焦点:新型コロナの局面変えるか、抗体検査に希望の光
ロイター / 2020年3月31日 8時38分
昼夜を問わず何千人もの新型コロナウイルス検査が米国で進む中、新しい血液検査が、このウイルスへの免疫を持つ人を発見できるチャンスをもたらそうとしている。写真は3月17日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのサラエボで撮影(2020年 ロイタ/Dado Ruvic)
Chad Terhune Allison Martell Julie Steenhuysen
[25日 ロイター] - 昼夜を問わず何千人もの新型コロナウイルス検査が米国で進む中、新しい血液検査が、このウイルスへの免疫を持つ人を発見できるチャンスをもたらそうとしている。感染を封じ込め、経済を正常な状態に戻すための闘いにおいて、これが局面を大きく変える可能性を秘めている。
複数の学術研究機関、医療関係企業が、こうした血液検査の開発を急いでいる。軽症・無症状の感染者が持つ抗体を迅速に特定できる。現在行われているような診断検査、つまり感染を確認するために鼻を綿棒でぬぐって検体を採取する、なかなか受けられない場合もある手法とは異なるものだ。
ニューヨーク市にあるマウント・サイナイ・アイカーン医科大学のフロリアン・クラマー教授(ワクチン学)は、「最終的には、こうした抗体検査が、誰がこの国を正常な状態に戻せるのかを突き止めるのに貢献するかもしれない」と語る。「いち早く通常の生活に戻り、すべてを再スタートさせられるのは、免疫を持った人だろう」
クラマー教授を中心とする研究者らは、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」に関する米国発の抗体検査の1つをすでに開発した。教授の研究室は、検査薬の主要成分を他の機関に配布し、検査手順を共有することに忙殺されているという。
教授は今週、患者から得られた検体の検査を始められるよう、研究成果を自大学の臨床研究所に持ち込んでいる。
抗体検査は、診断検査が当初直面したような官僚主義的なハードルに邪魔されることはないだろう。米食品医薬品局(FDA)は先月ルールを緩和し、体液を対象とする検査は、FDAにおる完全な検証・承認を経ずに商品化可能になっている。
カリフォルニア州のバイオメリカ
バイオメリカによれば、同社の検査キットの販売価格は10ドル以下で、すでに欧州・中東から発注を受けているという。ニューヨークのチェンビオ・ディアグノスティクス
こうした検査は比較的低コストで簡単であり、指先を針で刺して採取した血液を用いる。10─15分で結果が得られるものもある。診断検査よりもはるかに容易に、感染検査の範囲を拡大できる可能性がある。
研究者や感染症専門家によれば、この新型ウイルスに対する免疫がどれくらい持続するのか、検査の精度はどうか、どうやって検査を展開するのかといった問題は数多く残っているという。今のところ、ウイルスを撃退した人がどれくらいいるのかは分からない。
一部の公衆衛生の専門家や臨床医によれば、検査の範囲をもっと拡大していくのであれば、医療従事者や救急隊員が優先されるべきであるという。医療スタッフのなかで免疫が確認されれば、彼らは検疫の対象とならずに、急増の一途をたどる新型コロナウィルス患者の治療を続けることができるからだ。
ミネソタ大学医科大学院のアダムス・ダドリー教授は「もし自分がすでに感染し、治癒していたとすれば、できるだけ早く最前線に戻りたい」と話す。「その場合、私はある期間の免疫を備えた、実質的に疾病を阻止できる『コロナ・ブロッカー』になれるだろう」
<抗体検査は「非常に魅力的」>
ロックダウン(都市封鎖)により戦線離脱を強いられたその他の勤労者も職場に戻り、米国経済が切実に必要としている追い風を与えられる可能性が出てくる。大流行(パンデミック)が製造業を直撃するなかで、米国の失業給付申請件数は急増し、企業活動は記録的な水準で低迷している。
テネシー州にあるバンダービルト大学医科大学院のウィリアム・シャフナー教授(感染症学)は、企業、学校、プロスポーツチームはこうした検査に殺到するだろう、と言う。また、広範囲の検査サンプルに基づいて高いレベルの免疫が確認できれば、州知事や市長は自信を持って、活動制限を解除できるようになる、と同教授は言う。
「コスト効率が高く、入手しやすく簡単に使えれば、こうした検査キットは非常に魅力的になるだろう」
だが、カナダのトロントにあるサイナイ・ヘルス・システムの微生物研究者、トニー・マッズーリ氏は警鐘を鳴らす。ある人が非常に大量のウイルスに再曝露する場合、抗体が十分な防御になりうるかは不確実だという。たとえば緊急治療室、集中治療室といった場所では、そうした事態が起きかねない。
また同氏は、職場復帰や通常の生活に戻るタイミングも問題だと指摘する。人によっては、ウイルスに対する抗体を持っており、本人の症状は軽くなっていたとしても、まだ他人に感染させる恐れがある。マッズーリ氏によれば、患者の身体が抗体を作り始めるのはまだ病気が残っている段階であり、回復してからも数日間はウィルスを拡散し続ける。
そこでマッズーリ氏は、こうした職場復帰などを決める材料として抗体検査を使うことは「やや時期尚早」だろうと言う。「(抗体が)実際にウィルスへの防御となり、仕事に行くのも地下鉄に乗るのも何でもOKになる(略)ことが期待される。だがそこには何の保証もない」
一方、ミネソタ州ロチェスターのメイヨー・クリニック
この臨床試験の目的は、新型コロナに感染した患者で「セロコンバージョン」、抗体ができたことを血液検査で確認できるようになるタイミングを示すことだ。この情報は、抗体検査を実施する最適の時期を判断するうえで有用であろう。
メイヨー・クリニックの感染症血清学研究所のエリツァ・シール所長は、「偽陽性のリスクがあるから、早すぎるタイミングで抗体検査をやることは望ましくない」と話す。
メイヨーでは、中国の2社を含む複数の企業が開発した抗体検査の性能を評価中である。
米疾病予防管理センター(CDC)は、独自の抗体検査の開発に取り組んでいると述べているが、いつまでにという目標は示していない。CDCは大規模な研究を進めているという。CDCやその他の研究機関にとって課題となっているのは、抗体検査の結果を検証するために、すでに感染した人から十分な数の血液サンプルを集めることである。
今回の新型コロナウィルスの流行に際して、CDCは州・地方自治体の研究機関に欠陥ある診断検査を送付し、その改善に何週間も要したことで、強い批判を浴びた。連邦政府は今も診断検査の能力を拡大しようと努力している。
<免疫は数カ月か>
抗体検査の可能性が前面に出てくる一方で、トランプ米大統領は今後数週間のうちに、人が集まる機会を減らす「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」と「自宅待機」の勧告を緩和することを検討している。トランプ大統領支持派のあいだでは、こうした政策は米国経済に与える打撃が大きすぎると主張している。米国民の約半数が自宅待機を命じられており、多くの学校・企業が期間を定めずに閉鎖中だ。
24日、トランプ大統領は「復活祭(イースター)までには米国経済を再開したい」と述べた。
だが、さらなる感染拡大を引き起こす恐れなしに各種機関や企業の活動を再開することは難しい。国内の大半の地域で、新型コロを診断するための検査が不十分だからだ。
23日、ホワイトハウスの新型コロナウィルス対策特別チームのデボラ・バークス博士は、指先から血液を採取するシンプルな抗体検査が重要な役割を果たす可能性があり、連邦政府はCDC版の抗体検査の完成を待つつもりはない、と述べた。
バークス博士は23日のホワイトハウスにおける記者会見で、「すでに開発されたものもいくつかある。シンガポールで使われているものにも注目している」と述べた、「品質を非常に重視している。偽陽性は好ましくない」
この場合の「偽陽性」とは、実際には免疫がないのに「ある」という結論に至りかねない誤判定を言う。
「ストレイツ・タイムズ」紙の報道によれば、米デューク大学とシンガポール国立大学(NUS)の提携によるデュークNUSメディカルスクールの研究者らは、約90%の精度を示す抗体検査を迅速に開発し、その後、さらに信頼性の高い高度なバージョンを導入したという。
感染症の専門家は、2003年に出現したSARS(重症急性呼吸器症候群)など他のコロナウィルスに関する研究を参考に、COVID-19に対する免疫は数ヶ月、あるいは1年以上維持されるのではないかと話している。ただし彼らは、COVID-19に関して免疫がどれくらい続くのか正確に知る方法はなく、個人差もありうるだろうと警告している。
アイオワ大学教授のスタンリー・パールマン博士(微生物学・免疫学)は「数ヶ月は免疫が維持されるかもしれない」と言う。「だが正直なところ分からない。これは非常に重要な問題だ」
パールマン博士は、現在市場に登場しつつある新たな抗体検査の多くは、非常に効果的かもしれないが、研究者らはそれを裏付けるためにデータを見たがっていると話す。
「すでに感染した人を全員見つけられるくらい感度が高いことが望ましい」とパールマン博士は言う。「だが、他のコロナウィルスまで検知してしまうような手当たり次第のものは困る」
(翻訳:エァクレーレン)
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