アングル:瀕死のイスラエル・トルコ貿易、ガザ攻撃で関係最悪
ロイター / 2024年5月29日 6時55分
5月27日、イスラエルとトルコは過去数十年、両国間で生じた外交問題の荒波を乗り越えて貿易関係を地道に拡大し、その規模は年数十億ドルに達していた。写真は3月、イスラエル中部ベトセメシュの倉庫建設現場で撮影(2024年 ロイター/Ari Rabinovitch)
Steven Scheer
[エルサレム 27日 ロイター] - イスラエルとトルコは過去数十年、両国間で生じた外交問題の荒波を乗り越えて貿易関係を地道に拡大し、その規模は年数十億ドルに達していた。しかしトルコが今月、パレスチナ自治区ガザの紛争が終結し、同地区に支援が滞りなく届くようになるまでイスラエルとの貿易を完全に絶つと発表。イスラエルでは対トルコ貿易は存続が難しいのではないかとの懸念が広がっている。
イスラエルは、トルコの決定は世界貿易機関(WTO)規則に反すると訴えている。イスラエルの輸入業者はセメントから食料品、自動車に至る主要な輸入品について、トルコに代わる調達先探しに奔走している。ただエコノミストは、当面は一部で品不足が起きても、5000億ドル規模のイスラエル経済が打撃を受けることはないと見ている。
イスラエル財務省のチーフエコノミスト、シュムエル・アブラムゾン氏は「トルコはイスラエルにとって重要な貿易相手国だが、われわれはトルコだけに依存しているわけではない」と強調。 「輸入元がいくつか変わることでコストが上昇するかもしれないが、トルコの決定によってイスラエル経済に大きな、あるいは持続的な混乱が生じるとは予想していない」と言い切った。
イスラエルの政府統計によると、昨年の対トルコ貿易は約23%減の62億ドルで、輸入が約4分の3を占めた。
トルコの対イスラエル貿易停止後、トルコの輸出企業数社はロイターに、第三国経由でイスラエルに輸出する方法を模索していると明かした。しかし両国の貿易業者によるとこうした取り組みが実現する兆候は見当たらないという。
貿易業界関係者によると、ギリシャやイタリアなどがトルコの撤退で生じた空白を埋める意思を示しており、成約が間近に迫っている。しかし主な問題は主に燃料、化学製品、半導体など、15億ドル超に上るイスラエル産輸出品についてトルコに代わる輸出先を見つけることだ。
経済省対外貿易局のロイ・フィッシャー局長は「ある日は『あなた方と貿易したい』と言ったかと思えば、今度は『貿易したくない』と言い出すような国に経済が依存すべきではない」とトルコの決定を批判。「貿易は信頼できる、持続可能なものでなければならない。だからわれわれの目標は長期的に信頼できる貿易相手国を見つけることだと感じている」と話した。
<凍てつく絆>
トルコのエルドアン大統領は、イスラエルがガザで展開しているイスラム組織ハマスへの軍事攻撃を批判している。昨年10月のガザ紛争の勃発直前にはイスラエルのネタニヤフ首相と直接会談したが、首脳同士が互いに相手国を訪問する計画は棚上げになった。
トルコは昨年11月、協議のために駐イスラエル大使を召還し、両国間の航空機の往来は停止された。エルドアン氏はハマスを「解放運動」と呼び、先月にはハマスの最高指導者ハニヤ氏をイスタンブールに招いた。
貿易停止への報復措置として、イスラエルのスモトリッチ財務相はエルドアン氏が退陣し、「理性的でイスラエルを嫌悪しない指導者」に交代するまでの間、トルコとの自由貿易協定(FTA)を破棄する方針を表明した。
トルコはイスラエルの主要貿易相手国の中で、ガザ紛争を理由に貿易を停止した最初の国であり、今のところ唯一の国でもある。トルコはイスラエルにとって上位5番目の貿易相手国だが、それでもイスラエルの輸入総額に占める比率は5%に満たない。
<大惨事ではない>
しかしイスラエル建設業協会のシェイ・パウズナー副会長によると、イスラエルのセメント輸入でトルコは約40%を占める。建設業界は欧州の供給業者に目を向けているが、価格の安さで知られるトルコ産に比べて「はるかに割高になる」。もっとも「トルコの貿易停止は問題だが、大惨事ではない」と言う。
イスラエルの主要自動車輸入業者2社によると、トヨタ自動車と現代自動車の一部車種がトルコの貿易禁止措置によってトルコの港に立ち往生している。トヨタ車の輸入業者のユニオンモーターズは、貿易禁止令で「カローラ」と「C―HR」の納車が影響を受け、解決策を模索しているという。
トルコから現代車を輸入しているコルモビルは一部モデルの発注を一時停止し、メーカーと解決策を検討していると説明した。
またイスラエル最大級の輸入業者ディプロマットは、さまざまな消費財について、トルコに代わる輸入元を探している。
政府関係者によると、イスラエルは品不足を回避するために現地生産を増やす計画。先週のイスラエル製造業者協会の調査によると、業者の80%がトルコ製の代替品を用意しており、60%が3カ月分の在庫を持っている。
イスラエル製造業者協会のロン・トマー会長は「トルコからの安価な輸入品に依存するようになってしまったが(中略)輸入品なしでも十分にやっていくことは可能だ。国家としては、敵対する国への依存をできる限り減らし、生産面の自立性を強化する必要がある」と強調した。
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