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アングル:インフレ加速で高まる社会不安、憂慮すべき5カ国

ロイター / 2022年7月29日 18時41分

 スリランカでは経済危機をめぐる抗議行動により政権が崩壊した。インフレの急激な進行に伴い世界各地で社会不安が高まる中、こうした例が今後続々と生じる可能性がある、とアナリストらは警告する。写真は6月、アルゼンチン中部サン・ニコラスで封鎖されたハイウェー。トラック運転手らがディーゼルの不足と価格高騰に抗議した(2022年 ロイター/Miguel Lo Bianco)

[ナイロビ 22日 トムソン・ロイター財団] - スリランカでは経済危機をめぐる抗議行動により政権が崩壊した。インフレの急激な進行に伴い世界各地で社会不安が高まる中、こうした例が今後続々と生じる可能性がある、とアナリストらは警告する。

国連によれば、ウクライナでの戦争をきっかけとする食料、燃料、肥料の価格高騰により、3月以降の3カ月間で、開発途上国の7000万人以上の住民が貧困状態に追いやられたという

より豊かな国でも家計は圧迫を感じつつある。世界経済フォーラム向けにイプソスが5月に実施した世論調査では、先進11カ国で、4人に1人が経済的困難に見舞われていることが明らかになった。

国連開発計画のアヒム・シュタイナー総裁は7月の声明で、「かつてない水準の物価上昇は、世界中の多くの人々にとって、昨日まで買えた食料が今日はもう手に入らないということを意味する」と指摘した。

スリランカでは、慢性的な外貨不足が手に負えないインフレをもたらし、物価上昇と生活必需品の不足に対する大規模な抗議行動が生じた。

英国やフランスからイランやギニアに至るまで、抗議行動やストライキの参加者は、少しでも生活コストの上昇に対応できるよう、賃上げと政府による給付金の増額を要求しており、対立と暴力が激化するリスクが高まっている。

データ分析会社ベリスクが作成する「社会不安指数」によれば、今年中に抗議行動が増加する可能性があるのは75カ国だ。

そのうち、憂慮すべき状況にある5カ国を見ていこう。

1.ハイチ

2021年7月のジョブネル・モイーズ大統領暗殺事件以降、ハイチの治安は悪化している。ただでさえ緊迫していた同国の政治状況はさらなる混迷に陥っている。

犯罪組織による暴力が激化する中で、今月に入って燃料不足に抗議するデモ参加者が首都ポルトープランスの街路を封鎖した。数十人の死者が発生し、近隣の地区では食料・水の供給が途絶えた。

ハイチ国民の約半数は食料不足に陥っており、飢餓状態も悪化しつつある。インフレ率が26%に達し、物価上昇と暴力の激化により、買い物や緊急支援物資の入手のために外出することも危険になっているからだ。

島国であるハイチは穀物の70%を輸入しており、グローバルな食料・燃料市場の混乱に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。

2.パキスタン

6月に21.3%にまで上昇したインフレにより、パキスタンは深刻な経済危機に直面している。同国では過去10年以上見られなかった高いインフレ率だ。

政府は財政赤字の膨脹を抑え込み、国際通貨基金(IMF)による救済計画を再開するために負担の大きい補助金を廃止したが、それを背景に、5月以降、燃料価格は約90%も上昇した。

6月には、野党が組織した全国規模のインフレ反対の抗議行動が行われた。

イムラン・カーン前首相が4月に失職した後、政治情勢は不安定なままである。カーン氏失職の背景には、インフレと政治腐敗に対する失望の広がり、また有力な軍部の信任を失ったとの観測があった。

スリランカと同様、パキスタンは燃料や食用油など必需品の多くを輸入に依存しているが、供給確保のための外貨準備高は十分とは言えない。

6月末時点でパキスタンの中央銀行が保有する外貨は、必要物資の輸入に換算して約6週間分相当にすぎなかった。

3.アルゼンチン

アルゼンチンでは今月、多数のデモ隊が大統領府の門を目指して行進し、インフレと膨大な国家債務を巡ってアルベルト・フェルナンデス大統領に対する抗議の声を挙げた。

アルゼンチンでは数十年にわたって繰り返し経済危機が発生してきたが、現在は、60%を超えるインフレ率、また天然ガス輸入コストの上昇に苦慮している。

アルゼンチンは今年に入りIMFと450億ドルの債務再編計画で合意したが、国民の多くはこの合意が貧困の増加につながると考えており、撤回を求めて街頭へと繰り出している。

そればかりか、ベリスク傘下でリスク分析を担当するベリスク・メープルクロフトによれば、連立与党内でも権力闘争があり、2023年の選挙に向けて激化が予想されるという。

リスクコンサルタント企業クライシス24によれば、経済不安とIMFとの合意への怒りから、来年にかけて抗議行動が発生する可能性が高いという。

4.チュニジア

ここ数カ月、多くのチュニジア国民がカイス・サイード大統領を批判するデモに参加している。同大統領は1年前に議会を停止して大統領令による統治を行っており、反政権派はこれをクーデターだと非難している。

北アフリカの小国であるチュニジアは、経済・財政上の危機に陥っており、ウクライナでの戦争により悪化した貧困と生活苦が広がる中、政府は救済措置を求めてIMFとの協議に入っている。

ベリスク・メープルクロフトのアナリストは、チュニジアは世界的な生活コストの高騰により最も深刻な打撃を受ける国の1つになりつつあり、市民による大規模暴動の可能性があるとの見方を示している。

他の多くの中東諸国と同様、チュニジアはロシアとウクライナからの穀物輸入に大きく依存しており、インフレ率は記録的水準となる8.1%に達している。

インフレにより抗議行動は活発になっており、その1つが6月に行われた国内最大の労働組合による全国規模のストライキだ。これは、IMFから40億ドルの融資を確保するための合意の一環として、賃金凍結と補助金削減を行うという政府の計画に反対するものだった。

5.ケニア

8月9日に大統領選挙・総選挙を控えるケニアでは、生活コストの危機的な高騰が緊張を高めている。小麦粉、食用油、ガソリンといった日用品の価格急騰により、インフレは過去5年で最高の8%近くに達している。

また東アフリカに位置するケニアは、過去40年以上で最悪の干ばつに見舞われており、飢餓が広がるとともに、コストのかさむ輸入食料への依存がさらに高まっている。

7月初めには、首都ナイロビで数百人が食料価格の際限のない上昇に抗議してデモ行進し、大統領選挙と総選挙のボイコットを呼びかけた。

ケニアの選挙では自分の民族によって投票先を決める人が多く、往々にして激しい対立と分断が生じる。民族コミュニティー間の暴力による選挙の混乱が見られることもある。

2007年の選挙では、衝突により1300人が死亡したと推定されている。国内には、今回の選挙結果を巡って対立が生じれば深刻な事態になるとの懸念もある。

(Nita Bhalla記者、翻訳:エァクレーレン)

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