焦点:米大統領選で空前の訴訟合戦、激戦州の勝敗も左右か
ロイター / 2020年9月29日 8時8分
9月24日、11月3日の米大統領選まで残り約40日となり、与党・共和党の現職トランプ大統領と野党・民主党候補のバイデン前副大統領の両陣営が、空前の訴訟合戦を展開している。写真はトランプ氏とバイデン氏それぞれの支持を訴えるサイン。バージニア州フェアファックスで18日撮影(2020年 ロイター/Al Drago)
[24日 ロイター] - 11月3日の米大統領選まで残り約40日となり、与党・共和党の現職トランプ大統領と野党・民主党候補のバイデン前副大統領の両陣営が、空前の訴訟合戦を展開している。双方とも、勝利の鍵を握るとみられる州での票集計ルールについて、自分たちに有利な方向に持って行くのが第一の狙いだ。
今回は新型コロナウイルスのパンデミックという要素があるため、本来なら取り立てて問題にならないはずの投票での署名や消印、郵便投票回収箱(ドロップボックス)の設置方法などで論争が起きた。トランプ氏が根拠を示さないまま郵便投票を批判、集配の遅れにつながりかねない郵政公社(USPS)の経費削減措置を打ち出したことも、訴訟に拍車を掛けている。
ロイターが各州と連邦レベルの裁判記録を調査したところ、22日段階で大統領選挙に関連した係争中の訴訟は200件を超える。また、こうした訴訟を分析しているロヨラ大学法科大学院のジャスティン・レビット教授によると、新型コロナを理由に提起された選挙関連訴訟は少なくとも250件に上る。
パンデミックの影響で、署名義務をはじめとするほんの小さなハードルが、選挙にとって大きな障害になる恐れが出てきている。ニューヨーク大学ブレナン司法センターで選挙権や選挙プログラムを専門に扱うミルナ・ペレス氏は「以前なら投票所にできる長蛇の列は選挙権の侵害や妨害とみなされたが、今は生死にかかわりかねない」と指摘する。
こうした中で民主党は、郵便投票の制限緩和を求めている。実際、有権者が投票所に出向いて感染するリスクを避けたいと考えているため、郵便投票を実施する動きは急拡大している。
バイデン氏陣営の広報担当者は「わが陣営は歴史上最大の有権者保護プログラムを策定し、選挙の円滑な運営を確保するとともに、トランプ氏による民主的なプロセスへの介入の企てに立ち向かう」とコメントした。
一方、共和党は、専門家が郵便投票で不正が発生する事例は極めて少ないと説明しているにもかかわらず、「違法な投票」を阻止すると息巻いている。トランプ氏陣営の顧問弁護士、マシュー・モーガン氏は「民主党は同時に投票するための選挙の仕組みをばらばらにしようとしており、今から11月、そしてそれ以降も、彼らがいかさまを続けることに疑問の余地はない」と述べた。
今月になって裁判所が下した幾つかの判決は、大半が上訴されそうだが、現時点では民主党側が勝利を手にした。ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ノースカロライナといったいわゆる激戦州では、11月3日の投票日当日までに送られた用紙であれば、選管当局はそれ以降に到着した分も、集計することができるようになった。
テキサス、ペンシルベニア、ミシガンの各州で争われている複数の訴訟は、これらの州の選挙結果に重大な影響を及ぼす可能性がある。
例えばペンシルベニア州の場合、同州の最高裁がドロップボックスの設置制限や遅れて到着した用紙を無効とすることを認めなかったため、共和党側は連邦最高裁に判断を求める意向だ。トランプ氏陣営は、この問題で別途、連邦裁判所に提訴する手続きも進めている。
また、テキサス州では、共和党のパクストン同州司法長官が大都市ヒューストンなどを含むハリス郡当局を訴え、全有権者に向けた不在者投票の申請書送付差し止めを裁判所に要請した。
共和党側が勝訴した訴訟もある。連邦控訴裁判所(高裁)はフロリダ州で以前に重い犯罪を犯したことのある数十万人の投票阻止につながる判断を下した。
テキサス州では体が不自由であるなど、妥当な理由がなくても郵便投票できる人は65歳以上の高齢者に限定するという司法の判断が示され、全ての有権者に郵便投票の権利を付与しようという民主党の出鼻はくじかれた。
<再び最高裁が判断も>
こうした猛烈な訴訟合戦は、11月3日の後にどんな展開が待っているかを予告している。つまり有効票の算定を巡って、新たな対立が起きてもおかしくない。
既に両陣営とも、弁護士軍団をそろえて準備万端の態勢だ。バイデン氏の陣営は、数百人の弁護士を抱え込むとともに、かつて合衆国訟務長官だったドナルド・ベリッリ氏やウォルター・デリンジャー氏、元司法長官のエリック・ホルダー氏などの大物を顧問に迎えた。
今年に入って左派グループのために多くの選挙関連訴訟をとりまとめてきたマーク・エリアス氏は、州ごとの有権者保護に専念するチームを率いている。
トランプ氏の陣営は、全有権者による郵便投票実施を計画しているネバダやニュージャージーなどの州に対して、異議を申し立てる訴えを起こした。
民主党内では、先日死去した連邦最高裁のリベラル派判事ギンズバーグ氏の後任を共和党が大統領選前に補充することに成功すれば、どんな訴訟も最終的に最高裁でトランプ氏が勝訴する事態になるのではないかとの懸念が出ている。
2000年の大統領選では、フロリダ州の再集計に連邦最高裁がストップをかけたことで、最終的に共和党のジョージ・W・ブッシュ氏が民主党のアル・ゴア氏に勝利した。
大統領選の結果を連邦最高裁が決したのはこれまで、この時しかない。トランプ氏は23日、大統領選の結果が結局最高裁の判断に委ねられるという自身の想定を理由に、ギンズバーグ氏の後任を就任させたいと明言した。
ただ、ロヨラ大学のレビット教授は、裁判官が証拠の裏付けがない異議申し立てを却下すると引き続き信じていると話す。「数百ドルと弁護士1人がいれば訴訟を起こせるし、それはしばしばメッセージを送る上で有効な手段になり得る」と指摘しながらも、究極のところ「世論という名の法廷には、証拠は必要でなくても、法の番人たちは証拠を要求するものだ」と語った。
(Joseph Ax記者)
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