焦点:ドル一段安か、鍵握る個人投資家 上値で過去最大の売り
ロイター / 2023年11月29日 16時10分
11月29日、外為市場で下げ足を早めているドル/円が一段安となるか、先行きを占ううえで、日本の個人投資家動向が改めて関心を呼んでいる。写真は1ドル紙幣。2022年2月撮影のイメージ写真(2023年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)
Shinji Kitamura
[東京 29日 ロイター] -
外為市場で下げ足を早めているドル/円が一段安となるか、先行きを占ううえで、日本の個人投資家動向が改めて関心を呼んでいる。ドルが歴史的高値圏にあった10月末に過去最大の売りポジションを構築していた個人が、いつ反対売買を本格化させるのか、タイミング次第でトレンド形成に影響を与える可能性が指摘されている。
<来年のテーマ先取り>
ドルは29日の東京時間で146円台まで下げ幅を拡大、2カ月半ぶり安値を更新した。33年ぶり高値目前だった今月半ばの151円後半から、半月足らずで5円を超える大幅安となった。
手がかりは米金利の急速な低下だ。タカ派で知られる米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事が利下げの可能性に言及したことなどもあり、10年債利回りはきょう、4.27%付近と2カ月ぶり低水準を付けた。
今月半ば時点では、ドル安は米国でクリスマス商戦が始まる感謝祭に向けた持ち高調整に過ぎない、とみる声が少なくなかった。しかし、米国債発行計画の下振れやハト派的とされた米連邦公開市場委員会(FOMC)、予想未達の米消費者物価指数(CPI)、中国のドル売り介入と、次々に積み上がるドル売り材料により、着実に上値を切り下げた。
そこに、大手金融機関が公表し始めた来年の市場見通しで、米景気のピークアウトと利下げ、ドル安を予想するものが相次いだ。「短期筋の間でテーマを先取りする動きが加速」(外銀トレーダー)するのに、時間はかからなかったという。
<2兆円超のドル売り/円買い>
このドル安局面で注目を集めたのが、対円で大きな存在感を示す個人投資家の動きだ。円安けん制発言を繰り返していた当局の円買い介入を先取りする形で、多くの個人が調整前からドル売りを膨らませていたのだ。
業界大手のトレイダーズ証券では、ドルが1年ぶり高値を付けた13日、顧客の売り注文が再び過去最大規模に達した。1998年のサービス開始以降で最大となった今月1日、日銀会合翌日でFOMCを控えたタイミングに迫るものだった。
「介入待ち」と称される巨額のドル売り/円買いに動いていたのは、同社顧客だけではない。金融先物取引業協会によると、店頭FX47社を通じた10月末時点のドル売り/円買いポジションは、差し引きで1兆6953億円の売り越しと、21年6月に記録した1兆0432億円を上回り、遡及可能な08年11月以降で最大を更新した。
個人向けFXの取引所を運営する東京金融取引所(TFX)でも、10月末時点のドル売り/円買いポジションは、差し引き27万2952枚の売り越しと、遡及可能な06年2月以降で最大を記録した。ドル151円で換算すると、4000億円超の売りが積み上がっていたことになる。
両者を合算した個人のドル売り規模は、およそ2.1兆円。東京外国為替市場委員会の最新調査では、1営業日平均のドル/円スポット市場の取引高は151円換算で11兆円強だった。個人の売りがかなりの規模だったことは、ほぼ間違いない。
<徐々に買い転換、大波はいつか>
円の歴史的安値を目前に介入の公算が高まったとはいえ、政策金利5%台のドルを売り建て、マイナス金利の円を買い仕掛けるのは、現在の市場で得策とは言い難い。例えば、レバレッジを最大の25倍にして100万ドルを売り建てると、値動きとは無関係に日々数万円の金利差損を負担し続ける必要がある。
それでも円の買い持ちが個人を魅了したのは、「入れば最低5円」とも言われる介入時の円急騰期待だ。大手証券の個人向け営業担当者は「最近は1日数兆円という大規模介入が当たり前となったことで、多少の金利差損が出ても、介入後の大きな動きで余りある利益を得ることが可能になった」と解説する。
ドルの高値圏で円が突然急伸する「介入騒ぎ」が頻発したことも、円買い気運を支える一因となった。「介入がなくても、円を買い持ちにしておけば突然急伸した際に利益が得られる。一度成功すると期待が高まって再び、では私も、とドル売りが広がっていった」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)という。
複数のFX会社によると、ドルが147円台へ下落した前週以降、特に短期売買を得意とする個人は売りを早々に手じまい、買いへ転じたという。利が乗った売り注文をまだ保持している個人が、いつ買いへ転換するのか、その規模がどこまで膨らむかは、来年のドル安を予想するプロの投資家にとっても重要なテーマとなりそうだ。
(基太村真司 編集:橋本浩)
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