アングル:強まるハリス氏への差別的攻撃、共和党の選挙戦略に狂い
ロイター / 2024年7月29日 13時54分
7月27日、 米大統領選の民主党候補に指名される見通しになったハリス副大統領(写真)を、人種差別的、または女性差別的な言葉で「口撃」する動きが強まっている。マサチューセッツ中ウエストフィールドで同日代表撮影(2024年 ロイター)
Helen Coster Alexandra Ulmer David Morgan
[27日 ロイター] - 米大統領選の民主党候補に指名される見通しになったハリス副大統領を、人種差別的、または女性差別的な言葉で「口撃」する動きが強まっている。攻撃対象をハリス氏の政策に絞るという選挙戦略が崩れる上、トランプ氏が黒人有権者の支持を失いかねないとの警戒感が共和党内でも高まってきた。
トランプ氏はハリス氏を 「頭がおかしい」、「岩のように間抜け」と表現し、共和党議員は、ハリス氏が多様性を確保するためだけに採用されたと揶揄(やゆ)し、インターネット上では右派が同氏に対して人種差別的、女性差別的、性的な誹謗中傷を繰り広げている。
ハリス氏は女性初、そして黒人および南アジア系初の米副大統領だ。
トランプ氏を支持する共和党議員9人と黒人女性共和党員11人に取材したところ、8人がハリス氏への個人攻撃は避けるべきだと答えた。彼らの話しぶりは慎重で、トランプ氏への継続的な支持を強調するものの、何人かは猛攻撃が選挙戦で共和党に不利に働きかねないとの懸念を示した。
黒人保守派ラジオ番組の司会者であり、トランプ氏支持の黒人連合「ブラック・アメリカンズ・フォー・トランプ」のメンバーであるP・ライ・イーズリー氏は「個人攻撃を避けながら彼女を批判する方法はあると思う」と語った。
共和党のダスティ・ジョンソン下院議員は「私がハリス副大統領に反対するのは、彼女の属性ゆえではなく、彼女が行った事ゆえだ」と述べ、「このような醜態(個人攻撃)は偉大な国にふさわしくない」と続けた。
トランプ氏の陣営は、特に移民や犯罪、経済に関するバイデン大統領の実績とハリス氏を結びつけて批判しようと努めているが、衰えを見せない個人攻撃によってその努力がかすむ恐れがある。
共和党の世論調査員ウィット・エアーズ氏は、ハリス氏を 「DEI採用」だと攻撃するのは逆効果になりかねず、「息を飲むほど愚かだ」と語る。
DEIとは「diversity」(多様性)、「equity」(公平性)、「inclusion」(包摂性)の略で、労働力における女性や有色人種の割合を増やす取り組みだ。「DEI採用」という言葉は現在、能力がないのに人種や性別で採用されたことを示唆するために使われている。
エアーズ氏は、ハリス氏を蔑視する物言いは女性や 「極右でない人びと」を遠ざけるだろうと語った。
トランプ氏の陣営に、ハリス氏への個人攻撃を抑制する考えがあるかどうか尋ねたところ、直接的な回答は得られなかった。
修辞学の専門家や批評家、過去の世論調査によれば、トランプ氏の扇動的な話しぶりは、人種差別的な信念を持つ人びとを鼓舞し、差別的な発言へと向かわせてきた。
24日にノースカロライナ州で開かれた集会で、トランプ氏はハリス氏を性別や人種的な理由で追及しなかった代わりに、「彼女は急進左翼の狂人で、わが国を破壊するだろう」と述べた。
ハリス氏の広報担当サラフィナ・チティカ氏は、ハリス氏は自身の仕事に集中しているとした。「これらの攻撃は裏目に出ており、共和党員でさえそれを知っている」と語った。
<淫らな言葉で攻撃>
研究者やロイターがX(旧ツイッター)への投稿を調査したところ、ハリス氏に対するインターネット上の攻撃は、バイデン氏が21日に選挙戦撤退を表明する前から激化していた。
最近の投稿の中には、性行為に言及したり、ハリス氏の過去の交際相手を淫らな言葉で語ったり、さらには実子がいないことを理由に中傷する投稿もある。共和党の副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員が2021年、ハリス氏や他の民主党議員を 「子供のいない猫おばさんたち」と揶揄していたことに呼応するものだ。
<笑い方を中傷>
トランプ氏はハリス氏を「Laffin' Kamala(笑うカマラ)」と呼んで笑い方を嘲笑しているほか、バイデン氏の老化を国民から隠してきた「Lyin' Kamala(嘘つきカマラ)」だと主張している。
ラトガース大学のケリー・ディットマー教授(政治学)は「Laffin' Kamala」という呼び名は女性の声や感情にまつわるステレオタイプにつけこんでいるように見え、またアフリカ系米国人の発音をまねしようとしていると指摘する。
前出のラジオ番組司会者イーズリー氏はトランプ氏陣営に対し、人種差別のイメージをまとわず、黒人をもっと味方につけるような戦い方をするよう提言したと話す。
イーズリー氏を含む共和党の黒人女性らは、個人攻撃は好ましくないと語った。
他のトランプ氏支持者らも、同氏の攻撃が一部の有権者を遠ざける可能性があると警戒感を示した。
ジョージア州黒人共和党評議会のカミラ・ムーア議長は「トランプ氏の参謀らが彼を制してくれるよう期待している。長い目で見て痛い目に遭うかもしれないからだ」と語った。
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