焦点:中東情勢、米国の限界露呈 色あせる「バイデン外交」
ロイター / 2024年9月27日 15時50分
パレスチナ自治区ガザを巡る米国の停戦に向けた努力は一向に進展していない。写真は、イスラエル軍の攻撃を受けてレバノン南部ティレで煙が上がるを見守る男性。26日撮影(2024年 ロイター/Amr Abdallah Dalsh)
Matt Spetalnick John Irish Humeyra Pamuk
[ワシントン 26日 ロイター] - パレスチナ自治区ガザを巡る米国の停戦に向けた努力は一向に進展せず、紅海では親イラン武装組織フーシ派が商船攻撃を繰り返し、足元では米国主導の外交的働きかけにもかかわらず、イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの交戦が中東地域の全面戦争へと発展する恐れさえ出てきた。
バイデン米大統領は退任する来年1月が近づきつつあり、こうした一連の問題がそれまでに解決する見通しが立たないため、同氏の「外交レガシー」が色あせてしまうのはほぼ確実だ。複数の専門家や外交官はこのようにみている。
過去1年、バイデン氏が苦心して追求してきたのは、イスラム組織ハマスやヒズボラに対するイスラエルの自衛権を尊重しつつ、民間人の犠牲を抑えて中東地域に紛争の火が拡大するのを防ぐ、という極めて難しい方針だった。
しかし、そうした戦略は何度も齟齬(そご)を来し、直近では米国などが提示したレバノンでの21日間の交戦停止案をイスラエルが26日に拒否した。
シンクタンクのアトランティック・カウンシルに所属し、かつて米情報機関で中東担当の副責任者を務めたジョナサン・パニコフ氏は「われわれが目にしているのは中東における米国のパワーおよび影響力の限界だ」と話す。
恐らくその最たる例は、バイデン氏がイスラエルのネタニヤフ首相を米国の意向に従わせるために、イスラエルへの最大の武器供給国で国連における最も強力なイスラエル擁護派という米国の立場を交渉の道具として使うのをためらっていることだろう。
ほぼ1年にわたって米国はイスラエルとハマスの停戦を仲介してきたものの、複数の関係者の話では今もなお早期の事態打開は見えてこない。
米政府高官らは交渉不調の責任をハマスに負わせたがるが、ネタニヤフ氏が要求を何度も変更しているのが原因との声もある。
昨年10月7日にハマスがイスラエルに奇襲攻撃をかけて以降、ブリンケン国務長官は9回中東を訪問。そこで再三、イスラエル側との意見の食い違いに直面した。
例えば昨年11月、ブリンケン氏は会見でパレスチナ市民向け支援物資搬入のためにイスラエル軍に休戦を促した。ところがその直後、ネタニヤフ氏はテレビ演説でこの求めを拒絶し、ブリンケン氏にはイスラエルが「全力で」軍事作戦を続行するとはっきり伝えたと主張している。
<米国の失敗>
バイデン氏は他の西側指導者から、北大西洋条約機構(NATO)やアジアにおける同盟体制を立て直したと高く評価されている。いずれも前任のドナルド・トランプ氏はそうした同盟の存在価値に疑問を呈していた。
しかし複数の外交官は、バイデン氏の中東政策、とりわけガザの戦闘への対応は海外で米国の信頼を損なってしまった、と無念を口にした。
西側政府高官の1人は、そもそものつまずきはバイデン氏が「米国は何があってもイスラエルとともにある」と表明したことで、この痛手からは決して回復できないと述べた。
ある中東の外交官は、米国の外交政策が「敵対勢力に強い印象を与えられていない」と分析し、昨年10月7日以降にバイデン氏がイランやその代理勢力に対する警告として中東に航空母艦などを派遣したが、彼らを完全に抑止していないように思えると付け加えた。
トランプ前政権で中東担当の国防省高官だったマイケル・マルロイ氏は「バイデン氏は(イランの)代理勢力による攻撃にもっと迅速かつ重大に対応できたはずだ」と語った。
こうした批判に対して米政府高官からは繰り返し反論が聞かれる。バイデン氏の外交政策は事態を好転させ、米軍派遣はガザの紛争が地域的な戦争に転じるのを回避する役割を果たしていると主張する。
それでも昨年10月7日以降、バイデン氏が期待をかけてきた米国の安全保障提供を条件とするサウジアラビアとイスラエルの正式な関係正常化は実現が厳しくなった。
6月の国連安全保障理事会では、バイデン氏が示したガザ停戦と人質となっているイスラエル市民解放に向けた提案に支持が集まったとはいえ、今や国連では米国の中東外交を見守る忍耐力が切れつつある。
ヨルダンのサファディ外相は26日、中東の暴力を止める努力は「失敗の1年間」になっていると苦言を呈した。
アトランティック・カウンシルのパニコフ氏は、ガザへの対応でバイデン政権が抱えるジレンマのポイントは「プランAが何カ月も機能していない。ではプランBはどこにあるのか」ということだと説明する。
イスラエルはレバノンへの地上侵攻をちらつかせ、避難している北部の市民が自宅に戻れるようになるまでヒズボラに圧力をかけ続けると明言しているだけに、危機が深まってもおかしくない。
レバノン情勢はバイデン氏のレガシーを損なうばかりか、与党民主党の候補として次期大統領を目指すハリス副大統領にも影響が及ぶ恐れもある。既に民主党左派の一部は、米国の変わらないイスラエル支援に怒りをにじませているからだ。
ネタニヤフ氏が、バイデン氏の言葉に耳を傾けてレバノン情勢をさらに悪化させない行動を取るかどうかは分からない。
専門家は、レームダック状態のバイデン氏が中東の混乱を止められなくても仕方ない面はあるが、現在の危機を次期大統領が引き継がなければなくなると警告している。
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