情報BOX:ディープシークとは何か、テクノロジー界の秩序揺るがす脅威に
ロイター / 2025年1月28日 16時23分
Eduardo Baptista
[北京 27日 ロイター] - 中国の新興企業ディープシークが最新の人工知能(AI)モデルを発表した。同社によれば、米国の業界をリードするモデルと同等かそれ以上の性能を低コストで実現。テクノロジー界の秩序を揺るがす脅威となっている。
同社は先月、米エヌビディア製の比較的性能が低い半導体「H800」を用い、600万ドル以下相当のコンピューティングパワーでAIモデル「Ⅴ3」を訓練したと論文で明らかにし、世界的に注目を集めた。
Ⅴ3を搭載したディープシークのAIアシスタントは、アップルの米国アプリストアでチャットGPTを抜き無料アプリとしてトップになった。
これにより、一部の米ハイテク企業がAI投資に数十億ドル費やすという決断の根拠に疑念が生じ、エヌビディアを含む複数の大手ハイテク企業の株価が打撃を受けている。
ディープシークに関する情報を以下にまとめた。
<なぜ波紋を広げているのか>
2022年後半にオープンAIのチャットGPTがリリースされると、中国のテック企業はAIを搭載した独自のチャットボットをつくろうと躍起になった。
しかし、検索エンジン大手の百度(バイドゥ)が初の中国版チャットGPTをリリースした後、中国では米中企業間のAI能力の差に失望が広がった。
ディープシークのモデルの品質とコスト効率はこの見方をひっくり返した。シリコンバレー関係者や米ハイテク企業のエンジニアから称賛の声が上がっている2つのモデルⅤ3とR1について、オープンAIやメタの最先端モデルと同等レベルだとディープシークは主張している。
また、使用料も安い。ディープシークによると、先週リリースされたR1はタスクにもよるが、オープンAIの「o1」モデルより20─50分の1の値段で使用できる。
しかし、ディープシークの成功物語には懐疑的な意見もある。
スケールAIのアレクサンドル・ワン最高経営責任者(CEO)は23日、CNBCとのインタビューで、根拠を示さずにディープシークが5万個の「エヌビディアH100」チップを保有しているとし、これは先進AIチップを中国企業に販売することを禁止する米輸出規制に抵触するため公表されないだろうと語った。
ディープシークにこの主張についてコメントを求めたが、今のところ返答を得られていない。
バーンスタインのアナリストは27日のリサーチノートで、ディープシークのV3モデルの訓練に投じられた総費用は不明としつつ、同社がコンピューティングパワーに使用したとする558万ドルよりもはるかに大きいと強調。また、R1モデルの訓練コストも開示されていないと指摘した。
<背後にいるのは誰か?>
ディープシークは杭州に拠点を置く新興企業で、中国の企業記録によると、その支配株主はクオンツ運用を手がけるヘッジファンド「幻方(ハイフライヤー)」の共同創業者である梁文鋒氏となっている。
梁氏のファンドは23年3月、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の公式アカウントで「再出発」を発表し、トレーディングの枠を越えて「AGI(汎用人工知能)の本質を探求する、新しく独立した研究グループ」の創設に資源を集中させることを明らかにした。ディープシークは同年に設立された。
幻方がディープシークにいくら投資したかは分かっていない。企業記録によると、幻方はディープシークと同じビルにオフィスを構えており、AIモデルの訓練に使用されるチップクラスターに関する特許も所有している。
幻方のAI部門は22年7月、微信公式アカウントで、1万個の「A100」チップのクラスターを所有・運用していると明らかにした。
<中国政府はディープシークをどう見ているのか?>
ディープシークの成功はすでに中国政界でも注目されている。国営通信新華社によると、R1が一般公開された20日、創業者の梁氏は李強首相が主宰した非公開の実業家・専門家シンポジウムに出席した。
米輸出規制を克服し、AIのような戦略的産業で自足を達成するという当局の政策目標にとって、ディープシークの成功が重要である可能性を示している。
昨年開催された同様のシンポジウムには百度の李彦宏(ロビン・リー)CEOが出席している。
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