アングル:米スタバ、中国で安値合戦に直面 デフレ心理で想定狂う
ロイター / 2024年5月28日 14時47分
Casey Hall Sophie Yu
[上海 27日 ロイター] - 米コーヒーチェーン大手スターバックスは、中国で避けようとしてきた価格戦争に巻き込まれつつある。急成長する低価格路線の地元ライバル勢との厳しいシェア争いに直面しているためだ。
2大市場の米国と中国の販売がいずれも低調となり、最近株主からの突き上げが強まっているスタバにとって、これは深刻な状況と言える。
中国では昨年、新興コーヒーチェーンの瑞幸珈琲(ラッキン・コーヒー)が国内売上高で初めて業界トップに立った。こうした中でスタバも値下げに取り組んでいるが、経営陣は徹底的な競争に乗り出す必要はないと自信を見せていた。
中国部門最高経営責任者(CEO)のベリンダ・ウォン氏は今年1月に「われわれは価格戦争参入には興味を持っていない。高い品質と同時に収益性、持続可能な成長に重点を置いている」と語り、今年3月に上海を訪れた創業者ハワード・シュルツ氏も、この考えを繰り返している。
しかし、アナリストへの取材やロイターの調査、中国消費者のSNS投稿などを通じて、スタバが自社のプログラムや、動画投稿アプリの抖音(douyin)、コーヒー注文で人気のある出前プラットフォームなどを通じて、割引クーポンの提供を拡大している様子が浮かび上がってきた。
そのため中国の消費者はスタバで最も多く注文されるコーヒーを、定価を支払うことなく30%の割引クーポンや、1杯で2杯目が付くクーポンで購入するのが比較的簡単になり、スタバはなし崩し的に価格戦争に引きずり込まれようとしている。
ロイターはスタバの割引クーポン使用がどの程度増えたのか定量的に把握することはできなかったが、かつて「レア」だったクーポンが今年になって、よりたやすく入手可能になったのは間違いない。
上海で事務職に従事しているウォーカー・シェンさん(38)は、頻繁に割引クーポンを使ってコーヒーを買う消費者の一人で、ここ数カ月はスタバから30%引きクーポン提供のお知らせを受け取る回数が増えている。
「今はスタバでコーヒーを飲む人は減っていると思う」と語り、ほとんどの人は品質に関してそれほど要求水準が高くはなく、スタバに喜んで高いお金を払おうとする消費者は少なくなっているとの見方を示した。
中国のコーヒーチェーンで価格戦争が表面化した背景には、根強いデフレ環境に加え、景気回復が進まずに賃金が停滞し、消費者心理が悪化しているという事情がある。
市場調査会社カンター・ワールドパネルの中国マネジングディレクター、ジェーソン・ユー氏は、残念ながらスタバにとっては、低価格を提供し合うことが中国の「新標準」となっている以上、ある程度価格競争するしか選択の余地はないと指摘する。
「市場シェアをこれ以上侵食されず、自分たちの場所を維持したいなら、販売促進のオファーを強化し、ソーシャルメディアで積極的に活動することは必要不可欠だ」という。
実際、今月初めにスタバが発表した第2・四半期決算で中国の既存店売上高は11%減少しており、年間売上高見通しの引き下げを余儀なくされた。
入手可能な最新データによると、スタバの中国における市場シェアは2022年時点で13.6%だった。
<価格以外の価値>
ラッキン・コーヒーのラージサイズのラテは定価29元(4ドル)で、スタバのラテの33元と大差ないが、ラッキンは幅広く利用できるクーポンを提供しているので、実質的な価格は9.9元とずっと低い。
もっと安い商品もある。ラッキン元会長チャールズ・ルー氏が立ち上げた庫迪(Cotti)のアメリカンはクーポン利用で8.8元、KFCの料金10元の会員になれば30日間5元でコーヒーを買える。
ラッキンは大幅な値引きと急速な店舗数拡大を武器に、昨年の売上高が248億6000万元(34億5000万ドル)と、スタバの中国既存店売上高31億6000万ドルを超えた。中国国内で展開するのは1万8590店で、スタバが来年までに目指すとしている9000店の既に2倍以上に達している。
それでもカンターのユー氏は、予見可能な将来まで中国の消費者にとって価格は重要な購入判断の要素になるだろうが、スタバがとことん価格戦争を遂行することはなく、ライバルたちがかなわないような店内での特別な経験を提供する戦略を堅持するはずだと予想する。
「スタバは価格だけを競うわけではない。彼らはイノベーションやコーヒーを巡る会話、消費者に向けた情緒的な価値創出といった分野でも先頭を走らないと、中国でさらに地歩が後退してしまう」と強調した。
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