アングル:イスラエルの「限定的」対イラン反撃、背後に米政権必死の外交努力
ロイター / 2024年10月28日 14時37分
10月27日、 今月1日にイランからイスラエルへ多数の弾道ミサイルが飛来した数時間後、バイデン米政権はイスラエルに緊急のメッセージを送った。「とにかくいったん落ち着こう」と。写真は7月、ホワイトハウスで会談するバイデン米大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相(2024年 ロイター/Elizabeth Frantz)
Phil Stewart Humeyra Pamuk
[ワシントン 27日 ロイター] - 今月1日にイランからイスラエルへ多数の弾道ミサイルが飛来した数時間後、バイデン米政権はイスラエルに緊急のメッセージを送った。「とにかくいったん落ち着こう」と。
イランの攻撃は大規模で、イスラエル側が米軍の協力を得て効果的に迎撃していなければ、米国推計で数千人の死者が出ていた恐れがあった。もしイスラエルが迅速かつ強力な反撃に出れば、米大統領選直前に中東地域の全面戦争に拡大する恐れもあると、米政府高官らは懸念していた。だが、イスラエルには最適な反撃内容を決める時間的な主導権があった。
結果的にイスラエルが26日に行ったイランへの反撃は、米政府が当初懸念したよりも限定され、対象は軍事目標にとどまった。反撃までの3週間、全面戦争への発展を防ごうとバイデン政権が必死にイスラエルへ影響力を行使していたことが、米政府高官や元高官らの話で明らかになった。
イスラエルは26日、イランの重要な防空システムやミサイル生産施設を破壊したが、重要なのはイランの核開発施設やエネルギー関連インフラには手を出さなかったことだ。バイデン大統領の最重要要求2点を守った形だ。
米情報機関で中東地域の副責任者を務めたジョナサン・パニコフ氏は「米国の圧力が大きな意味を持った。バイデン政権が核ないしエネルギー施設を攻撃しないよう働きかけなければ、イスラエルの意思決定はかなり違った形になっただろう」と語った。
イスラエルのネタニヤフ首相は表向き、米国の圧力でイランのガス・石油施設攻撃を避けたとの見方を否定。「イスラエルは米国の指示ではなく国益に基づいて攻撃の標的を選んだ」と強調した。
<代替的選択肢>
ある米政府高官によると、バイデン政権がイスラエルとイランへの反撃について協議を始めた当初、イスラエル側の標的案にはイランの核施設や石油施設が含まれていた。
ただ米国側はイスラエルにその代わりとなる幾つかの「代替的選択肢」を提示。その中には、物理的な攻撃でイランの石油収入に打撃を与えたいと考えていたイスラエルを納得させる目的で、イランのいわゆる「影の船団」を対象とした制裁を発動することなどを伝えた。
実際に米政府は11日、イランの石油・石油化学に関連する団体や船舶に新たな制裁を科すと発表している。
この高官によると、イスラエルがイランに反撃をするのに先立って、米国はイスラエルの防空能力強化にも取り組み、イスラエルに米国の迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を配備するという異例の措置に動いた。
THAADの正式配備前に、米国はイスラエルの具体的な反撃計画を知りたがった。複数の米政府高官の話では、バイデン氏が9日にネタニヤフ氏へ電話をかけて、イランに対する反撃の内容を理解した上で、THAAD配備を認めたという。
独自の対イラン制裁強化のほか、欧州の同盟国にイラン航空への制裁を呼びかけるのと同時に、抑止力としてTHAAD配備を通じて米国のイスラエル支持を世界に見せつけることが、米政府が提示した「代替的選択肢」の柱だった。
複数の米政府高官は、こうした選択肢がイスラエルも希望しない中東での戦争拡大を招かず、イランを抑止して効果的な代償を支払わせる強力な手段になり続けると主張している。
<抑制的姿勢>
米軍がステルス戦略爆撃機「B-2」でイエメンの親イラン武装組織フーシ派の兵器保管施設を攻撃したことも、イランへのメッセージだというのが多くの専門家の見方だ。
オースティン米国防長官は、標的がどれだけ深い地下にあり、堅固に構築されていても、攻撃する能力があるという証明だと発言。イランが核兵器製造の道を選んだ場合、イスラエルは米国の攻撃力を当てにできる、というメッセージだった。
とはいえその時期は今ではなかった。
パニコフ氏は「ここで示唆されたのは、いずれイスラエルがイランの核施設破壊を決めた場合に米国の支援を望むならば、今回は抑制された態度を取らなければならない、ということだ」と述べた。
ブリンケン米国務長官は最近の中東訪問でアラブ諸国の外相に、米国とイスラエルの協議の結果、イスラエルによるイランへの反撃は軍事目標だけに限ることに落ち着いたと説明。イランは報復すべきでない述べ、そのメッセージがイランに届くことを期待した。
イスラエルのイラン攻撃が完了した27日時点では、両国とも事態をさらにエスカレートさせる意向は示していない。
ネタニヤフ氏は、空爆がイランの防空能力とミサイル生産に「手痛い打撃」を与えたと満足感を示した一方、イラン最高指導者のハメネイ師は、イスラエルによる攻撃の被害を過大視する必要はないと受け流した。
本当にこのままイスラエルとイランの対立が和らいでいくのか現時点では予想できない。それでも複数の米政府高官は、バイデン政権が4月に始まったイスラエルとイランによる直接攻撃の応酬という危機のサイクルに歯止めをかけるチャンスを生み出そうと懸命に努力してきた、と胸を張った。
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