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アングル:企業の保守的予想が株高抑制、上振れ「常連組」に期待

ロイター / 2024年5月29日 16時57分

 5月29日、日本株が伸び悩んでいる。企業決算で慎重な業績見通しが示されたことが意識されているが、期初の保守的な見通しは「恒例行事」でもある。写真は2022年12月、都内で撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Noriyuki Hirata

[東京 29日 ロイター] - 日本株が伸び悩んでいる。企業決算で慎重な業績見通しが示されたことが意識されているが、期初の保守的な見通しは「恒例行事」でもある。期中に予想を上方修正する中で株価を切り上げる銘柄も例年あることから、市場では上方修正の「常連組」銘柄を探る動きもある。

日経平均の市場予想EPS(一株当たり利益)と会社予想EPSは、年初から3月までは相関していた。それが3月以降は、市場予想のEPSが4%超上昇した一方、会社予想のEPSは同0.3%低下。両者の乖離が拡大していることから、決算シーズンに示された「会社側の予想が慎重な様子がうかがえる」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは指摘する。

井出氏が、TOPIX500構成銘柄のうち、各四半期末の9割以上で通期の会社予想を示している3月決算企業281社について過去10年のデータを集計したところ、中間期までに経常利益予想を上方修正した年が6回以上あった、いわば上方修正の「常連組」企業は2割弱となった。期末実績が期初予想を6回以上、上回った企業に範囲を広げると、約6割となる。

セクター別では、市況業種のエネルギー関連や海運などが目立つ。不確実性が高い企業ほど、期初予想を低く抑えがちとみられている。大手製造業グループの傘下企業などBtoB(企業間取引)が中心の企業も、期初に保守的な見通しを示す傾向がうかがえる。市場では、早くから良好な数字を示すと、顧客との価格交渉で不利になりかねないとの考えもありそうだとの見方が聞かれる。

日経平均銘柄の純利益合計の前期比では、今期初の会社予想が0.8%減なのに対し、市場予想は6.3%増で、こちらも乖離している。

過去を振り返ると、23年度期初の会社予想と市場予想はともに減益予想だったが、堅調な米経済が想定外に長期化する中、実績は増益となり、両予想を上回った。一方、22年度は期初の会社予想5.1%減、市場予想3.5%増のところ、実績は3.0%増となり市場予想に近かった。

会社予想が減益の半面、市場予想が増益の今期は22年度と類似している。同様の推移をたどるとの仮定に基づけば、今期は「5─6%増益程度への上振れはあり得そうだ」と井出氏はみている。米中経済の失速や急激な円高が、リスク要因になり得るという。

<保守的予想、「情報としての価値」>

一方、会社予想が過度に保守的な場合、 投資家にとって情報としての価値が低下しかねない。決算前に期待を織り込んで上昇した株価の反動安を招きやすいほか、先行きに会社予想の上方修正があれば見直し買いが入ることで、不必要にボラティリティが高まり得る。

「特に今年は、会社側の保守的な見通しの真意が読みにくい」と、りそなアセットマネジメントの戸田浩司ファンドマネージャーは語る。金利や為替がボラタイルな上、賃上げ機運が高まる中で、発表資料だけでは、業績への織り込み度合いなどが測りにくいためだという。

東証改革の機運が高まる中、株主還元の有無といったわかりやすい材料が加わったこともあって、決算発表を挟んで大型株でも10%程度の大きな値幅で上下する個別株があった。「中長期の投資家は手を出しにくく、短期筋が売買の中心になったためだろう」と、りそなAMの戸田氏は話す。今回の企業決算に対する中長期投資家の目線は、投資家による分析が一巡する6月ごろに定まってくるとの見方を示す。

企業は期中の下方修正を避けるべく、期初には実現可能と見込んだ業績水準の予想を示すところがあると東洋証券の大塚竜太ストラテジストはみている。会社予想が市場予想を下回ったことで投機マネーが売り崩しに動く場合、「むしろ買い場になり得る」と大塚氏は話す。

ニッセイ基礎研の井出氏は、予想の精度をできるだけ高めるよう、企業側の努力が必要だと指摘する。1年後の業績を誤差なく見通すことは困難と理解を示しながら「予想の根拠について、より詳細な説明を求めるなどの制度的な枠組みを考える余地はあるのではないか」と話している。

◎業種別の中間決算までの上方修正回数平均(過去10期)

順位 業種

1 エネルギー資源 5.0

2 自動車・輸送機 4.6

3 運輸・物流 4.4

4 電機・精密 4.3

5 銀行 3.9

6 食品 3.5

7 建設・資材 3.4

8 機械 3.4

9 鉄鋼・非鉄 3.4

10 医薬品 3.4

11 素材・化学 3.3

12 不動産 3.1

13 電力・ガス 2.8

14 金融(除く銀行) 2.4

15 商社・卸売 2.3

16 情報通信・サービスその他 2.2

17 小売 1.7

(出所)ニッセイ基礎研究所

◎中間決算までに経常利益予想の上方修正回数が多い企業(過去10期)

コード 企業名 中間決算ま うち期末ま 25年3月期

での上方修 での追加上

正回数 方修正回数

期初予想 LSEG予想 乖離率

(LSEG/

会社)

1812.T 鹿島              9 8 1,370 1647 20.2%

9744.T メイテックグループホールディングス 8 8 176 189 7.1%

1925.T 大和ハウス工業         8 7 3,600 3936 9.3%

9045.T 京阪ホールディングス      8 7 340 339 -0.3%

4183.T 三井化学            8 6 1,070 1125 5.1%

4507.T 塩野義製薬           8 6 2,000 1930 -3.5%

1801.T 大成建設            7 7 900 938 4.3%

6845.T アズビル            7 7 375 371 -1.2%

9042.T 阪急阪神ホールディングス    7 7 1,030 1094 6.2%

9531.T 東京ガス            7 7 1,110 1437 29.4%

5444.T 大和工業            7 6 770 799 3.8%

6762.T TDK             7 6 1,840 2162 17.5%

9706.T 日本空港ビルデング       7 6 243 299 23.0%

4021.T 日産化学            7 5 505 547 8.3%

4202.T ダイセル            7 5 670 717 7.0%

6981.T 村田製作所           7 5 3,130 3417 9.2%

(出所)ニッセイ基礎研究所調べとLSEGデータに基づきロイター作成。対象はTOPIX500構成銘柄のうち3月決算の企業で過去10年のデータのうち9割以上が取得できる企業。

◎4―6月期に経常利益の上方修正回数が多い企業(過去10期)

コード 企業名 4―6月期 うち中間決 25年3月期

の上方修正 算までの追

回数 加上方修正

回数

期初予想 LSEG予想 乖離率

(LSEG/

会社)

5444.T 大和工業 7 7 770 799 3.8%

7276.T 小糸製作所 6 2 635 719 13.2%

4183.T 三井化学 5 4 1,070 1,125 5.1%

6134.T FUJI 5 5 142 191 34.8%

9104.T 商船三井 5 3 2,300 2,396 4.2%

6724.T セイコーエプソン 5 3 680 802 17.9%

6902.T デンソー 5 3 7,720 7,769 0.6%

6954.T ファナック 5 1 1,494 1,885 26.2%

7267.T ホンダ 5 4 15,000 15,952 6.3%

(出所)ニッセイ基礎研究所調べとLSEGデータに基づきロイター作成。対象はTOPIX500構成銘柄のうち3月決算の企業で過去10年のデータのうち9割以上が取得できる企業。

(平田紀之 編集:橋本浩)

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