日撮影(2024年 ロイター/Kirsty Needham)

Kirsty Needham

[フォンガファル(ツバル) 25日 ロイター] - 南太平洋の島国ツバルの総人口は1万1000人。9つの環礁で暮らす人々にとって、残された時間は減りつつある。

フカノエ・ラアファイさん(29)は、できれば子どもを産みたいと思っている。だが海面上昇を考えると、なかなか夢の実現には踏み切れない。科学者たちの予測では、子どもが成人する頃には、故郷の大半は海面下に沈んでしまうからだ。

事務職として働くラアファイさんは「今にも自分たちが海に沈んでいくような気がする」と語る。

ツバルの平均標高は海抜わずか2メートル。この30年間で海面は15センチ上昇しており、これは世界平均の1.5倍に相当する。

ツバルの全住民の60%が生活するフナフティ環礁。場所によっては20メートルの幅しかない細長い土地に、いくつかの村がしがみついている。米航空宇宙局(NASA)の科学者の予想では、2050年にはこの環礁の半分が、毎日の満潮時に海面下に没する。

すでに生活には変化が生じている。ツバルの人々は雨水タンクに頼り、中央を高く盛り上げた菜園で野菜を栽培している。海水の浸透により地下水の質が落ち、作物に影響が出ているからだ。

2023年に発表された豪州(オーストラリア)との画期的な気候変動対策・安全保障条約により、来年以降、毎年280人のツバル国民が豪州に移民する道が開けた。

ロイターでは先日ツバルを訪問し、10数人の住民と当局者に取材。海面上昇と恒久的な移住の可能性に対する不安が広がっていることが分かった。

当局者4人の談話からは、ツバルが波の下に消えた後も主権国家として存続する法的な根拠を確立するべく、新たな外交戦略が進められていることが分かった。

具体的にツバルが目指しているのは、海洋法を改正し、広大な海域に対する主権と潤沢な収入につながる漁業権を確保することだ。ロイターの取材では、そのための道が2つ見えている。国際海事裁判所での判例と、国際連合による決議だ。

豪州との画期的な条約締結には至ったものの、自国の苦境に対する世界的な反応が鈍いことに業を煮やしたツバルの外交筋は、今年になって戦術を転換したと当局者2名は語る。

この新たなアプローチと手法についてはこれまで報道されていなかった。

ツバルの国土面積はわずか26平方キロメートルにすぎない。だが、遠く離れた群島に分散しており、排他的経済水域は米カリフォルニア州の面積の2倍以上に当たる約90万平方キロに及んでいる。

キリスト教への信仰が厚く、お互いの距離が近い社会で暮らす住民はロイターの取材に対して、移住により自分たちの文化が失われるのが心配だと語る。

「この土地を離れざるを得ない人もいれば、残りたいと思う人もいる」と語るのは、フォンガファレの中心部でIT関連の仕事に就くマアニ・マアニさん(32)だ。

「とても難しい決断だ」とマアニさんは続ける。「国を離れ、幼い頃から慣れ親しんだ文化を捨てる。文化というのは家族、兄弟姉妹も含めた全てだ」

当面、ツバルは時間稼ぎを試みている。最も広い部分で幅400メートルというフナフティ環礁で発生する高潮を防ぐために、防潮堤や障害物を築いている。これまで7ヘクタールの埋立地を造成し、さらに増やす計画で、2100年までは海面下に沈まないという目算だ。

NASAの予測では、その頃にはツバルでは海面上昇が1メートル、最悪の場合はその2倍にも達し、フナフティ環礁の90%が海面下に沈む。

<領土なき国家は存在できるか>

国民を海外に逃がすルートを確保した今、ツバルの外交関係者は、低海抜の島しょ国が海に飲み込まれた状況を巡る法的な根拠を求めて闘っている。

2人のツバル当局者の談話や、豪州との条約の規定によると、こうした法的保証を確保するためのツバルの計画では、一部の住民は可能な限り長く滞在し、国の永続的な主権を支えるために継続的な存在を確保することになる。

国家の要件としてもう1つ重要なのは「領土」の存在だ。そこでツバルは、海洋法の改正を望んでいる。国連総会は25日、海面上昇に関するハイレベル会合を開催した。

トゥアガ外務事務次官はロイターの取材に対し「海面上昇を気候変動に関する議論に埋もれさせることなく、独立した議題として扱うよう、ツバルが旗振り役になりたい」と語った。「海面上昇の問題は、ツバルという国家の存亡とその独自性の継続にかかわる脅威になっている」

国連国際法委員会は来年海面上昇に関する報告書を発表する予定だが、今年7月、気候変動に由来する海面上昇により国土の全部または一部が沈んだ場合でも、国家としての地位は維持されるという「有力な想定」を支持する姿勢を示した。

同委員会は、一部の加盟国が国連海洋法条約の改正に反対しており、別の方法を支持していると話している。

マグロが豊富に獲れるツバル周辺水域には諸外国の漁船団が定期的に往来しており、ツバルに納める年間約3000万ドルの入漁料は、同国にとって最大の収入源だ。またツバルは、自国のトップレベルドメイン「.tv」の使用権販売によって少なくとも年間1000万ドルを稼いでいる。

ツバルのネレソネ副首相は、国際社会がツバルの海上境界線を恒久的なものと承認してくれれば、ツバル経済の生命線になると話している。

ツバルは海上境界線の保全を支持する共同声明に署名するよう、外交関係のある各国に呼びかけているが、多くはまだ公式の回答を示していないという。

「私たちがここで生きている限り、引き続き議論を続けていく」とネレソネ副首相は言う。

近隣諸国、つまり太平洋島しょ国フォーラムの加盟18カ国はツバルに賛同しており、この地域の海上境界線は確定したものだと宣言している。また豪州との条約にも「ツバルの国家としての地位と主権は存続する」と書かれている。

ツバルの当局者及び国会議員によれば、アジア、欧州の一部を含む15カ国の政府はツバルとの二国間共同声明に署名し、同国の境界線が海面上昇によって変更されないことに合意しているという。

ただ、太平洋で漁船団を運用している諸国のうち、こうした共同声明に署名しているのは、ツバルと外交関係のある台湾と、隣国フィジーの2カ国に留まる。ツバル当局者は、この点が不安を招いているとみており、将来的に違法な操業が行われ、結果的に入漁料収入が失われることを懸念している。

<次の一手は>

裁判官出身でフナフティ選出の現役国会議員であるサイモン・コフェ氏は昨年、国家としての恒久的な存続を規定するようツバル憲法改正の先頭に立った。改正後の憲法には、ツバルの排他的経済水域を示す海洋座標も記載されている。

コフェ氏はロイターの取材に対し、仮にツバルが気候変動による海上境界線の変化について国際海洋法裁判所の裁定を求めることになった場合、こうした手を打っておけば、同国の主張を補強する証拠を構築しやすくなると語った。

「このように、国家としての地位は恒久的なものであるという法的命題を承認する国が増えれば、新たな慣例的国際法を生み出すことにつながる」とコフェ氏は言う。

ツバルは気候変動と国際法に関する小島しょ国委員会(COSIS)の共同議長国だ。COSISは3年前に発足し、領海と排他的経済水域は気候変動による縮小にかかわらず適用されることを宣言した。

今年5月、COSISは国際海洋法裁判所において、各国は気候変動から海洋を保護する義務を負うとの勧告的意見を勝ち取った。同裁判所が気候変動関連で判断を示したのはこれが最初だ。

豪州国立大学の国際海洋法専門家ドナルド・ロズウェル氏は、この勧告的意見について「気候変動の影響を受けるツバルその他の小島しょ国の立場を前進させる」大きな勝利ではあるが、海上境界線については触れていないと指摘した。

ロズウェル氏は海洋法について、各国が近隣諸国との条約や地域協定に署名することにより、また多国間制度が判例に対応することにより変化する場合があると述べている。

国際法協会は海面上昇に関する6月の報告書において、海上境界線と気候変動の関係に確実性を持たせる最も明確な方法は、国連総会による決議だと結論づけた。

ツバル当局者が国際的な保証の確保に奔走する一方で、住民は気候変動の目に見える影響、そして故郷に別れを告げる可能性に頭を悩ませている。

IT産業で働くマアニさんは、「誰もがそのことを考えている」と語る。

「キング・タイド」と呼ばれる大規模な大潮の脅威も増している、とマアニさん。また、現役世代が先に他国に移住してしまう場合、ツバルに残される高齢者はどうなるのかも心配だという。

ラアファイさんは、家庭を持つことを計画しているだけに、コミュニティーがばらばらになってしまうことを恐れている。

「ツバルはとても優しい社会だ」とラアファイさんは言う。「たとえ豊かでなくても、親族で分け合う文化がある」

(翻訳:エァクレーレン)

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